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Furui Riho @LIQUIDROOM(20240114)

 破顔と喜悦に満ちた、さらなる高みへと紡ぐステージ。

 バンドによるイントロダクションを経て、暗転から一転、明るいライトに照らされて、(自身は“好きじゃない”ようだが)丸顔をクシャッとさせた愛らしい微笑みと輝かしい瞳で「Purpose」を口ずさむ姿を見た瞬間に、このライヴが充足に満ちたものになると感覚的に分かった人も少なくなかったのではないだろうか。ライヴでは初となるフルバンドを従えたステージとなった恵比寿・リキッドルームのフロアには、ゴスペル、ソウル、R&B、ロック、ヒップホップなどのさまざまなアクセントとともに生まれた高揚するグルーヴがうねり、ハートウォームなヴァイブスに包まれた多幸感が支配していった。

 12月9日の大阪を皮切りに、名古屋、札幌、福岡を経て行なわれたFurui Rihoの5大都市ツアー〈Furui Riho Live Tour -CHIT CHAT-〉のファイナル公演が、1月14日に東京・恵比寿リキッドルームにて開催。昨年5月にも同会場にてライヴが行なわれたが(記事→「Furui Riho @LIQUIDROOM(20230507)」)、開演前はその時以上の熱気が渦巻いていたようにも感じた。ツアー5公演すべてソールドアウトは、Furui Rihoへの期待感の表われそのものだ。

〈Furui Riho Live Tour -CHIT CHAT-〉

 「PSYCHO」「ウソモホント」と歌い終えて、開口一番「リキッドルーム……ちょっと小さいよね」と満員御礼で満たされたフロアの光景を見渡しながら、その熱を実感すると、「このなかに5公演全部来た人いますか」の問いかけを。反応がないとみるや「さすがにいないか、ちょっとうぬぼれた(笑)」と恥ずかしがった後、4回公演を観たファンが名古屋公演が良かったという答えを受けて、「名古屋に負けじと、東京を一番にしてみませんか!」と煽って、既にヴォルテージが高まっているフロアのギアをさらに上昇させていく。

 大阪から福岡までの4公演は12月中に行なわれたということもあって、ところどころにクリスマス・シーズンを想起させるアレンジや構成がなされていたのが特徴的。冒頭のゴスペル調コーラスが響くイントロで始まった「purpose」もそうだが、前半の「Candle Light」から「ABCでガッチャン」までの流れは、特にそれが顕著に。「Candle Light」は失恋からの自身の幸せを願ったラヴソングだが、冒頭からホッとした安堵感が漂うグルーヴは、ほんのりとゴスペルが持つホープフルな彩りを散りばめていて、Furui Rihoから発露されるハートウォームなヴァイブスは、オーディエンスを心地よく揺らしていた。そのヴァイブスを受け継ぐかのような「Do What Makes Me Happy」もタイトルよろしく、オーディエンスの心と優しく朗らかに触れ合うようなハピネスでステージを含めたフロアの一体感を創り上げていったように感じた。

 ファイナルとなる東京公演のみ1月で、時期も過ぎているし、当初はやるつもりはなかったが、「(各公演で)盛り上がっちゃったから、1月だけどやってもいいですか」とのことで披露された「サイレント・ナイト」(きよしこの夜)では、ライヴ恒例のスペシャル企画を。まずは厳かで清らかなア・カペラによる「サイレント・ナイト」で静謐な空間を四方に澄み渡らせると、直後にその空気を一転させて、祝祭感を湛えた「サイレント・ナイト・リミックス・2024」からは“みんなで一緒に歌おうよのコーナー”へ突入。会場を左右二手に分け、“ラララーラララーラー”と“サイレンナイッ、ホーリーナイッ”というパートによるコール&レスポンスで、さらにフロアを一体化させていく(歌うことを躊躇っている人たちのために、バンドの男性陣たちとともに叫ぶ“ヘーイ”というパートも)。ファンとともに歌を通じて楽しみたいというFurui Rihoの気持ちと、彼女の一挙手一投足を共感したいというファンのそれが寄り添い、具現化したジョイフルな光景を描き上げると、それに続く「ABCでガッチャン」は、特にクリスマス・ソングでもないが、鍵盤の音色やコードが(ゴスペルに用いられる)オルガンにも似た温かみがあったり、“クリスマスもバレンタインも”という歌詞もあって、クリスマス・モード企画に遜色ない曲構成にもなっていた。

