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地方コミュニティが地方コミュニティを支援してまわっている話

この記事は DevRel Advent Calendar 2023 の4日目の記事です。

こんにちは、じゅんです。
Hokkaido MotionControl Network (#DoMCN)というHoloLens・VR技術好きの技術者コミュニティの勉強会を運営していて、開発者の知見の交流を促進しています。また、元・物性研究者として、研究機関に所属する若手研究者でxRに興味を持つ人を見つけてはHoloLensを被せに行き、開発者コミュニティへの橋渡しを行う事を続けています。これらを適切に表現する職名が無いので、勝手にScientist/Developer Relations と名乗っています。

去年の DevRel Advent Calendar 2022 の3日目の記事で、地方の開発者コミュニティでの拠点間連携のお話を書きました。オンラインの環境を活かした多拠点展開をしていました。

 2023年は、オフライン会場の各地での開催が増えることが予想されていたことと、それに伴って札幌の存在感がなお下がることを想定し、出張を組み合わせるなどして新たな展開をしてきましたので、その内容をメインに書いておこうと思います。


前提も去年と同じ

 このお話は前提として、「地方エンジニア界隈の極めて貧弱なイベント運営リソースの中で、どうやって開発者に勉強会イベントの存在を知ってもらって参加して楽しんでもらうか、または自分が楽しんでいるのか」という観点でまとめています。なので、東京圏の大きな開発者コミュニティが取り扱っている施策にはなじまず、どっちかというと地方コミュニティ全般・新興の零細コミュニティの戦略のヒントになるのかなと思っています。
 具体的には、メインリソースが私一人でも定期的に技術イベントが発生して進行する形(しかも本人もそんなに大変じゃない)をどう作ったか、みたいなお話です。ですが再現性はないと思っているので、参考記録みたいなものだと思って欲しいです。

 札幌が東京圏の勉強会イベント運営事情と決定的に違うと私が考えている点は以下です。

・東京と比べて圧倒的に少ない勉強会人口(体感で東京の10分の1以下)
・その中でもさらに少ないイベント運営者人口(市内で数人しか思いつかない)
・告知が地元エンジニアに行き渡らない問題(拡散力がない)
・「会社の同僚誘ってきました」の少なさ(運営者側自身も慢性的にそう)
・参加優先度として、東京のオンラインイベント>札幌のオフラインイベント>>>>札幌のオンラインイベント
・勉強会文化はそもそも浸透していないので、情報の速さとかメリットを人々に認知されてない
・一方通行の「セミナー」はあるけど、双方向の「コミュニティ」はあんまりない&両者は世間的には混同されている。

これらのトレンドはまだしばらく変わる事はないだろうと思っています。

去年の記事

 地元の人々の傾向をわたしの主観でまとめていました。ツイッター(現X)の度重なる仕様変更と、それに伴う治安悪化・過疎化によって、ユーザーのつぶやきがより一層視えにくくなりました。体感では開発ブログ記事なども総量が減ったように感じています。Threads, Blueskyなどに引っ越してしまった層もいくらか居そうです。このような事情から、告知などが地元にいきわたらない問題については、より深刻度が増したようにも思っています。
 

札幌HoloLens Meetupは今年も開催休止のまま

 DoMCNの原点ともいえる大人数のミートアップイベントについては今年も行わず、場所を提供してくれる施設との関係づくりや、機材協力してくれるベンダー企業との関係づくりに注力しました。
 

XRミーティング北海道会場を各地方に持ち運ぶ

 大阪・神戸・関東・福岡・信州・北海道を結んで毎月行っている情報共有の会 #XRMTG は、各会場でそれぞれ変化した1年でした。
 本拠大阪では集まって交流できる会場が復活し、福岡もHubs/Zoomの併用からオフライン会場・Zoom会場の併用に移りました。一方で北海道はオフライン会場を復活させず、省エネで回す体制を保持しています。北海道エリアをオンライン体制のまま各地に出張に行って、4、9、10、12月は道外から運営していました。
 出張中チャンスがあれば現地のコワーキングスペースなどにブースを作って参加し、難しい時はホテルから参加していました。福岡・熊本・名古屋・東京に北海道会場を持ち運んでいったイメージです。実況用の機材も一式持ち歩いているので、アウトプット面ではほぼ変わりません。

 ちなみに12月のXRミーティングは20日開催です。LT初参加で不安という方は私が準備・本番・紹介などのケアをしています。

AR技術のハンズオンを他の地方におすそ分け

 2023年も #AR_Fukuoka のハンズオンイベントのサテライト会場を札幌に立て続けました。講座をオンラインで送信する側の福岡・吉永さんと、別会場で受信・表示しながら複数人でアプリを作成していく札幌会場の構図になり、送信受信側それぞれである程度ノウハウが溜まってきました。

