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MIDIが拡げるパイプオルガンの可能性

MIDIって何だろう

「MIDIを使ったプロジェクトがあって」と話しはじめると、主に「わからない!」と耳に蓋をされるか「今さら・・・?」と言われるかどちらか、というのが私が昨今得る印象である。総じて、反応がすこぶるよろしくない。
私自身長い歴史を持つ楽器を演奏するアナログ人間なもので、MIDIについてペラペラと説明できる訳でもないけど、辞書的な説明をすると、MIDI(Musical Instruments Digital Interface)とは電子楽器同士を接続するための世界共通規格のことを指す。
主に鍵盤楽器で使用されることが多いと思うが、例えば「C1の音の鍵盤をどれだけの強さでどれくらいの長さ押した、離した」といった情報を、MIDI接続のある別の楽器やコンピューターに伝えることができる。
私がかつてMIDIとご縁があったのは、楽器同士の接続ではなくて、パソコンで楽譜を作るときで、当時はMIDI鍵盤を使用して音を打ち込んでいた。
でもほどなくして楽譜作成ソフトやアプリの機能が向上して、MIDI鍵盤なしでも比較的楽に楽譜が作れるようになり、MIDI鍵盤はお蔵入りしてしまった。

MIDIと自動演奏機能


MIDIの使用例で他に思いつくのは、楽器の自動演奏機能だろうか。
日本にはコスト的にパイプオルガンが置けない場合(例えば結婚式場だとか一部の教会だとか)、パイプオルガン仕様の電子オルガンが用いられる場合がある。そうした電子オルガンには大抵MIDIが備わっていて、それは演奏録音・自動演奏のためにあると認識されていることが多い。
実際のところ、オルガン演奏のニーズがある日(例えば結婚式だとか)にオルガニストが見つからなかったり、急に演奏者の都合がつかなくなったり、というシチュエーションでは、事前に録音した演奏をいつでも再現(再生)することができるので、「無人でもオルガンが鳴る」というのは一定のメリットがありそうではある。
ただ、結婚式場や教会で実際にそういう目的でMIDI機能が使用されている場面に遭遇したことは、私はこれまでない。でも急に助っ人を頼まれることはある。
それはきっと、楽器を有人で生演奏することに重きが置かれるからだと思う。物理的には無人でも演奏可能なことがあるのだけど。

パイプオルガンとMIDI


パイプオルガンにもMIDIが取り付けられることがある。その多くの場合は、コンサートホールなど大きな会場に設置される比較的規模の大きな楽器で、主たる使用目的はやはり、演奏録音・再生にあると思う。
これには大きなメリットがある。

サントリーホールのオルガン

パイプオルガンはそもそも、オルガニストが会場で実際に鳴っている音を聴きとるのが困難なことが多い楽器である。演奏するタイミングと会場に音が響くタイミングに時差が生まれることはもちろん、沢山の種類のパイプから音を選んで組み合わせて欲しい音色を作っていくレジストレーションという作業でも、演奏台で聴こえる音と客席で聴こえる音が大きく異なることが多い。ではどうするかというと、誰かに聴き取ってもらったり、誰かに弾いてもらって自分が聴きに動いたりする。でも実際には、自分の代わりに急に弾けたり、自分の音の好みのように聴き取ってくれる人を見つけるのは難しいことが多く、そんなときにはMIDIで録音したものを再生し、オルガニスト自身がホールの客席側にまわってサウンドチェックできるので、非常に有難い機能である。

随分長くなってしまったが、ここまでは前置きです。
つまりオルガニストにとっては一般的に、MIDIがそれほど興味深く食いつかれる訳ではないという状況説明に過ぎません。

最新のオルガン×MIDI実践:Gamut Inc


が、ここからが本題です。
最近MIDIが熱い、と思っている。MIDIはパイプオルガンの可能性を広げるツールの一つになり得ると思う。
そして主にヨーロッパでは少しずつ興味深い試みが行われていて、実はそれに私も少し携わらせてもらっている。京都で、グレイスチャペル(同志社中高)で、いくつかのプロジェクトを実践しているところである。
ただ、あまりにマニアックなことをしているので、なかなか知ってもらうことができない気がするのです。説明も難しい。
詳細を語るのはまた記事を分けることにして、ひとまずここではGamut Incというドイツを拠点に活動するアーティストデュオのプロジェクトAggregateを紹介し、オルガンとMIDIでこういうことができる、という一例を示したい。
まずは彼らが公開しているAggregate 2021のTrailerを見てもらうのが一番わかりやすい。 

彼らのプロジェクトでは、基本的にオルガニストが演奏台に座ることはない。鳴り響くのはオルガンの音で、スピーカーを使用することはない。コンピューターでプログラミングされた演奏情報がMIDIを通してオルガンに伝達され、オルガンが演奏するのだ。
オルガニスト的には楽器からオルガニストが排除されてしまうので、面白くないかもしれない。所詮機械の演奏?
でも私は面白いと思う。とても。

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