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2021年のホロライブから見る「VTuber×マーチャンダイジング」後編

◆はじめに

本記事は、『2021年のホロライブから見る「VTuber×マーチャンダイジング」』の後編に当たります。前編をご覧になった上でお読みいただけますと幸いです。


◆ 「コラボ/店舗販売」の分析

 表中より、「コラボ/店舗販売」に分類されるグッズ展開は1年で46件実施されました。
 本節ではそのグッズ展開の傾向・特徴を分析し,特筆すべき事例を紹介していきます。

○グッズ展開の傾向・特徴

〈コラボ先企業について〉
 オンラインゲームのプライズから飲食店、地方自治体主催のアニメイベントまで、多岐に渡るコラボが確認できました。
 
 ジャンル毎に見ると、「MOLLY.ONLINE」「カプとれ」「タイトーオンラインクレーン」といったオンラインクレーンゲームとのコラボは2021年で11回、およそ月一回の頻度で展開がされていたことがわかります。

 ECサイトとの事例では「ツクモネットショップ」や2021年6月にKADOKAWAがオープンした「VTempo」とのコラボが確認できます。
 とくに「ツクモネットショップ」はイラストレーター描き下ろしのグッズのほか、ぬいぐるみやマスクなどのコラボグッズ販売を複数回実施していました。また、受注生産のキャンセル分や在庫商品BOOTH上でも販売しており、在庫管理の観点からみても販売に対して柔軟である印象を受けました。

 その他、富士急ハイランドやパ・リーグ、プロレスラー「グレート・O・カーン」氏、「バンドリ!ガールズバンドパーティ!」といった、ジャンルを越えた様々なエンターテインメントとのコラボレーションが確認できました。

〈グッズの内容〉
 描きおろしのイラストを前面に出すようなグッズの展開が主で、とくに「クリアファイルアクリルスタンドorストラップポスター系(+α)」という売られ方が多くみられます。
 ここでの+αについて、実施の有無もありますが、コラボ先企業の提供する製品/エンタメに関連したオリジナリティーあるグッズが展開されていることがわかり、パ・リーグコラボにおける「ツインバット」「ユニフォーム風シャツ」、ラクガキ キングダムコラボにおける「クロッキー帳」などが挙げられます。

 これらのコラボを通観すると、「特定のVTuber個人(例:湊あくあ)やプロダクション内ユニット(例:ホロライブ1期生、OKFAMS)と企業とのコラボ」という形ではなく、個人や特定のユニットという括りではない、「ホロライブ」としてのコラボが多くみられました。
 「郵便局物販サービス」や「ばくだん焼本舗」コラボのような各ジェネレーションから数名ピックアップという形は、「最推しの番が回ってきた!」とか「このVTuberの描きおろし衣装、意外とアツいなあ」といったプレスリリース時のファン間でのドキドキも生まれ、グループやメンバーを絞りグッズを展開するよりもSNS上での話題性を生みやすいと考えられます。
 また、「僕の推しの○○(特定のVTuber)のグッズだから買う」だけでなく、「ホロライブとのコラボだから買う」という、箱推し文化の根強いホロライブファン特有の購買特性への期待も見込んだ上でのMDを展開しているのでは?という印象も受けました。


○リアルイベント・現地でのグッズ販売の積極的な実施

 2020年よりもリアルイベントが開催しやすくなったというのもあり、リアルでコンテンツを楽しんだり、グッズを買ったりできる機会が次第に増えていくようになりました。

〈小売店とのコラボ〉

 2021年より、コンビニを始めとした各種小売店とのコラボが開始されました。具体的には「ローソン」「ファミリーマート」「ドン・キホーテ」とのコラボが挙げられます。
 コンビニコラボについて、2021年上半期中のものはクリアファイルの配布と小規模なものでしたが、下半期に実施されたものをみるとファミリーマートではアクリルスタンドセット、ローソンではオリジナル菓子/飲料、色紙、アクリルキーホルダーと取り扱うアイテムの種類が豊富になったことがわかります。
 また、ドン・キホーテとのコラボではホロライブメンバー全員の「もちどる」ぬいぐるみのような特徴的なグッズを展開していました。

ドン・キホーテで販売されたホロメン全員の「もちどる」31種。
(https://game.watch.impress.co.jp/docs/news/1362475.html)


 ぬいぐるみやアクリルスタンドはBOOTH/オフィシャルショップ上でも販売可能なアイテムでは?とも考えられますが、全国各地にある小売店でグッズを販売することには、地方のファンやライトユーザー層の購入機会の創出ができるという大きな利点が存在します。

