入稿用A6_白河家族上映会20191208

サードプレイス運営者として考える「移動」と「家族」、そして「地方」と「人口」

わたしたちは、最愛の人としばしば離れ隔たったり、隔たった者がしばしばもっとも近い者であるような世界に住んでいる。 − ベック&ベック= ゲルンスハイム, 2014

『移動する「家族」』を福島県白河市で鑑賞しました

大橋香奈さんの作品である『移動する「家族」』の映像鑑賞&ワークショップ&対談イベントを行いました。

『移動する「家族」』は、映像エスノグラファーである大橋さんの博士論文の研究成果。国境を越えて、日本に移動してきた人々を記録したドキュメンタリー映像です。今回のイベントでは、映像を見た後、鑑賞者同士で感想を共有するワークショップを実施。その後、大橋さんと都市社会学の研究者である成田凌さん、未来の準備室代表の青砥和希との対談を行いました。

映像では、登場人物の誰もが「家族」に対して、強い感情を持っています。イギリス、香港やカナダ、ペルー、ネパール、日本。様々な国にルーツを持つ登場人物が、画面の中でそれぞれの家族とコミュニケーションをとっています。

ラップトップでのSkype、スマホでのmessenger、ホームパーティでのハグ、ネパール伝統の祈り、犬の介護。

自分以外の他人が、その「家族」と密にコミュニケーションをするのを眺める、新鮮な映像体験でした。

映像鑑賞後、を家族観を問うカードを記入。
あなたにとって「家族」とはなんですか?
・「家族」になるために、あるいは「家族」であるためには何が必要だと思いますか?
二つの質問に回答を記入したあと、4人1組(親しい友人同士の組み合わせは避ける)になりグループディスカッション。上記の質問の回答を記入したカードの内容や、映像への感想を共有しました。普段、「家族」について、親しくない相手と意見交換する機会は多くありません。

ドキュメンタリー映像とワークショップを通じて、「家族」のあり方が多様であることに気がつかされます。多様な「家族」の姿を見たり聞いたり話したりを繰り返す。「家族」が多様であることは、言われてみれば当たり前なのですが、社会の中で「家族」が単一的な、特定の価値観で語られることがあまりに多いので、映像とワークショップの時間が新鮮に感じられるのだと思います。

生活学会の大橋、都市社会学会の成田、人文地理学の青砥の対談で思ったこと

大橋さんは、国内外で人生のうちこれまで20回(!)の引っ越しの経験を元に、移動と家族についての研究を続けていらっしゃいます。慶應義塾大学の博士号(政策・メディア)を取得され、フィンランド滞在中のご経験は、著作にもまとめておられます。

『モビリティーズ 移動の社会学』(ジョン・アーリ)や『モバイル・ライブズ 「移動」が社会を変える』(ジョン・アーリ,アンソニー・エリオット)など、移動と社会学や家族社会学の蓄積を背景に、国境を超えた、旧来の身体性とは異なる家族観に興味を持ってきました。

一方、対談相手としてお呼びした成田凌さんは、国内人口移動の研究が専門。青森県田舎館村出身で、現在は首都大学東京大学院博士後期課程で都市社会学を研究の傍ら、弘前大学や高崎経済大学で講師もされています。生まれ育った青森県田舎館村は稲作地帯で、親戚が近居するのが一般的な価値観の中で育ったと語ります。高校・大学時代も青森県弘前市で過ごし、「地元を離れることは考えなかった」そうです。

そしてわたし青砥はと言えば、出身は福島県矢祭町。高校は福島県白河市まで通学していました。「東京に行きたい」し「地理学が学びたい」ので首都大学東京に進学し、大学院までを修めた後、現在はNPOの立場で他出直前の高校生や、他出後の大学生と関わる仕事をしています。

わたしは、運営するコミュニティ・カフェ EMANONを、「高校生のためのサードプレイス」と説明することがあります。

自宅(ファーストプレイス)や職場・学校(セカンドプレイス)ではない、一個人としてくつろぐことができる第三の居場所。米国の社会学者レイ・オルデンバーグが、1989年に自著『The Great Good Place』で提唱した。ーコトバンク

サードプレイス/第三の場所とは、ファーストプレイス(家庭)・セカンドプレイス(職場・学校)の低い流動性・固定化された関係性で規定された空間に対して、本人の意思で自由に関係性を構築し、自由に参入離脱できる居心地のよい空間のことです。

上の画像は、私が事業を説明するときに使うスライドのうちの1枚です。

コミュニティ・カフェ EMANONは、「高校生は地域から他出する」ことを前提条件に考えた場所です。

成田さんの把握しているデータによれば、青森県に住む20代30代のうち、地域を一度も出たことがないものは全体の25%に過ぎないそうです。一度地域を離れてきてから戻ってきたUターン人口が40%を占め、残りが他県出身者の転入者です。

