見出し画像

シェルパとSmartESGが実現したい世界の話

はじめまして、杉本淳です。
シェルパ・アンド・カンパニーの創業者、CEOです。

先日、ジェネシア・ベンチャーズ及び個人投資家からの外部資金の調達と、弊社が開発しているESG経営推進クラウド「SmartESG」のβ版のリリースを発表しました。
我々はいわゆるシードラウンドから、シリーズAを目指すフェーズにあるスタートアップです。

こちらが資金調達についてのリリースです。

2020年1月から事業を開始し、先日の発表に至るまで約2年半、思い返してみれば様々なことがありました。勢いで始めた起業は想像以上に厳しい世界であり、2回の大きなピボット(事業転換)を余儀なくされ、なぜ自分は会社を立ち上げたのか、何を成し遂げたいのかを自問自答し、内省を繰り返す日々。。

それらの苦しい時期を経て、私達はなんとしても実現したい世界にたどり着き、プロダクトのβ版をリリースします。

ここからはシェルパがこれから取り組む事業領域と、今回リリースした「SmartESG」で実現したい世界について、数年かけて今に至った経緯も含めてお話させてください。

仕事に明け暮れた投資銀行時代〜起業に至るまで

私は新卒で投資銀行という業界に足を踏み入れました。
当時から特定の企業で40〜50年働くというイメージを持てず、まずは短期間で成長できる業界を選んで、30歳になったら改めてキャリアを見つめ直そうとぼんやり考えていた私にとって、新聞の一面に載るような大型のM&Aや資金調達に早期から携わることができ、社会に大きなインパクトを残しながら圧倒的に成長できる投資銀行はファーストキャリアとして非常に魅力的に映りました。

そして運良く希望の投資銀行に入ることができたものの、そこからは想像を絶するハードな日々の始まりでした。詳細は割愛しますが、毎日深夜まで働き、時には朝日を眺めながらシャワーだけ浴びてまた出社する、そんな過酷な状況を元気に乗り切ることができたのも、20代で初めて出会った金融・ファイナンスという分野が自分の知的好奇心を刺激するものであり、企業の未来を左右するM&A・ファイナンス案件をいくつも経験する中で得られる達成感が、何ものにも代え難かったからだと思います。

このように投資銀行という仕事自体に一定満足を覚えていたものの、ある程度仕事に慣れ、キャリアを見直す時期と設定した30という年齢が近づくにつれ、もっと違った角度から世の中にインパクトを与える仕事は他にもあるのではないか、一度大きく方向性を変えて視野を広げても良いのではと考える自分も変わらずいました。

そんなことを考えている内に、昇進のタイミングでもらえるサバティカル・リーブ(1ヶ月休暇)を取る必要に迫られた私は、急に長期休みをもらっても何をしていいのかよく分からない、という状況に陥り、海外旅行に行くのも億劫だな。。と考える中で何を血迷ったのか前職の上司が起業したFintechスタートアップを手伝うことにしました。(今ガンガン成長しているこちらのpaildカードを手掛けるHandiiです。非常に便利なサービスなので法人カードの発行を考えている方は是非利用してみてください!)

1ヶ月という短い期間でしたが、参加したスタートアップでは投資銀行とは全く違った世界が広がっており、とてつもない衝撃を受けました。ゼロから何かを作るというプロセスを目の当たりにし、約束の期間が終わる頃には、自分自身が社会に対してもっともインパクトを生み出せるのは起業しかない、とまで根拠なく思うようになっていました。

しかし投資銀行に戻ってしまうとまた日々の仕事に没頭してしまい、中々起業するタイミングが見いだせなくなる。。少し悩みましたが、こういうのは勢いが大事だと直感的に思った私は、休み明けの出社日に上司の部屋に向かい、起業します!と一言伝えて、会社を早々に辞めることにしました。

とある上司から「こんなにふわっと何も決めずに辞めるやつは初めてだ。」と言われたことを今でも覚えていますが、その時はとりあえず起業する領域や事業内容は辞めてから考えればいい、くらいの大船に乗った気持ちでした。(今にして思えば、もう少し戦略的に準備してから動いても良かったと反省しています。)

