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Furui Riho @LIQUIDROOM(20230507)

 闊達で手繰り寄せた、充実と躍動のエッセンス。

 青いライトがフロア奥へ伸び、ギターソロが爪弾かれるステージに足を踏み入れると、「I'm free」のイントロ流れるなかでオーディエンスに背を向ける彼女。振り返って歌い始めた声が微かに震えていたのは、緊張か感動か。曲中に込み上げる感情を振り切るように「トーキョー!」とオーディエンスを煽るともなく歓声がこだまするフロアには、すでにこの瞬間を待ち侘びていた人たちに興奮の波が訪れていた。

 近年急速に勢いをつけている札幌出身のシンガー・ソングライター、Furui Rihoのワンマンライヴ。今年1月の代官山UNIT(記事→「Furui Riho @代官山UNIT(20230109)」)からさらにキャパシティが拡大した恵比寿LIQUIDROOMにも、Furui Rihoの魅力に憑りつかれたファンが集結。ゴールデンウィーク最終日、あいにくの雨という状況も問題にならないソールドアウト。彼女自身が口にしたようにその躍進ぶりが窺える光景でフロアは埋め尽くされていた。

 「I'm free」に続き興奮冷めやらぬオーディエンスに届けられたのは、より高揚をいざなう「青信号」だ。アルバム『Green Light』(アルバム評→「Furui Riho『GREEN LIGHT』」)のタイトル曲をなぞらえたグリーンのレーザーライトが四方八方に射し拡がるなか、小柄な体躯でステージ狭しと駆け巡る。苦悩や挫折などのままならない時期を脱し、ようやく自分らしい自由を手に入れ、これからはギアを上げるのみと、灯ったグリーンライトを合図に加速する……「I'm free」から「青信号」への流れにそんな想いも感じていると、「みんなでClap Your Hands!」のコールでさらに一体感を増して「We are」へ。興奮のリズムが刻まれ、音に酔い、笑顔に満ちたジョイフルなグルーヴが折り重なっていた。

 バンドは、10年来の盟友“ハナブー”ことハナブサユウキ(白のオーバーオール姿だったゆえ、ホンジャマカ石塚モードのVaundyのよう……すみません)は変わらずだが、ギターに藤井風でのサポートでも知られるスレンダーで長身の大月文太、ドラムにジャズ・シーンを中心に引く手あまたの守真人(髭も蓄えていたため、斜から見ると『ゲット・リフテッド』あたりのジョン・レジェンドっぽくも見えた)という新体制。自由にステージで泳ぐFurui Rihoの後ろ姿に破顔しながら、一心不乱に首を横に振って髪をかき乱し、心地よいサウンドを導くハナブー、時にインパクトあるヘヴィな音を差し込みながら、あからさまに派手やかにはしていないのに耳に残る爪弾きをする大月、繊細なタッチから轟く波のように迫る音まで、クールな佇まいながらパッション漲るドラミングを繰り広げる守との"ケミストリー”は、精到で秀抜。Furui Rihoが心地よく歌に専念できるのも、そのバンド・サウンドのバランス感覚の賜物ということなのだろう。

 せっかくなら出来るだけ楽しませたいという思いが強いためか、ワンマンライヴではさまざまなアクセントやチャレンジをしてくれるFurui Rihoだが、本公演でもいくつかのライヴならではのパフォーマンスを組み込んできた。リリースはなくライヴでしか演らないという「Do What Makes Me Happy」や、スツールに座りながらリリースもライヴ演奏もしていないというHTB開局55周年ドラマ『弁当屋さんのおもてなし』主題歌「Friends」を披露。「Friends」は韓国にいる友人に会いに行った時に思い浮かんだそうで、長らく疎遠だった友人や家族など大切な人との再会時に胸に迫る、尊く愛が溢れてこぼれ落ちそうな感情を綴ったという。安らぎとともにどこか懐かしい郷愁を蘇らせるようなメロディからは、Furui Rihoらしい感情豊かで人懐こっさが垣間見えるようでもあった。

 "チャレンジ”アクトの一番のトピックとなったのは、"Furui Riho 挑戦のコーナー”と題した弾き語り。自身が影響を受けた楽曲をテーマに、音楽に触れ始めた子供時代から順を追って“さわり”(サビ)の部分を中心に弾き語りをしていく。「緊張するってー」と口走り、赤系のレーザービームがフロアへ放たれるなかで、R&Bバラードなどによくあるフェイクを連ねたイントロから紡がれたのは、なんと「だんご3兄弟」で、フロアからはドッと笑いが起こった。自身の楽曲にもその要素が入っているはずというaiko「カブトムシ」や宇多田ヒカル「Can You Keep A Secret?」を経て、映画『天使にラブ・ソング 2』に使われたことでも知られる「オー・ハッピー・ディ」へ。小学5年生の時に出会った、ターニングポイントともいうべきゴスペルの著名曲を歌うなかで、オーディエンスからの即席コーラスに嬉しい声を上げると、教会で歌っていた時にラニー・ラッカー(“日本のゴスペルの父”と称され、かつては『ひらけ!ポンキッキ』の英語曲コーナーにも出演)から声を掛けられた「いい音楽を聴きなさい」の言葉を頼りに辿り着いたというミニー・リパートンの「Lovin' you」を。ラストのホイッスルヴォイスも披露して、大きな歓声を浴びていた。彼女の楽しませたいという気持ちが宿った心温まるセクションに、オーディエンスから惜しみない拍手が送られていた。

