【詩】子どもの作文
慰霊碑になんか入るかいや
わしら、おやじの墓があるんじゃけ、と
おじいちゃんは言いました
慰霊祭なんか、行くかいやの
政治とデモばっかりじゃ、
とも、おじいちゃんは言いました
そうして、おじいちゃんはこっそりと
八月六日の朝の暗がり
音も立てずに公園のすみっこの場所に向かいます
原爆が落ちたところが公園でまだよかったね
その言葉を聞いてしまって
おじいちゃんは、必ず習慣のようにそうします
おじいちゃんの友だちの家がかつてはあって
(子どもすぎて、見つけようとも思えなかった)
それなのに、公園でよかったと言われてしまった
とてつもなく長い時間手を合わせ
それから帰って、夏なのに
繭のように、まるくまるくちぢんで寝ます
おじいちゃんが、お腹に抱くのは何なのか
死んでから、おじいちゃんは家の墓に入ったけれど
慰霊碑には、おじいちゃんの名がちゃんとあります
そこには名前が多すぎる
死んでからも、友だちの名を探しています
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松下育男さんの「詩の通信教室」に2021年から参加しています。コツコツと続けるうちに、どうしても「広島」をテーマに詩を書きたいと思うようになりました。私は広島出身です。
思い切って最初に書いたのが2023年2月。「子どもの作文」は4作目で、2023年5月に提出しています。この作品については、松下育男さんにnoteなどで丁寧に紹介していただきました。本当にありがたく思います。
その後も一連のテーマで毎月一編ずつ書いています。「広島」がきっかけとはいえ、テーマは実は「広島」に限ってはいません。書きながら考えているのは、経験と記憶、語りと継承、時に誤解、他者への思いといったことです。もともとナラティブや社会史に興味があったのです。
最近、いろいろな方にお会いする機会がありました。そして、記憶のこと、語りや継承のことを、改めて考えるようになりました。
松下育男さんの評でいただいた「体験とは、いつでもひとまとめに束ねられるものではなく、常に個別に語られるべきものなのだと思う」は、私にとってとても大切な言葉です。
その言葉を忘れずに、詩だけでなく、生きていくことそのものに向かい合っていければと思っています。
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