起業後〜2度のピボットを経て出会ったESG・サステナビリティ

希望を胸に抱いて投資銀行を飛び出してすぐに、高校時代の同級生が共同創業者・エンジニアとしてジョインすることも決まり、順風満帆なスタートを切った、と思っていた2020年冬に、コロナが直撃しました。

当時共同創業者とやろうとしていたリアルオフィスを使った教育系のビジネスはピボットを余儀なくされ、その後に無理矢理考えたコロナ下での飲食店向けのニーズに応えたビジネスも全く手応えがなく、2021年の春先には2回目のピボットを考えるまで追い詰められていました。(ピボット話は本Noteでは語り尽くせないので、また別の機会に詳しくお話しようと考えています。)

次の事業が駄目だったら会社の解散も止むを得ない、と感じながら3度目の0からの出発を決断する中で、これまでの失敗を徹底的に洗い出し、軸にしようと決めたことが3つあります。

1つ目は、次の挑戦では「一生をかけてやりたいと思える領域の事業でない限り、簡単に事業化しない」ということです。

思い返すと、起業から1年半もの間、上手くいかなかった最大の原因を挙げるとするならば、「自分自身の長い時間を投じてまでチャレンジしたいと思えるイシューか?*」という点を突き詰めずに、ニーズの検証やソリューリョンの開発に走ってしまったことだと考えています。たとえ勢いで起業し、なんらかのイシューを見つけたとしても、この点を納得いくまで自問自答すべきでした。
注:ジェネシア・ベンチャーズの水谷さん著「シード期のスタートアップ経営 虎の巻」事業アイディアの見つけ方より引用

2点目は「大きなインパクトをもたらすビジネスをやる」ということです。改めて振り返ると、投資銀行では物足りない、もっと社会に対してインパクトを与えたい、と思って起業したにも関わらず、事業の立ち上げに何度も失敗する中で、世の中の表面的なニーズを探すことのみに固執してしまった自分がいました。

3点目は「マクロなトレンドを追う」ということです。これまでの失敗を経て、仮になんらかのニーズを満たすようなソリューションを作っても、それが短期的・一時的である場合は持続的に会社を成長させることはできない、そして時とともに需要が増していくかどうか、あるいは数十年後もニーズが拡大しているか、という長期性を測るにはマクロなトレンドを追い、一起業家として未来がどうなるかを見通さなくてはならないと感じたからです。

①一生をかけてやりたいと思えること
②大きなインパクトをもたらすビジネスであること
③マクロなトレンドが根底にあること

3度目の事業アイディア構築にあたって重視した3つの軸

上記3点を軸に、何も見つからなかったらそこまでと腹を括ってゼロから事業アイディアの検証をはじめましたが、これらに当てはまる事業がそう簡単に見つかる訳もなく、ただいたずらに時間だけが過ぎていく日々は精神的にも非常に苦しいものでした。

そんなある日、ふらりと立ち寄った本屋で「ESG」という単語が表題に着いた本を目にしました。なぜ目に止まったのかは今となっては全く覚えていないのですが、頭に残って離れず、気がついたら大量の本やネット上の情報を基にESGについて調べている自分がいました。

調べる中で分かったのが、欧米を中心にESG・サステナビリティへの取り組みは年々加速していること、日本でも2015年のGPIFによるESG投資拡大を契機に徐々にESGが浸透し、足元では2021年6月にコーポレートガバナンス・コード(CGコード)が改訂され、2022年4月からは市場再編で誕生したプライム市場に位置する企業を中心に、気候変動や人的資本の開示の実質的な義務化やガバナンスの強化が図られること、そしてこれらの動きはESG(環境や社会、ガバナンス)に意を用いる企業ほど、中長期的に企業価値向上(キャッシュフローの最大化)を実現する、と考える投資家を中心に推進されているということ。

こうした外圧もさることながら、科学的にも人間の活動が自然の自浄作用・回復のキャパシティを超えつつあることが示されており、これまでのビジネスが前提としてきた、「資源は無限にある、外部不経済は誰かが負担してくれる」という考え方そのものを企業が見直す必要に迫られているということも分かってきました。

「本物のサステナビリティ経営」を実践するためには、「環境・社会」と「経済」の関係と構造の理解が必要です・・・(中略)・・・「親亀こけたら皆こける」、すなわち、環境(親亀)や社会(子亀)が傷つき破壊されたら、経済活動(孫亀)自身が成り立たなくなる。つまり、経済活動は環境・社会を前提としていて、事業活動全体が環境・社会と両立していなくてはいけないという考え方です。