 コンビニとのコラボでは「対象商品を3つ購入毎にクリアファイル1枚プレゼント」という形が取られていたり、ドン・キホーテの「もちどる」は税抜2980円だったりと比較的安価にグッズを入手できるため、小売店とのコラボは「わざわざネットショッピングするほどファンではないけど、せっかく近場で手に入るのなら行ってみよう」というライトユーザーの購入の促進を実現できているといえます。
 
 また、全国各地にある小売店でグッズを手に入れられるようになることで、首都圏でのリアルイベントへ足を運べない地方のファンにも現地購入の体験を提供できるようになりました。
 現地で商品を見て、実際に手に取り、レジへ持っていき、買ったその日に封を開ける。この体験は何物にも変え難いような尊いものと考えます。
 実店舗での購入はグッズそのものだけでなく「グッズを買う」という体験行為も手に入れられることで、グッズへの・ひいてはコンテンツへの愛着を増すことができるので、これを地方でも実現できたことはとても価値のあることであるように感じました。


〈リアルイベントの積極的な実施〉
 店舗をジャックした形でのリアルイベントは

 ・7月「さくらみこのえりぃとかふぇ」@秋葉原ステラマップカフェ
 ・8月「ホロライブ夏祭り×アトレ秋葉原」@秋葉原アトレ
 ・11月「3期生コラボカフェ」@池袋サンシャインE-DINER
 ・12月「東京スカイツリータウン」コラボ@東京スカイツリー・ツリービレッジ


 と、下半期に多く見られました。

 地方在住である私も年末のコミックマーケットのタイミングで東京を訪れ、「3期生コラボカフェ」「東京スカイツリータウン」へ実際に足を運ぶことができました。

左:「3期生コラボカフェ」入口  右:「東京スカイツリータウン」コラボ看板
いずれも2021年12月26日撮影、人が多く列もできていました。

  やはりリアルイベントというものは、購入体験の場のみならず、その場にいる他のファンの熱量も感じられる場でもあります。ご時世柄もありオンラインでものを買える手軽さに魅力を感じることも多いですが、現地・リアルイベントとはとても大事な場であると再認識しました。(熱にあてられ買い過ぎてしまうのが玉に瑕ですが。笑)

○「OMOCAT」コラボ

 2021年の「ホロライブ×MD」の中でも、ここでは海外向けの「VTuber×MD」事例として12月に実施された「OMOCAT」とのコラボに注目したいです。

 12月4日より、英語圏のホロライブ1期生「hololive English -Myth-」(以下holoEN)と米国のマルチアーティストOMOCAT氏によるファッションブランド「OMOCAT」のコラボコレクションが販売されました。
 OMOCATは独自のスタイルを保ちながらも作品の世界観を崩さずにハイセンスなアイテムを創り出していくことに定評があり、過去にも妖怪ウォッチやドキドキ文芸部といった作品のコラボアイテムを販売しているブランドです。国内ではヴィレッジヴァンガードや原宿PARKなどで取り扱われています。

 このコラボについて、2021年に入ってからOMOCAT氏によるホロライブのファンアートがSNSに投稿されることが多くなっており、また、グッズ発表時もholoENのメンバーからの期待の発言がツイートや動画上から見られたことから、OMOCATとホロライブ側、双方の要望が高まったことによるコラボの実現と推測されます。

OMOCATグッズ一覧。( https://www.omocat-shop.com/collections/omocat-x-hololive-en より)

 キャラクターの世界観を十分に活かした描き下ろしのグラフィック、さらにプリント箇所や強いカラーリングによる大胆なアプローチ。
 (海外向けではありますが)日本のコンテンツながら日本のアパレル系グッズでは見られないようなデザインとアイテムのチョイスで、いわゆる逆輸入品のような新鮮さを受けました。
 不死鳥、死神、アトランティスの末裔、異界の神の司祭、探偵。個性が立ちまくりながらも繋がりが深い5人を、一つのアパレル展開企画として上手くまとめたなあと感嘆するばかりです。

 僕も現地時間に合わせて朝5時に起き小鳥遊キアラさんのTシャツを買いましたが、売り切れやアクセス過多によるサーバーダウンもあったためその人気は高かったものと窺えます(その後2022年3月・4月末に再販が実施されました)。

(2022.1.20. 購入から40日程度で到着しました。リンガーTシャツに刷ろうと考えたの、天才すぎる・・・)

 また、海外でのグッズ展開は公式オンラインストアでなされていましたが、大々的な海外向けのMD販促手法として、現地の有名ブランドとコラボする手法は売り手・買い手双方にとって最善なものだと感じました。

