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創作大賞2022応募作品 「立てこもり」 解説・プロローグ

解説

  敬老の日に、首相官邸を占拠し総理大臣と防衛大臣を人質に立てこもった老人山下大輔たち七人は、金ではなくベーシックインカム導入などの書かれた試案に対する政府の対案を要求し、試案と対案を国民に示し民意を問えと要求してきた。
 対策本部の交渉班班長山口正義は、犯人の要求に戸惑いながらも事件解決に向け交渉を開始する。一方官邸から締め出された格好になった総理大臣官邸警備隊や、応援に駆けつけた機動隊が突入の機会を伺っていた。

 2015年に執筆した小説です。原稿用紙260枚で中編いや長編になるかもしれません。再度見直し(推敲)はしていますが、2015年当時のまま消費税も8%としております。その当時と消費税が10%に増税された今と、状況は酷似しております。更に新型コロナにより、執筆した当時より日本は酷くなっているかも知れません。時間もない関係で、あえて当時のままで創作大賞に応募することにしました。『歴史は繰り返す』ということです。政府は、いつまで失敗を認めず、同じ過ちを繰り返すのでしょうか。野党にしても、どこまで国民を向いているか疑問です

 私のライフワークである、ベーシックインカムを登場させています。

本文

プロローグ

 消費税が8%に増税されたが、社会保障の充実どころか、返って社会保障は後退を余儀なくされた。政府の約束は、誰が見ても反故にされた格好になった。それとは裏腹に、東京オリンピックにかこつけた箱物が野放図に計画され、建設されようとしていた。
 普段なら税金の無駄使いと批判されるところだが、この建物はこれからのスポーツ振興に必要だ。という理由があれば、多少無理があっても建物を建設できる環境となった。さらに、常識外れの費用を湯水のようにつぎ込もうとしていた。

 消費税増税前の駆け込み需要の影響で景気は落ち込み、未だ回復の兆しも見えていない。第三の矢と言っても、具体的な方策を示せず何の見識も覚悟もない政府に、○○ミクスは失速すると危惧され始めた。
 消費税増税でインフレのように支出は増加し、景気は思うほど回復していない。円安株高で輸入業者や一部の大企業だけしか恩恵にあずかれない格好になった。日本は、これまで以上に収入の格差が広がり始めた。特に、アルバイトやパートそれに派遣といった底辺の人たちの生活は、苦しくなる一方だった。以前問題になった派遣切りも、景気が回復しない今徐々に増える傾向になった。

 例を挙げれば、最低賃金の時給860円で一日六時間~七時間、週五日働いても、年収二百万以下の低所得者になる。他にも生活保護以下の収入しかない求人が増え、他に選択肢のない人は低賃金で働くほか生きる道は残されていなかった。
 一方、生活保護受給者は、不正受給の問題は別にして、働いても生活保護以上の収入を得るのは困難になり、働く意欲を無くしていった。働くより働かないで生活保護をもらった方が生活が楽だという矛盾はそのまま残されていた。当然、生活保護受給者は増加し大問題となってきた。
 誰が見ても生活保護ではなく、働いても生活保護以下の収入しか得られない方がおかしいと思うはずだ。それでも働こうとする人たちは、少しの控除があるとはいえ収入分の殆どが生活保護より差し引かれる。生活費は、あまり変わらず生活するのが精一杯のまま何も変わらない。結局生活保護から、脱却できないでいた。財源が逼迫するという理由で、生活保護の保護費をさらに削減し生活保護の審査を厳しくしようとする動きが政府で出始めた。内閣の支持率は急落した。

 そんな時に事件は起こった。

  その日は、日曜と秋分の日の水曜に挟まれた月曜日の敬老の日だった。土曜から休日の会社では、五連休の真ん中の三日目の夜であった。日本の置かれている立場や、自分たちの厳しくなってきている生活を庶民は株価や景気からではなく肌で感じていた。
 せめて束の間の連休を楽しもうとしている人たちの中で、日本の未来を見据えた危機と危機を回避できるかもしれない試案を、国民たちに知らしめようとしている一団が総理官邸にいた。それも、犯罪という形で…。
  彼らは午後七時ごろから、官邸の四階と五階の照明を全て点けてカーテンやブラインドを全て閉め、官邸の内部が見えないようにしていた。防火シャッターは全部閉められており、鍵がかかる扉には全て鍵がかけられていた。

 捜査本部は、犯人の周到さに舌を巻いた。官邸のすべての扉が閉められて鍵がかけられていることは予想できた。これでは犯人たちがどこにいるかも判然としない。強行突入するにも、時間が掛かり犯人が察知したり抵抗した場合は、人質の命の危険が予想された。
 捜査本部は、突入する前に犯人とコンタクトを取り要求を聞くしかないと結論づけた。最初のコンタクトは、総理の執務室に電話をすることだった。コンタクトは七時半から行われ、数回の架電(電話をかけること)の末七時四十五分頃に成功した。犯人は、午後十時に要求を伝えると伝えてそのまま電話を切った。捜査本部は、電話が入電する手はずを整えた。しかし、何故十時なのか? 捜査本部は、困惑しながらもその時を待つしかなかった。

目次
1.9月21日(敬老の日) 22:00

2.9月21日22:10
3.9月21日22:30
4.9月21日22:40


5.9月21日22:55
6.9月21日23:00


7.9月21日23:30
8.9月21日23:50


9.9月22日00:05

10.9月22日00:20
11.9月21日00:25


12.9月22日01:40

13.9月23日14:00

エピローグ


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