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【エッセイ】夜の公園はどこかさびしくて哀しくて優しい

 こんばんは。眠れない夜のお話し相手、じゅんちちです。

 さぁ、レッツ・ピロートーク!

 
 最近の僕は次の公募に出す長編小説を書いているところで、相変わらず毎晩コンビニに缶コーヒーを買いに行きます。

 昨日の夜もコンビニに缶コーヒーを買いに行って、途中に小さな児童公園を通ったんです。

 遊具は滑り台とブランコと砂場だけしかなくて、その周辺に前衛芸術みたいな不思議な配置でベンチが置かれている公園です。

 頼りない朧げな外灯と月明かりの下、道路より暗闇の密度が濃い公園の中に僕は足を踏み入れました。
 公園の砂を踏む感触がアディダスのスーパースターのゴム底越しに伝わってくる。乾いた砂と落ち葉の匂いが鼻に届く。

 その公園の中に入ると、僕はいつも少しだけ不安というか、落ち着かないというか、とにかく少しだけ変な気持ちになります。
 それはベンチの前衛芸術的配置のせいかもしれないし、夕方まで子供たちと楽しく遊んでいた遊具たちの淋しさのせいかもしれない。


 いつものように缶コーヒーを両手でつつみ込むように胸の前でかかえて、指を温めながら公園の中を歩いていると視界の隅を鮮やかなピンク色がよぎりました。
 思わず足を止めて顔を向けてみるとベンチに置かれた携帯電話でした。
 近付いて手に取ってみると、それはかわいらしいすみっこぐらしのキャラクターが描かれたケースに入れられたキッズケータイです。
 夜の11時。当然のことだけれど、薄暗い静かな公園内を見渡してみても子供の姿はありません。

 ベンチに座って試しに電源ボタンを押してみると、いきなりホーム画面が立ち上がりました。
 キッズケータイってロックかからないですね。たしかに小学生低学年だと、ロックするの難しいのかな?
 それであまりイジるのも申し訳ないけど、持ち主に返す術を探して発着信履歴を見ると「パパ」の2文字が。
 さっそく電話をかけました。「パパ」さんに。

 僕の右の掌にすっぽりと埋まってしまいそうな小さい携帯電話を耳にあててコール音が鳴ってるのを聞いていました。
 なかなか電話に出んわ。左手で握る缶コーヒーも冷たくなります。
 時間が時間で寝ているのかもしれない。僕がそう思って諦めかけた時、10回以上のコール音の後に「パパ」さんは電話に出てくれました。

「……もしもし」
 訝しむ、警戒感に満ち満ちた声が電話越しに僕の耳に届きます。夜11時に我が子のキッズケータイから着信があったのだから当然の反応です。
「この携帯電話を拾った者なんですけど。ローソンの近くの公園で」
「マジっすか!すみません!すぐ行きます!」
 突然に体育会系全開になったパパの口調に少しだけ驚きましたが、すぐ来るというのでベンチに座って待つことにしました。

 待つこと3分くらい、カップラーメンが出来上がる程度の時間でパパさんは公園に来ました。パパさんは30歳くらいの若いお父さんで、両手に缶ビールの350ml缶を持って登場です。
「すみませーん。電話くれた方っすよね?」
「はい、この携帯電話なんですけど」
「うちの娘のっすね!すみません!マジ助かりました!」
 パパさんの大きな声が静かな公園に響いて少しだけ狼狽えましたが、良い人そうで安心しました。
「子供も寝てゆっくりビール飲んでたのに、娘のケータイから電話きてめちゃくちゃビビったんすよ。お礼にビール持ってきたんで飲んでください」
 パパさんは僕の前に両腕を突き出してビールをくれました。というか、どちらかでも受け取ってあげないと両手ともふさがってて、パパさんがキッズケータイを受け取れないので面くらいながらも僕はビールを受け取りました。

「2本も飲めないから1本でいいですよ」と僕が片方を返すとパパはすんなり受け取ってくれます。
「じゃあ、ここで一緒に飲んじゃいますか」
 そう言いながらパパさんはすでにプルタブを引いていて、ガスの抜ける気持ちの良い音が響きました。
 僕も同じように栓を開けると「乾杯」とパパさんが言って缶を軽くぶつけました。

 僕は自他共に認めるコミュ障です。人見知りで初対面の人となんてほとんど喋れません。
 だから就職活動の時も営業職だけは避けていました。

 それがパパさんのキャラのせいか、お酒の力なのか、二人でいろんな話をしました。子供の話、人生の話、夢の話。
 気がつけば1時間ほどが経っていて、すっかり2人とも缶の中は空っぽになっていました。

 ほとんど同時に缶を振って中身が入っていないことを確認すると、僕たちは立ち上がりました。
「それじゃあ。ケータイ、ホントにありがとうございました」とパパさんが軽く頭を下げます。
「いえ、ビール、ごちそうさまでした」と僕も軽く頭を下げました。

 そして反対側に歩き出し、それぞれ別の出口から公園を出た。
 名前も連絡先も知らないまま、さようなら。
 なんだか呆気なくて、後で思い返すと夢みたいな不思議な感覚が残りました。

 人生、どこでなにが起こるかわからない。だからこそ人生は楽しい。そう思うことができた、ちょっと不思議な夜の出来事でした。


 お酒を飲んだし小説の執筆は捗らなかったですけどね。

 それでは、また。

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