 弾き語りから曲の途中でバンド演奏へシームレスに繋いだ「嫌い」を終えると、クライマックスへ突入。自身の三つ編みヘアを弄りながら歌った「ピンクの髪」ではオーディエンスの「Sorry, but I love my hair」のコーラスに感激し、「ABCでガッチャン」では顔をクシャッとさせてファンを抱きしめるパフォーマンスで感謝を表現。感情が右往左往するさまをソリッドかつスリリングに表わした「ウソモホント」でトップギアに入ると、Furui Rihoクラシックスとなる「Rebirth」へ。歌い出しで感極まったかのように聴こえたのは、眼前に広がるFurui Rihoの音楽を愛するファンへの感謝と、挫折を味わってから文字通り“Rebirth”して掴んだ努力が無にならなかったという万感の思いからだろうか。

 アンコールは、大月の唸ったギターが印象を与えた「Sins」から新曲の「Super Star」を経て「Purpose」と3曲を演奏。「Super Star」は「あんたのやりたいことはなんなんだい!」と自問自答した末に出来た、寄り道ばかりしていた自身がようやく辿り着いた本当に欲することをテーマにした楽曲とのこと。ディスコライクなギターと跳ねるリズムが腰を揺らせるファンキーなテイストは、浸透力の高いポップネスを帯びていて、幅広く親しまれそうだ。

 初期のファンと比べれば、まだ彼女を知ってからそれほど経っていない(2021年から)ゆえ、多くを知っている訳ではないのだが、Furui Rihoの音楽がゴスペルをルーツに持ちながらも、そういったゴスペルやソウルといった黒の要素に偏らず、しっかりとポップネスが表現されているのは何故なのかと考えていたことがあった。しっかりと黒っぽい要素は通底しているのだけれど、表面的には実にキャッチーというバランス感覚は、Furui Rihoならではの独創性なのだろう。それは彼女のヴォーカルワークに顕著で、感情豊かに思いのまま声を発すれば発するほど、その資質が輝く。その意味で本公演は、これまで観た公演のなかでも開放感に溢れ、実に伸びやかな歌唱を披露したステージになったのではないか。コンプレックスの闇の渦へ没入するのではなく、コンプレックスごと愛するというポジティヴなアティテュードを得たキャラクターも、その耳当たりの良い歌唱の資質のひとつで、弾けようがアンニュイに歌い紡ごうが、実に嫌みがないのは、非常に大きな武器だと思う。

 彼女が「嫌い」のなかで「好きじゃない」と歌う丸い顔(個人的には好き)に、終始微笑みが満ちた90分強。終演後のフロアには、彼女の魅力に感化され、再認識したファンたちの声が渦巻いていた。グリーンライトが灯された道は視界良好。さらなる躍進に弾みがつきそうだ。

Furui Riho

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 I'm free
02 青信号
03 We are
04 Candle Light
05 Do What Makes Me Happy
06 でこぼこ
07 Friends
08 弾き語りコーナー:だんご3兄弟(from TV『おかあさんといっしょ』)~カブトムシ(aiko)~Can You Keep A Secret?(宇多田ヒカル)~Oh Happy Day(as well known as song from movie "Sister Act 2: Back in the Habit")~Lovin' you(Minnie Riperton)(without band)
09 嫌い
10 ピンクの髪
11 ABCでガッチャン
12 ウソモホント
13 Rebirth
≪ENCORE≫
14 Sins
15 Super Star(New Song)
16 Purpose

<MEMBERS>
Furui Riho(vo,key)
ハナブサユウキ / 英佑紀(key, Band Master)
大月文太 / Bunta Otsuki(b)
守真人 / Mori Masato(ds)

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【Furui Rihoに関する記事】
2021/04/17 Furui Riho @代官山SPACE ODD
2021/12/11 Furui Riho @WWW
2022/03/11 Furui Riho『GREEN LIGHT』
2022/03/13 Furui Riho @Veats SHIBUYA
Furui Riho @代官山UNIT(20230109)
Furui Riho @LIQUIDROOM(20230507)(本記事)


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