○名グッズ紹介

・雪花ラミィ×明利酒類「ラミィの日本酒づくりプロジェクト」ほか
 2021年2月、お酒(特に日本酒)が好きな雪花ラミィさんが茨城県の明利酒類株式会社の協力の下、自身の手で日本酒をつくる企画「ラミィの日本酒づくりプロジェクト」が始動しました。
 この企画によって、雪花ラミィさん監修の大吟醸日本酒「雪夜月」が5月24日にリリースされました。

「雪夜月」(明利酒類株式会社 OnlineShopより)

 この「雪夜月」は原料、味の方向性、デザイン(イラストレーターの選定)やネーミング、そして実際の酒造りに至るまでのすべての過程に雪花ラミィさんが関わっているということで、VTuberがグッズ(日本酒)に対してとても積極的に働きかけているケースであるといえます。

 また、「雪夜月」販売に伴う記念グッズとして日本酒グラス・扇子・升が販売されました。
 この「雪夜月」記念グッズだけでも十分にお酒を楽しめますが、2021年の雪花ラミィさんに関するグッズをみると、3D化記念でアイスキューブ、誕生日記念ではステンレスタンブラー宅飲みスターターキットと言わんばかりのお酒に特化したグッズが複数展開されていることがわかります。
 
 「ラミィの日本酒づくりプロジェクト」をはじめとした雪花ラミィさん周りのグッズからは、VTuberを・お酒を十分に楽しんでもらおうという姿勢を強く感じることができ、また、コンテンツを通してお酒・宅飲みという別ジャンルな趣味の楽しみをファンに提供しようという意志も感じられます。最高です。
 グッズとしての機能性は勿論、グッズを通して新しい価値観を提供することができ、アニメとは違い現実に介入することができるVTuberだからこそ生み出すことが出来た、いわば「VTuber×MD」の新境地なグッズ群であるといえます。

・CONVERSE TOKYO×星街すいせい
 12月16日よりスニーカーブランド・CONVERSEの国内ライセンスブランド「CONVERSE TOKYO」と星街すいせいさんとのコラボアイテムの受注生産予約が始まりました。

コラボのメインイメージ。CONVERSE TOKYO(https://converse-tokyo.jp/news/162)より

 CONVERSEと「星」街すいせいさんの共通点である星マークと、彼女にまつわる抽象的なアイコン・グラフィックを用いたデザインのTシャツ2種とアクリルキーホルダーが展開されました。

左:「星街すいせい Tシャツ」 右:「星街すいせい ロンT」
(上記CONVERSE TOKYOのサイトより)

 そのTシャツのグラフィックはアナグリフ(色収差)を用いたものやロゴ・写真の列記による情報量の高いものであり、最近のストリート系アパレルにおけるトレンドを汲んだようなデザインでした。

 アニメ系アパレルグッズは「普段使いがしにくい」という理由で敬遠されることがしばしばありますが、「CONVERSE TOKYO×星街すいせい」は先述のOMOCATのケースと同様、有名ブランドとコラボすることでブランディング・ファッションセンスという観点からクオリティが保証されたアイテムを創り出せるため、コラボを展開する意義が大いにあったといえます。

 また、「ファッションブランドとホロライブとのコラボ」を考えた際、CONVERSE TOKYOのターゲット層であるユース層のカルチャーは、音楽と服との結びつきが強い状況にあります。
 そしてホロライブに所属し・音楽性の高い星街すいせいさんこそがCONVERSE TOKYOの求めているユースカルチャー的世界観にマッチしたことで、お互いの世界観やネームバリューを高め上げられるような、このダブルネームでのコラボに繋がったものと考えられます。
(ホロライブとのコラボか星街すいせいさんとのコラボか、どちらが先で考えられていたか。というのは憶測の域を越えませんが・・・)


●おまけ:VTuberによるグッズ募集企画

 実際にグッズ化されたわけではありませんが、VTuberによる企画として、視聴者に対してグッズのアイデアを募集する配信が複数見受けられました。

◯赤井はあと:個性的!?グッズのアイデア募集してみた結果!【#HAACHAMASUNDAY】


◯ 【企画】ろぼさーが考えた!!ロボ子の妄想グッズをみてみてみてえええ💓💓【ホロライブ/ロボ子さん】


◯ 【妄想を形に】アンケ駆使!!4月のお誕生日グッズを決める!!!!【天音かなた/ホロライブ】

 いずれも視聴者(リスナー)のクリエイティビティに依った企画で、さまざまなアイデアを見ることができます。
 実現性の低いものや面白系のグッズが多く、大喜利企画のような印象を受けますが、MDを創り出す側が思いつかないようなグッズの提案をファンが生み出しているのを目の当たりできる場であったと考えます。