PwC's View 第32号 『なぜ「本物のサステナビリティ経営」が求められているのか』より

同時に、投資銀行時代にCGコードの制定や伊藤レポートの提言によって企業のROE重視などの大きな流れが生まれたことや、クライアントがM&Aなどを通じてESG推進のためのポートフォリオ整理を着手し始めていたことなども思い出し、外圧やビジネスの前提の変化が時代に一つの変曲点をもたらそうとしており、企業がESG・サステナビリティに取り組む流れはこれから一層加速する可能性が高い、との仮説を持つようになりました。

企業は今後ESG・サステナビリティをどのように経営戦略の根幹に据えていくのか、そしてESG経営の推進により企業は社会価値・経済価値を統合・実証することができるのか、気が付くと、ESGに対して投資銀行でファイナンスに出会って知的好奇心が刺激された20代の頃と同じ感覚を抱く自分がおり、これは長い時間をかけて自身がチャレンジしたい・すべき領域なのではと、いても立ってもいられなくなっていました。

ESG特化型メディアの立ち上げ、サステナブルコミュニティとの出会い

事業領域はおぼろ気に浮かび上がってきたものの、そうはいっても本やネットで得られるインサイトには限りがあり、誰がどのような課題感を持っているか(そもそも課題そのものが存在するのか)は分かりません。

ESG・サステナビリティ領域を短期間で深堀り、事業化にまで落とし込むには、より多面的なアプローチを取る必要がある、そう考えた私は、①ESG特化型メディアの運営、②ESG関連資格の取得、③ESGに関わる投資家・企業へのヒアリング、という3つに取り組むことにしました。特に①と②に関してはスタートアップの検証方法としては教科書的なものではないので、未だに正しいアプローチかは分かりません。ただ、その頃の自分はESGに取り憑かれていたので、とにかく誰よりも詳しくなりたい!という気持ちから、いずれもやるべきだと勝手に結論付けました

①ESG特化型メディアの運営
②ESG関連資格の取得
③ESG・サステナビリティに関わる投資家・企業へのヒアリング

ESG領域での事業化にあたって取り組んだ3つのアプローチ

まず最初に始めたのはESG特化型メディア「ESG Journal Japan」です。当時は国内外のESGに関する情報・ニュースをピンポイントかつ無料で取得可能な媒体も少なかったことから、自分たちでメディアを立ち上げて発信することで、国内外の最新動向への理解を深めつつ、ESGに携わる関係者とも話をする機会が生まれるかもしれない、そんな気持ちで始めたのを覚えています。

またESGに関連する資格についても、一度体系的に学ぶことで後々の事業・プロダクト開発にも役立つという観点で、最もESGへの取り組みや体系だった整理が進んでいる欧州の資格(EFFAS Certified ESG Analyst)を取ることにしました

この追い詰められた時期に一手間かかるメディア運営のみならずESG資格も取ろうとするなんて、社長は気でもふれたのか、と思ったチームメンバーもいたはずですが、この領域に本気でコミットするという私の気迫を察したのか、いずれの提案も受け入れてもらいました。(今に至るまで私のワガママを受け入れてくれる共同創業者を始めとする懐の広いメンバーには感謝してもしきれません。)

一方で最も難しかったのが、③の企業へのヒアリングです。ESG投資に関わる投資家サイドについては、自身が金融出身ということもあり、過去の関係性を辿りながら様々な方とお話することができました。その一方で企業の担当者への接点が少なすぎてESG経営における内部事情が全然見えてこない。。これが第2の壁でした。

何らかの工夫により企業の担当者とお話・交流できないか、そう考えつつSNS上でのESG Journalニュース配信や資格勉強を地道に続けていた2021年の初夏の頃、Twitter上でサステナビリティに関するコミュニティが立ち上がり、またたく間にメンバーが増えている、というツイートをたまたま目にしました。

サステナブルコミュニティ発起人 ゆうじろうさんのtweetより

こちらのゆうじろうさんという方にお伺いすれば、企業のESG・サステナビリティ担当の方とも交流できるかもしれない、とふと感じ、参加のお願いをDMした所、ゆうじろうさんは瞬時にお会いする機会を作ってくれ、サステナブルコミュニティ(サスコミュ)の参加を快諾してくれました。またそれだけではなく、サスコミュ参加後も複数のサステナビリティ担当者との交流機会を設定してくれたことで、ここから一気に事業会社のESG業務に対する解像度が上がるようになりました。(このときも、そして今も継続的に応援してくださるゆうじろうさんやサスコミュのメンバーの方々には感謝してもしきれないので事業を成長させて恩返しすると心に誓っています!)

