フルーチェとプリン
毎週深夜にプリンを作るのが習慣となっている。
卵・牛乳・砂糖などの原料から作るのではなく、粉から作る簡易タイプのプリンである。
粉を溶かすためにお湯や牛乳ではなくを、鍋で温めた豆乳を使って調理している遊びを行うのが至福のときである。
その習慣を続けていたある日の夜、本能のままにドラッグストアに寄った。
自転車を駐輪スペースに置き、施錠していると、後ろから楽しそうに話している声が聞こえてくる。
その声がじわじわ大きくなり、僕の横を通り過ぎた。ふいに目をやると
減量中のプロボクサー並みのジャンバーを羽織り、蛍光色のクロックスを履いた同年代であろう男と… ん? あれ?…
なんと1人だった。
夜に大声で会話風の独り言…
怖かった。
再度観察すると両耳に白いアクセサリーを発見。 これはもしや…
[AirPods]
そこで彼は独り言ではなく、AirPodsを用いて誰かと対話しているのではないかと、合点がいくように自分を納得させた。
買い物し終えたフリをして、もうひとつ隣のドラッグストアに逃亡しようかと思ったが、一旦落ち着きを取り戻して僕は、その男の背後を陣取るように入店する。
おやつコーナーで商品を選択中、近くに例の男がいるのがわかる。なぜならそこそこの声のボリュームで対話しているからだ。
聴こえてくる内容を聞き取ると
「たしか〇〇だよね。✖️✖️はどっちの会社がいい?」
買い物の相談をしている。
おそらく会話内容と口調から、対話相手は妻もしくは彼女だろう。
そんなイカつい風貌でパートナーのためにおつかいしているではないか…
献身的な男、ギャップに心を支配されかけた。
僕は目的の品をカゴに入れ、レジに向かう。
先にあの男が精算していたので、後ろで待つ。
AirPodsで会話しながらのおつかいで、何を購入したのか気になったので、バーコードリーダーを通る商品を凝視する。
ヨーグルト・牛乳と乳製品が続き、ティッシュ箱やトイレ用芳香剤などの生活用品。
共同生活がひしひしと伝わってくる。
それに比べて僕は酒1缶とプリン1箱。
アルコールと糖分。
栄養バランスお構い無し。
食べたいモノを選り好み。
これぞ独身生活の特権。
考えてない振る舞いのまま眺めていると、最後にバーコードを通した商品が
フルーチェ
やっぱり手作りデザート食べたくなるよな!
パートナーのためにおつかいに行った自分へのご褒美なんだろうな!
恥ずかしくないぞ!
俺だってプリン作ってるからな!
手作りデザートを買っているのが自分だけではないと安堵したまま男の会計が終わり、自分の番がくる。
その男がレジ横の台で購入品を整理しながら再び対話を始めた。
「△△くんはもう寝た? じゃあフルーチェは明日だな」
おい待て、そのフルーチェ、自分じゃなくて子供のご褒美なのか?
妻のために一人でおつかいに出かけて、子供のためにデザートまで用意する…
いい夫すぎる。
てか子供いるんかい!!!!!
自分のご褒美のために買ったプリンを見つめ、惨めな気持ちになる。
プリンを酒で流し込む僕に、家庭が持てるのでしょうか…
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