もはや、地域にずっと住んでいる人は、流動性の低い地方の県であっても、マジョリティではないのです。目の前の高校生のために仕事をしている身としては、たとえ移動をしても、その地に留まったとしても、目の前の高校生が幸せになるように仕事をするしかありません。移動には理由があります。震災以前とここ数年、おおよそ5000〜8000人が人口流出する福島県です。では若者たちは、福島県が衰えれば良い、と思って転居しているのでしょうか。違います。自分たちのキャリアにとって、もっともよいと思われる選択肢をーーー具体的に言えば進学先・就労先をーーー選んでいるだけなのです。そこに悪意や意図はなく、あくまで自分たちの幸せのために移動を選択しているだけなのです。

自分たちの幸せのために、もっとも良い選択肢があるならば、国境を超えた移動も厭わない。それは、大橋監督の映像の中の「家族」たちも選んでいた人生の選択でした。たとえ伝統のお祭りを行うのが東京のマンションの一室になってしまっても、家族とは太平洋大西洋を挟んだ場所に住むことになってしまっても。21世紀は(少なくとも前世紀に比べて)、「移動」がもっともっと自由で、普遍的な社会なのです。

定住人口だけの意思決定が、日本全体の幸せを最大化するだろうか?

さて、日本の地方自治体は、人口減少に喘いでいます。 

上記の図は 総務省統計局|人口推計結果の要約(2018年) より

2018年の上記データによれば、福島県では1年間で全人口の少なくとも0.6%が他県へ流出しています。この流れは、増減することはあっても、簡単には変わらないでしょう。上記の新聞記事で報じられているように、県が人口ビジョンを下方修正したことからも、行政のトップは、この流れが簡単には止まらないことを把握していると思います。

そんな、若者が流失してしまう福島県の(地方の)行く末を、意思決定しているのは誰か? それは、現在の仕組みでは当たり前ですが、現在選挙権を持つ定住人口であり、長年地盤を地元に持っている政治家であり、(いまのところ)定年までの雇用が保証されている公務員のみなさんです。

なぜ若者が離れてしまうのか。どうしたら、若者が自分の人生が幸せになるために、その目的地として地方を選んでもらえるのか。

その答えは、もしかしたら、定住人口の意思決定の中にあるのかもしれません。

しかし、これから地域を離れる若者や、すでに一旦地域を離れてしまっている若者のほうが、よりリアルに、「自分が福島で幸せに暮らすためには、これが足りない」「これが必要だ」と、表明できるのではないでしょうか。意思決定に、有益な助言ができるのではないでしょうか。

いま、そこに住んでいる若者の声を聞くのは非常に重要です。しかし同じレベルで、現在福島を離れている/離れようとしている若者の声に耳を傾けることも、非常に重要だと、私は考えるのです

まだ日本には、定住している自治体にしか意思決定する仕組みがありません。八王子市に住み、新宿区に通勤するビジネスパーソンは、新宿区における参政権はありません。白河に生まれ、丸の内で働くアラサーは、白河のこれからについて、意見表明する機会がありません。「移動」が当たり前の社会になっているからこそ、複数の場所で社会の一員として認められ、社会を共に構成する仕組みがあってもいいのではないでしょうか。

『移動する「家族」』を見た成田さんは、

「帰るのは家族関係やタイミングで難しいけど、地域への想いはある。故郷への想いを共有できる場は同郷コミュニティ。出た先(首都圏や関西圏)でコミュニティができうる。」「そこで出会った人たちが、何年後かに地域に何かを還元するというのはありうる。」

とコメントしてくれました。

大橋さんは

「場所に根ざさなくてもメディア(オンラインネットワーク)を使うことで、もと居た場所を別の場所で想うこともできる。」

と語ってくださいました。

サードプレイス運営者としては、「地方」「地域」での幸せな生活と、「家族」の中での幸せな生活とは、切り分けて考えるのがよいのではないか。地方がこれからも誰かの幸せな人生の場であり続けるために、それが必要ではないか。と思うのです。

「家族」が多様だからこそ、「家族」を嫌う人や、「家族」に馴染めない人もいる。そんな人も、(もし例えば「家族」が嫌いだとしても)地方や福島を嫌いにならないで欲しいのです。自分の人生と、「家族」を一蓮托生のものと思い込む必要はありません。

これまでの地方や地元に対する価値観が、いわゆる「実家」「家族」と共にあらねばならない、というものであったとしたら、サードプレイスを提供することで、新しい「実家」「家族」との関係性をつくる手助けをしたい。地方には魅力的な人や仕事や環境がたくさんあります。それらの魅力とつながるための多様な手段を、場所を通じて提供できたら良いなあと思うのです。

以上が、『移動する「家族」』のイベントを経て思ったことです。このような機会をいただき、上映にご協力いただいた大橋さん、成田さん、コミネスの佐々木さん、土屋さん、来場いただいた全ての方、ありがとうございました!

↑ちなみに、イベントの日の白河ラーメンは「田楽食堂」でした。

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