【農業】フランスの家族農業経営

こんにちは。新小樽少年です。
今回で連載も第9回を迎えます。今回はフランスです。
ヨーロッパと言えば乳製品が有名だと思います。今回の記事はフランス・ブルターニュ地方を中心に、その農業経営を説明します。

そして前回深く言及することができなかったEUの「生乳生産クオータ制」の廃止が、農業経営帯にいかに影響を与えたのか、それにどのように対応しているのかを考察していきたいと思います。

フランス・ブルターニュ地方の酪農

ブルターニュ地方は畜産経営が集中しており、ローカル規模でもグローバル規模でも、サプライチェーンの中枢にある。

画像1

(引用:Wikipedia「ブルターニュ地域圏」

ブルターニュ地方は酪農に適した気候と、広大な牧草地により酪農が発展した。

近年は欧州各国にみられるように酪農経営数が減少傾向にある。2000年には1万5,000近くあった経営体は2017年には8,630にまで減っている。これに加え、農業労働力数(以下、UTA)は2000年の2万5,801UTAから1万5,030UTAに減少。

これに対し、農業共同経営集団(GAEC)や農業有限会社(EARL)など、法人化した酪農経営体増加傾向にある。これは農業の工業化が背景としてあることを示唆しているように思える。また常雇用者数621単位から1,020単位に増加、農作業委託や農業機械共同利用組合の利用数も2000年の785単位から2017年には1,000単位へと増加傾向にある。

(農業の協働は農業の工業化へのオルタナティブとしてメジャーなのかもしれない。ただ困ったときに協力するというのはあまりにも普通のことのように思える。)

生乳生産クオータ制の廃止

生乳生産クオータ制については前回の記事でも多少触れたが、その具体性には言及していない。「生乳生産クオータ制」とは生乳生産調整政策のことであり、条件不利地域に助成金を提供し、生乳の需給調整生乳の価格低迷抑止の機能をなしてきた。

亀岡(2015)によれば、この制度の廃止には輸出量、輸出額の増加という背景から、酪農部門の市場主義へと移行する狙いがある。つまり酪農家に対して、交渉力やその価格・生産量調整といったことに直面させ、酪農家個人としての力を強める目的がある。

ただし所得面からすると、農家には重い負担である。

農民連盟の主張

農民連盟は農民団体の1つである。農民団体はクオータ制の廃止とCAP改革が酪農経営の所得向上につながらず、むしろ経営の再編と離農をもたらしたと主張している。

クオータ制の廃止は、新自由主義農政の証左であるとして反対。その理由は①乳製品が第3国にダンピング輸出されたこと、②生乳生産や加工部門が集中したこと(酪農家の経営範囲外に所得が落ちるような構造)、③酪農経営の減少を招いたこと、④公的介入が不十分だったこと、⑤酪農への新規就農に結びつかないこと、⑥農地価格が上昇してしまったためである。

農民連盟はフランス酪農の将来像として、「農民の存続」と「食料主権」を主に掲げている。そのためには酪農生産のコントロール、所得や農地割合に見合った直接支払い政府の積極的な介入が求められている。

酪農家族経営のオルタナティブな対応

今日の生乳価格は労働報酬を大幅に下回っており、生乳メーカーは生産者価格の上昇には答えないとしている。このような問題にフランス酪農家はどのように対応しているのだろうか。

①草地型酪農システム
これは自然・生態系システムを重視した酪農方法であり、農村振興や自然環境面だけのメリットではなく、経営上のメリットも存在する。

画像2

上の図から草地型酪農は1人当たりの生産額は低いが、1人当たりの付加価値、粗利益は高いと分かる。それゆえ草地型酪農の経営的優位性がうかがえる。

②持続可能な農業ネットワーク
「持続可能な農業ネットワーク」(以下、RAD)とはフランスの農業組織である。RADは化学肥料や農薬の使用が環境に負荷をかける農業に対し、持続可能な生産システムを導入するため発足された。RADの会員酪農家のうち、草地型酪農に取り組むことで経営収支が改善された農家は多い。

これに取り組んだ酪農家の事例としては、1頭当たりの平均搾乳量は5,000リットルだった。これはブルターニュ地方の平均以下の量である。またこの酪農家の経営面積は31ha、飼養乳頭数は33頭である。しかし販売額に対する粗経営余剰は72%と高く、1人当たりの年間可処分所得も3万3,500ユーロと高い。これは上の図を裏付けているといえる。

まとめ

EUの「生乳生産クオータ制」の廃止が、農業経営帯にいかに影響を与えたのか、それにどのように対応しているのかをみてきた。

生乳生産クオータ制は新自由主義によって廃止され、その結果、離農や新規就農者の減少に結びついている。にもかかわらず、フランス政府の介入は消極的であった。

フランスの小規模酪農家は、草地型酪農の実践、小さな農業団体やコミュニティを形成することで問題に取り組むという姿勢はドイツやイギリスと似ているように思える。

私自身の疑問は、草地型酪農の経営上の優位性という点にあり、これが果たして本当に優位性があるのかということだ。データや理論上は高い収益性を示しているかもしれないが、それ以外のコスト(労働時間や地代など)が考慮されているのか。その上で優位と言っているのかがとても気になった。

新小樽少年

関連記事


参考文献・HP

この記事は『村田武「新自由主義グローバリズムと家族農業経営』筑波書房、2019年を参考にして書いています。
石月義訓(2019)「第8章フランス・ブルターニュ地方にみる家族農業経営」
p239-256

亀岡鉱平「EU生乳クオータ制度の廃止と対応策」、農林中金総合研究所、農林金融2015・9、p19-31

中野貴史「EU、生乳クオータ制度の終了」、農畜産業振興機構、 平成27年3月31日発(2020.04.01 online)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?