 スムーズな曲構成やFurui Rihoの朗らかで、また時にソウルフルだったり、エッジを効かせたスリリングな表情をより引き出していたのが、ツアーでは初だとなるというフルバンドのメンバーたち。盟友の“ぶーちゃん”こと(パーカーの着こなしなどVaundy感ある?)バンドマスターのハナブサユウキを筆頭に、時にステージのセンターへ出てロッキンなギターを爪弾いた坂本遥、昨年5月のリキッドルーム公演でも叩いた(ルックスが初期ジョン・レジェンド感ある)ドラムの守真人に、新メンバーとして「青信号」や「ウソモホント」でベースを務めた小林修己が加わった。原曲を派手にするということではなくて、スペシャルコーナーなどのセクション毎に、クリスマスを想起させるジョイフルなテイストだったり、前半の「PSYCHO」「ウソモホント」では小刻みに変わるライティングや発色の演出効果とともに、刺激的なサウンドを“音量の大きさではない”インパクトで魅せるなど、Furui Rihoを歌い泳がせることを第一としたアレンジで興奮を高めていったのは、気心が知れて、音楽性の共通理解が深い間柄ゆえだろう。そのシンパシーは「(リハーサルなどでバンドの音を体感して)これが私の求めてた音だ! と実感して泣いちゃった」というFurui Rihoの言葉に集約されていたように思う。

 さらに、個人的に観たのは2021年12月のWWW公演(記事→「Furui Riho @WWW」)以来となるFurui Rihoのリアル妹“まあちゃん”がコーラスで参加。前述の「サイレント・ナイト・リミックス・2024」でのチーム分けの際に、Furui Rihoは自身より妹の方が歓声が大きかったことに可愛くジェラシーを発していたが、当然のことながら、アイコンタクトを取っても、取らずとも、実の姉妹ならではの呼吸と寄り添いで、美しい声色のレイヤーを重ねていたのは、言うまでもない。

 人それぞれでいいんだと問いかけた「でこぼこ」や、ハナブサユウキのソウルマナーの鍵盤ソロからの「嫌い」といったしっとりと聴かせる楽曲も汲み入れた後は、ステージがピンクに照らされるなかで「ピンクの髪」へ。この日は細めのストリート風の三つ編みを垂らしたヘアスタイルでミュージック・ヴィデオのようなピンク感はそれほど感じなかったが、水色のロングTシャツと白のパンツスタイルに映える、肩からかけたピンクと赤のボーダーのマフラーで“ピンク”を強調。小柄な彼女が両サイドにある踏み台へ昇って、高みから煽り、オーディエンスとともに“ソリ、バター、ラマ、ヘ!”(Sorry, but I love my hair)のフレーズを歌う姿には、ライヴを共有することの悦びや快感を浴びているかのような破顔した表情に満ち溢れていた。直後にバンドメンバーに目を遣ると、Furui Rihoに負けず劣らずの笑みや充実感に浸った表情で演奏に耽り、愉悦に浸っていた感じが垣間見えた気もした。

 Shin Sakiuraに客演した「n.o.y.b」(タイトルは英語で「余計なお世話」を意味する”None of your business”の頭文字から)の後は、来日中のブルーノ・マーズの公演を観賞して感化され、「ブルーノ・マーズならぬ“フルイノ・マーズ”が降臨している感じ」と茶目っ気たっぷりに語りながら、このステージの充実感を表現する一幕も。

 終盤は「Super Star」「We are」とFurui Rihoの伸びやかかつソウルフルなヴォーカルが映えるアクティヴなポップ・グルーヴで加速度をつけていくと、次が最後の曲とアナウンス。オーディエンスからクラップの波が押し寄せてFurui Rihoを纏っていくと、「泣かせないでよ~」と反応。それでも「泣かないよ! Zepp行ったら泣くって決めてるんだ!」と決意を示す場面も。音楽をやっている理由を「有名になりたいとか、歌を見せたいとかではなく、みんなと一緒に繋がって、音楽で愛を届け合ったりすることなんだ」とファンへの感謝を伝えて、本編ラストの「I'm free」へ。グッときたところを堪えたような場面もありながら、オーディエンスのクラップの後押しを受けて、この日随一とも思える感情の襞から解き放たれた美しく伸びやかなファルセットやフェイクで締めくくった。