結果としてサスコミュやメディア経由で知り合った数十〜百の投資家や企業の方々と話をしていると、環境や社会、ガバナンスを重視する企業ほど中長期的に企業価値が向上する、と信望する人は増えてきているものの、投資家サイドはどのように企業のESG開示情報を判断すれば良いのか分かっておらず企業のサステナビリティ担当者はそもそもの業務におけるESGのカバー範囲が広く、さらには様々な評価機関・投資家対応に紐付く各事業部とのコミュニケーションに追われ、疲弊しきっているという現状でした。(課題感の詳細についてはこちらの取材記事などをご覧ください。)

特に後者の企業のサステナビリティ担当者の課題感は深刻だと感じ、ESGへの取り組みが企業価値向上に資する云々という前に、「未来に向けた高付加価値なESG推進作業に企業がリソースを割ける環境を作り、その結果として企業が中長期的に企業価値を向上できるような仕組みを作りたい。」との思いを強めるようになりました。

シェルパとSmartESGが実現したい世界

このようにESG・サステナビリティとの出会いから、多くの投資家・企業の担当者とのディスカッションを経て、我々がまず始めに取り組もうと決めたのは「テクノロジーによるESG・サステナビリティ経営の革新」です。

働き方改革によって労働時間は減少する一方で、企業の経営陣・担当者は、多くの時間を使って国内外のESGの最新情報をキャッチアップし、各事業部とコミュニケーションをしながら、企業価値を向上するためのESG経営を行う必要に迫られています。そしてこれには途方もない時間がかかります。

今、企業やサステナビリティ部署が限られた時間・リソースの中でESG経営のベストプラクティスを構築するために求められているものは何でしょうか。

我々が行き着いた答えは、「経営陣とサステナビリティ担当、各事業部がシームレスにコミュニケーションしながら全社一体となったESG経営を推進可能なプラットフォームの構築」です。

もう少し簡潔な言葉にまとめられそうなのですが、そのまま表現すると上記のようなプロダクトをつくることが私の思想を体現することにつながると考えています。

また、テクノロジーによってESG・サステナビリティ経営を革新したい、という想いはシェルパ・アンド・カンパニーという弊社名にも紐付いています。我々は「シェルパ」というヒマラヤ登山を行う人々を支援するネパール民族のように、この不確実な時代においてESG経営推進という高い山を登ろうとする企業・人々に伴走し続けたいと考えています

このような我々の思想や目指す世界を実現する第一歩として今回リリースする「SmartESG」の詳細については以下サイトよりご覧ください。既に複数の上場企業様にβ版の導入が決まっており、今後正式版のリリースを目指して、さらなる機能の強化を目指していきます。(興味がある方は是非問い合わせフォームよりご連絡ください。)

我々は今後、ESG情報開示や経営管理プロセスの様々な負を解決するスタートアップとして、「ESG・サステナビリティ経営をテクノロジーの力で加速する」というミッションのもと、テクノロジーを用いてESG経営のベストプラクティスを確立し、企業がより高度なESG経営を推進する世界の実現を目指します。

現在は上記写真の社員・副業メンバーを中心にSmartESGを開発していますが、我々のミッション・パーパスに向かって一緒に歩んでくれるメンバーをまだまだ募集しています!

最後になりますが、私が現在参加しているサスコミュは1年で参加者が200名近くまで増え、様々なイベントやSlackでの交流を通じて、ESG・サステナビリティの最先端の情報や、博識な方々の叡智が共有されています。

素晴らしく活発なコミュニティですので、ESG・サステナビリティに携わっている・サスコミュに興味がある、という方は是非入会を検討してみてください!(最近は私も運営にも携わっているので、私のTwitter宛にご連絡頂く形でも結構です。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?