 他地方のサテライト会場設置もウェルカムの姿勢で続けていたところ、2月のハンズオンでは長野の #XR信州 コミュニティ、11月のハンズオンでは #XRm鹿児島 のコミュニティが手を挙げてくれました。
 
 Babylon.jsのハンズオンは近しい内容を2022年の8月にすでに一度やっていたので、北海道としてはそれぞれのサテライト会場に運営面でのサポートをする余力がありました。なので、イベントページの作成段階でコピペを共有したり、参加者あての案内メールなどを先に作成するなどして、初開催の精神的負担を減らすなどしました。イベント当日についても、ハッシュタグを共通のものにし、札幌だけでもガンガン実況できるので、つぶやきお通夜状態にもならない状態を維持しました。


ハンズオンをサテライト開催する運営面での利点

・講座資料の作成技術を必要としない(送信元の福岡を除く)
・つまり場所と大画面モニタを確保するだけで開催できる
・人が集まれば交流会、いなければ開発に集中できる
・告知力などのリソースを他の地方と共有できる
・リアル会場に集まる口実になる
・イベント開催実績が0→1になる
・たのしい(当日忙しいけど)

MRハッカソンも地方で多拠点協力化

 2022まで開催されたOsaka HoloLens Hackathonは今年から名前を変えて Osaka MR Hackathon (#MRHack)になりました。機器の縛りがなくなったことで、開発参加者側も自由に機器を選べるようになりました。
 大阪の本会場とは別に複数の拠点が参加協力し、それぞれの拠点のリソースを活かした関与スタイルを選んでいました。今年は新たに #XR信州 会場が出来、2月18日のチームビルド回と2月26日の成果発表会のパブリックビューイング会場になりました。開発機材がその場所にある日に合わせて体験会なども開かれるなど、去年に比べて単発の各地イベントではなくなっていきました。
 北海道コミュニティの協力としては、18日のチームビルドの段階で札幌近隣エンジニアへのHoloLens2貸し出し協力制度の存在を表明し、希望者を募ってみました。千歳の参加者さんが向こうでHoloLens2にアクセスできたのでその協力は必要なさそうと分かったので、26日にパブリックビューイング会場を立て、成果発表会の16時までの間をガジェット体験会や交流会に充てる方針で進めました。



ハッカソンをサテライト会場設置する利点

・本開催地の開発サポートリソースの活用が見込める
・場所と機材を確保するだけで開催できる
・開発参加者が集まればチーム結成、いなければ支援での参加に注力できる
・告知力などのリソースを他の地方と共有できる
・リアル会場に集まる口実になる
・イベント開催実績が0→1になる
・たのしい

地元に運営力・技術力が無いor減少傾向のなかで、運営としての姿勢をアウトプットするための仕組み

 ハンズオン・ハッカソンを地方で開催してそれっきり、という事はなく、そこで何かしらの接点を我々運営と参加者の間で持つようにしています(参加者同士の間も当然)。ですので、その後の何かしらのXR系イベントで興味が近そうなものを見つけたときに案内したり、ヒントになりそうなコンテンツを見つけたときに結び付けてみたりというおせっかいをして関係が残るように心がけています。

 XRミーティング、ハンズオン、ハッカソン拠点の3つに共通していることは、「運営が1人で参加者が0人でもなんとかなる」という事です。この性質は非常に重要で、地方コミュニティ立ち上げの最初期段階のストレスとなる、「参加者いないと開催する意味ない」問題を回避するものです。告知など毎回できればできるに越したことはないものの、偶然地元の別イベントが被ったり、後から東京のイベントが公開されて地方イベントをキャンセルされたりといったことで参加者がいなくなったりします。そういう時に運営としては心が折れがちだったりしますが、他の拠点には少なくとも一人ずつはいるのであれば、勉強会イベントを続ける気持ちも持続します(実際余裕で続けている)。

 私の場合は「勉強会開いてみたいのだけど何をすればよいかわからない」という状態から始めているのでいろいろ試行錯誤があったのですが、少しでもそういう苦労(?)をスキップして目的の結果を得るためにこういう仕組みを取り入れるのもよいのかなと思っています。地方だと運営の仲間ができるまでの時間もかかりますので、長期で活動をできる仕組みを持つのが重要だと思っています。

 また新規コミュニティのイベントは告知が弱すぎるので(これは避けられない)、去年からコミュニティのイベントを告知するためのコミュニティを運用しています。開発者イベントをやる!という意気込みはこちらにも共有するようにしています。発起人のやる気に共鳴してくれるそれぞれの地元の人がこういうスレッドから見つかることも期待しています。