 特に天音かなたさんはグッズを実現しようというスタンスで企画を実施しており、この配信をもとに2022年4月22日、彼女の天使の輪をモチーフとした「天使の輪 クッション」が天音かなた誕生日記念2022でリリースされました。

「天使の輪 クッション」(上記リンクより)
リバーシブルやサイズといった仕様までリスナーとともに考えている様子を配信で観ることができます。

 天音かなたさんはPP天使Tシャツに代表されるように、VTuber本人考案のグッズをデビュー初期よりリリースしており、グッズ提案の意欲が高い印象を受けます。
 とくに今回のようなリスナーを巻き込んだグッズ制作はまるで共同作業のようで、VTuberに・グッズに対しても大きな愛着が生まれるため、「欲しい」という気持ちが強くなっていくさまがそのコメント欄・スーパーチャットからも窺えました。
 
 リスナーからアイデアを募集し実現、というのはVTuberの新衣装募集コンテストに見られるようにリスナーは盛り上がり、かつVTuber/運営側からするとコストがかからないため有効な手法であると考えられます。
 そのため、ファンの一創作からグッズを展開するモデルは、「衣装コンテスト」のような既存のケースに沿い、グッズ展開に関してVTuberと運営側の連携を密にすることで実現ができるのではないかと考えます。
 (なお、天音かなたさんは先述の配信の終わり際「すぐに運営さんに掛け合ってみます」という旨の発言をしており、この連携が顕著に現れているものといえます。)

◆ 「コラボ/店舗販売」まとめ

・ホロライブはジャンルを越えた様々な企業/エンターテインメントとのコラボレーションを数多く実施した。

・ホロライブのファンに顕著である、グループ全体を応援する「箱推し」文化の根強さは、ホロライブの「VTuber×MD」の展開に少なからず影響を与えていると考えられる。

・コンビニをはじめとした小売店とのコラボは、地方ユーザーへの購入機会の創出とライトユーザーの育成に繋がる。

・ホロライブが初めて本格的に海外向け「VTuber×MD」として展開したOMOCATコラボのような、現地の有名ブランドとコラボする手法は、市場規模が推定しにくい海外にあっても知名度やクオリティの高いMDを展開できるため、最も効果的な手法であるといえる。

・「VTuber×MD」は、コンテンツを生み出しているVTuber本人が現実に・グッズ制作の工程に介入してモノを創り出すことができる点に強みがある。

◆最後に

 年末より書き始めたものの、筆の遅さと激動の2月,3月によって投稿が遅くなってしまいました。 

 ここまで2021年の「ホロライブ×MD」を総観しながら、「VTuber×MD」について考えてきました。
 VTuberは前例のないカルチャーで、トライアンドエラーを繰り返しながら大きく・確かなものに進化してきています。
 当初は副次的な見方をされていたであろうそのマーチャンダイズも然り、VTuberカルチャー自体のファンが増加しグッズを求める声が大きくなったことで、各VTuberプロダクションは「VTuber×MD」の必要性(=価値)に気付きその規模を増強、オフィシャルショップの開設・積極的なMDを展開するようになりました。
 そこで見たものは先例がないカルチャーだからこそ実現できる、VTuberの世界観や「好き」が色濃く反映されたオリジナリティ溢れるMDであったといえます。今後の「VTuber×MD」が楽しみで仕方ありません。

 さて、グッズとはファンとコンテンツとを繋ぎ止めるもの。コンテンツの依代であり、忠誠心の証である。というのが私の考えですが、そのグッズに対する気持ちが反面、憎しみや嫌な思い出に変わってしまうこともあったかもしれません。
 それをどう乗り越えるかはそれぞれですが、思い出として大事に取っておくことができるようなグッズ、それをVTuberを創り出す側は提供できているように強く思います。

 現実に形を持たないVTuberというコンテンツだからこそ、形あるグッズの価値は他のエンターテイメントのそれより尊いものになるはずです。僕はVTuber×MDの可能性を強く信じています。
 今後ともVTuberの、ホロライブの一ファンとして「VTuber×MD」の観測を続けていきます。「とまらない」限りずっと!

 

◆出典/参考文献
・【
海外】ホロライブEnglishが人気ブランド「OMOCAT」とアパレルグッズのコラボ,PANORA https://console.panora.tokyo/archives/37466
・コンバースがアパレル本格参入 新ブランド「コンバース トウキョウ」ローンチ,FASHIONSNAP.COM  https://www.fashionsnap.com/article/2015-06-04/converse-tokyo/
・『Ollie』2016年11月号,株式会社ミディアム,2016
・『アニメビジエンス』Vol.12,株式会社ジェンコ,2016
その他文中に記載



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