 暗転のなか、フロアで響くクラップが一つに重なっていくさまが幾度も繰り返された後、鳴らされたのは「青信号」へと繋がることを想起させるようなバンド・イントロへ。真っ赤なライティングの中に登場し、赤く染まるFurui Rihoが、グルーヴがうねり熱気がさらに上昇するとともに、タイトルよろしくブルーのライトへと照らされる。本公演では、これまで本編ラストやアンコールにて披露してきたFurui Rihoの原点とも呼べる「Rebirth」がセットリストから外されていたのも個人的には印象的なトピックだった。しかしながら、その楽曲の大切さは胸に秘めながら、曲中に「Rebirth」のフレーズを引用した「青信号」がその想いを継承し、“グリーンライト”ではなくまさしく“青”のライトと背に受けてステージで歌い弾ける姿は、これからの紛うことなき躍進を暗示しているかのようにも思えた。だが、その当てずっぽうな予期は「青信号」を歌い終えた直後に発表された、4月3日の2ndアルバム『Love One Another』のリリースとそれを引っ提げた5大都市ツアーの開催が知られることで、即座に暗示としての効力を失い、再び歓声と拍手で包まれる光景がフロアを埋め尽くしていった。そのツアーファイナルとなるのは、EX THEATER ROPPONGI。序盤に「リキッドルーム……ちょっと小さいよね」と語っていたが、リキッドルームの1000名を超える1800名弱のキャパシティへとステップアップ。Zepp DiverCity(TOKYO)、Zepp Hanedaをはじめ、2000名強の収容を誇るZeppへの道も、現実的なものになってきたといえる。

 公演前日にYouTubeにアップしたという「Friends」では、さまざまなことが起こり、いつ大切な存在と会えなくなるかわからない世の中で、大切な存在と一緒に過ごすことの尊さを、ハートウォームなヴォーカルで披露。「自分を愛し、自分を大切に、そして、みんなで支え合っていく……そんな2024年にしましょう」というメッセージを投げかけてのラスト・ソングは「LOA」。タイトルとなった略語の元は、2ndアルバムのタイトルにもなった、互いに愛し合うという意味の“Love One Another”。これからも“愛”をコンセプトにファンとともに幸せを分かち合いたいという思いが伝うような、ホープフルなクラップが加わり、快哉と昂揚が溢れる大団円に。バンドメンバーやFurui Rihoがステージアウトする背中をいつまでも目で追う多くのファンたちの胸の昂ぶりと、この空間に生み出された熱気と興奮の余韻を背中越しに感じながら、リキッドルームを後にした。

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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Purpose
02 PSYCHO
03 ウソモホント
04 Candle Light
05 Do What Makes Me Happy
06 Silent Night(a cappella)~ Silent Night Remix 2024(include guitar riff of "Jingle Bells")
07 ABCでガッチャン
08 でこぼこ
09 keyboard solo ~ 嫌い
10 ピンクの髪
11 n.o.y.b (original by Shin Sakiura feat. Furui Riho)
12 Super Star
13 We are
14 I'm free
≪ENCORE≫
15 青信号
16 Friends
17 LOA

<MEMBERS>
Furui Riho(vo)
ハナブサユウキ / 英佑紀(key, Band Master)
Haruka Sakamoto / 坂本遥(g)
Naoki Kobayashi / 小林修己(b)
Mori Masato / 守真人(ds)
Mayu Furui / まあちゃん  (cho)

L→R:坂本遥 / ハナブサユウキ / Furui Riho / Mayu / 守真人 / 小林修己

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【Furui Rihoに関する記事】
2021/04/17 Furui Riho @代官山SPACE ODD
2021/12/11 Furui Riho @WWW
2022/03/11 Furui Riho『GREEN LIGHT』
2022/03/13 Furui Riho @Veats SHIBUYA
Furui Riho @代官山UNIT(20230109)
Furui Riho @LIQUIDROOM(20230507)
Furui Riho @LIQUIDROOM(20240114)(本記事)


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