 拠点を生やしたい、という方はお気軽に教えてください('ω')


本業の出張に合わせて、出張先の地域のコミュニティ運営者にも会う

 2023年は出張を徐々に増やしてきました。4月に福岡エンジニアカフェ、6月に松江、9月に熊本・福岡、10月に名古屋・豊橋に行き、12月に東京を予定しています。
 物理・ナノテク系の学会に行くついでという事で、会期の前後を長めに宿泊予約し、空いてる時間で開発者コミュニティの関係者に会うという出張スタイルにしてみました。これまで、#xrshimane, #エンジニアカフェ#AR_Fukuoka , #福岡XR部 , #KumaMCN , #BabylonJS勉強会 , #コラボベースNAGOYA , #CMC_Meetup などの人とご挨拶してきました。
 今年になって始めてみたスタイルですが、関心軸の近い人とお話しする機会が持てて結構楽しいと思いましたので、来年もこのスタイルで活動してみようかと考えています。

 道外での活動が増えた一方で、札幌市内でのリアル会場イベント開催頻度は下がります。XRミーティングをオフラインに戻さないのも、ひと月のなかで出張が優先度高く、かつ感染拡大対策は緩めたわけでもないという理由です。道外からのお客さんが私に声をかけてくれることが少し増えたので、そちらに確実に対応する意味もあって、対面のコミュニティイベントを減らしています。



開発者コミュニティ支援のアウトプットが、企業からの機材協力に(たぶん)つながっている

 今年は去年のThinkReality A3体験会からさらに発展し、Magic Leap 2の体験会などを開くことが出来ました。
 また、11月17日に北海道立総合研究機構で開催されたXRデバイス体験会ではDoMCNのメンバーや千歳科技大の学生さんなどの展示が揃い、札幌で今年一番ガジェットの種類の多い体験会になりました。
 ガジェットが法人限定販売だったりして道内の個人開発者だと縁がないものなども結構あるのですが、近年の活動内容を販売店に共有して交渉すると意外と借りることができる方法が見つかったりして、今回の機会に繋がっています。借りる方法については他の地域にも随時共有しています。
 最初の交渉の時にこちらのアウトプットを見せる際、ただやりました!だけではなく、どうやったか?までそれぞれ残っているというのが重要なのかなと思っています。


2024年はコスト増とのたたかいを予感している

 2023年は新規開発者コミュニティの立ち上げ支援という路線で北海道の存在感をなんとか残しました。去年の #XR信州 (@fit51)に続き、#XRm鹿児島 (@abricheese, @aym_same)も盛り上がって行きそうなので楽しみにしています。名古屋に用事を作りたいので、名古屋コミュニティの再興もお手伝いできればと思っています。
 北海道エリアの運営自体は低コストで楽々路線を貫いたものの、今後はもうちょっとオフラインの遊び(会の前後の飲み会とか)も組み込まなければならないのか、割り切っておけばいいのかまだ検討中です。今年1年の課題感としては、東京のXR企業からはわりと無関心でいられたというのもあります。自分が最新の話題に着いていくためには結局自分が東京に行くしかない状況が変わらないのが視えてきました。
 自分が行くとなると、東京のホテルが高騰している時期に合わせて移動することが増えますので地方間移動以上にコストがかかります。行った先でお話しした人に北海道に来てもらうとすると、「ごはんがおいしい」以上の旅の価値を何か設計する必要があるだろうと思っています。札幌HoloLens Meetupの時は毎回2か月半かけて準備・根回し等やっていましたので体験が良かったはずなのですが、現在のスタッフ数だとキャパシティオーバーって感じです。工夫が必要そうです。うーん。。
 もし自分が東京のXRエンジニアだったら、東京近郊に増えたエンジニアと情報交換したいだろうなぁ。

まとめ

 今回は、DoMCNで行っている活動のうち、外部のXRコミュニティへの取り組みについてまとめました。関係してくれているるみなさまありがとうございます。
 作文のネタとしてはたくさん残っており、年末に向けてアウトプットしていき随時追加していく予定ですので、以下の内容が気になる方はフォローしてみてください('ω')

おまけ:直近の楽しそうなイベントあれこれ

・LODGE XR Talk Vol.10 Winter Special (12/9 東京 #LodgeXRTalk )

・XRミートアップ鹿児島 #3 in日置 (12/10 13:00- #XRm鹿児島)

・XR Kaigi (12/18-22 東京 #XRKaigi )

・AR Fukuoka忘年会&LT会 2023 (12/15 19:30- #AR_Fukuoka )

・XRミーティング (12/20 20:00- #XRMTG )

(12/4 初稿 6229字 360 min)

---DevRel Advent Calender 2023 ---

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