虐待犬ナツ 〜幸せな犬生へ〜
人からの虐待を受け、完全に心を閉ざしてしまった犬にアナタの人生の最後を看取ってもらえたら人として、どんな気持ちになれるんだろうか?
第三話
半年以上経ってもナツの状況は変わらなかった。
佳子は2年前の事を思いだした。
虐待を受け、深夜に動物病院の前に捨てられた、まだ子犬の柴犬の事だ。両耳は切断され、片方の目は失明していた。この子もナツと同じく病院で治療を受けカタツムリ保護センターで生活をしていた。この子の将来が幸せになるようにと佳子はこの子をハッピーと名付けた。
山岸佳子「ハッピーご飯の時間だよぉ!今日も一杯食べようね。」
佳子と保護センターのみんなはハッピーを一生懸命に保護し幸せな犬生を送れるように世話をしていた。
しかし、ハッピーは保護センターにきて半年後に亡くなってしまった。この半年間でハッピーは心を開いてくれる事はなく孤独なままあの世へ行ってしまったのだ。
こんな経験をしているからこそ、ナツには絶対に幸せな犬生を送っていってもらいたい。どんだけナツが心を開いてくれなくても、佳子は諦めなかった。
カタツムリ保護センターでは、毎月1回だけ里親探しのイベントを開催していた。イベントには遠方から来てくれる人や近所の人達などでいつも賑わっていた。
元気な子犬などはすぐに里親が見つかってくれるが老犬になってしまった犬や人に懐かない犬などはなかなか里親が見つかる事はなかった。
このイベントにナツは参加させる事はまだなかった。人目につきにくい端っこの方で日向ぼっこさせ人混みに徐々に慣れていくようにしていた。
山岸佳子「こんなに人来たらビックリしちゃうね!けどいつかナツも心優しい飼い主さんが見つかってくれるといいね!」
こんな2人の元へ子供連れの家族がやってきた。
車椅子に乗った少女がナツを指さして言った。
少女「ママこの犬ずっと寝てるよ。眠いのかな」
山岸佳子「この子はナツっていうんだよ!人見知りで恥ずかしがり屋さんだから、みんなの方見れないんだよ!」
少女「えーそうなんだ。私と同じ名前だ!!ナツの顔見てみたいなぁ、」
山岸佳子「名前同じなんだね!!この子は夏頃にこのセンターに来たからナツって名付けたんだよ。」
母親「ワンちゃん恥ずかしがってるんだから、そっとしておいてあげようね」
少女「ナツ、またね」
山岸佳子「また来てね!今度来た時はナツと遊べるようになってたらいいね。ありがとうね!」
車椅子の少女はバイバイと手を振りながら帰って行った。
この日は5組の里親が見つかった。
いつか必ずナツにも里親が見つかる日が来る。佳子は心の中で願っていた。
この月のイベントから毎月、車椅子の少女「奈津」の家族は参加してくれていた。
来た時には必ずナツの元へやってきて、
奈津「今日もナツは見てくれないなぁ、早く私の事覚えてくれないかなぁ」
山岸佳子「見てくれていないけど、毎回来てくれてるからきっとナツは分かってくれてるはずだよ!」
奈津「私も歩けるようになったら、ナツと散歩してもいい??」
山岸佳子「もちろん。2人とも元気になれるように頑張ろう!」
この少女と出会った時ぐらいからだろうか、徐々にではあったがナツは佳子を少し見るようになり、餌も食べるようになってきていた。
山岸佳子「ナツ、だいぶ元気になってきたね!あとは立ち上がれるように頑張っていこうね!」
こんな日々が1年近く続き、立ち上がる事はなかったが徐々に体重も戻っていっていた。
奈津「おはようナツ!」
ナツは奈津の声に反応し見るようになっていた!
山岸佳子「奈津ちゃんの事見るようになってきたね!!毎回来てくれてるから心開いてきたんだ!」
奈津「嬉しい!早くナツと散歩してみたいなぁ。」
山岸佳子「そうだね。ナツも起き上がって2人で散歩出来たらいいね!」
奈津「ナツはうちで飼えないの?ママいいでしょ?」
母親「何言ってるのよ。見に行くだけって言ってるでしょ。」
山岸佳子「!!!そうですよね、奈津ちゃん、まだナツはセンターを離れて一般家庭で過ごすには難しいところがあるの。もうちょっと待っててね」
奈津「ナツと一緒にいたいなぁ」
山岸佳子「奈津ちゃん、ありがとう。また来てね!」
佳子は凄い嬉しかった。いつかナツをあの家族にしてあげたい、ナツにはもう一度、人間と家族になる時がやってくる。そう思った。
第四話に続く
最後まで見て頂いて本当にありがとうございます! 皆さんに喜んで頂ける物語を今後も頑張って作っていきたいと思います!宜しくお願いします