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5.1 CFOの戦略的な財務意思決定:データ駆動のアプローチ

第5章の中でデータ駆動のアプローチについて説明しました。

5.1 戦略的な財務意思決定:データ駆動のアプローチ

数値はただの数字ではありません。それぞれが物語り、未来を予測し、私たちが何をすべきかを示しています。スタートアップのCFOは、このデータを読み解き、どの投資が最もリターンが高いか、どの部門が最も費用対効果が高いかを判断します。例えば、顧客獲得コスト(CAC)と生涯価値(LTV)を分析して、マーケティングの効果を評価したり、新たな投資に移行すべきか判断します。

このトピックについて、少し詳しく説明したいと思います。

顧客獲得コスト(CAC)と生涯価値(LTV)の比較

BIツールを用いた方法

スタートアップのCFOにとって、データは決定の鍵となります。ビジネスにおいては、一見するとただの数字に見えるものも、深く掘り下げていくと、その背後に隠されたストーリーや洞察を見つけ出すことが可能です。例えば、顧客獲得コスト(CAC)と生涯価値(LTV)の比較から、マーケティングの効果を評価することができます。

では、具体的にどのようにこれらのデータを読み解き、意思決定に役立てていくのでしょうか。それには、適切なツールと計算ロジックが必要です。

まずはツールから見ていきましょう。日本で利用可能なデータ分析ツールとしては「Tableau」や「Google Data Studio」などがあります。これらのツールを使用すると、数値データをビジュアル化し、理解しやすい形で分析することが可能です。

例えば、Tableauを使用して、CAC(顧客獲得コスト)とLTV(生涯価値)の比較分析を行うことができます。データの取り込みから可視化までの一連の流れは以下の通りです。

1. まず、企業の各種データ(売上、広告費用、新規顧客数など)をExcelやGoogleスプレッドシート等にまとめます。

2. Tableauにデータを取り込み、CACとLTVの計算を行います。CACは全広告費用を新規顧客数で割ることで算出でき、LTVは顧客一人当たりの売上をその顧客が引き続き利用する見込みの期間で割ることで算出します。

3. CACとLTVをグラフで表示し、比較分析を行います。LTVがCACよりも高い場合、マーケティングの効果が高いと評価できます。

これらのツールを活用することで、CFOはデータを視覚的に理解し、より適切な意思決定を行うための洞察を得ることができます。データは数字以上の価値を持っており、それを適切に活用することが企業の成功につながるのです。

モダンExcelを用いた方法

もちろん、Tableauなどはコストが高めなため、エクセルのような他のツールでも代用できます。

Excelもデータ分析のための強力なツールで、特にPower QueryやPower PivotなどのモダンExcelの機能を使うと、より深い分析が可能になります。

具体的には、CAC(顧客獲得コスト)とLTV(生涯価値)の計算をモダンExcelで行ってみましょう。以下にその手順を示します。

1. 最初に、企業の各種データ(売上、広告費用、新規顧客数など)をExcelにまとめます。各データは独立した列に記録しましょう。

2. Power Queryを使用して、これらのデータを取り込み、必要な変換やフィルタリングを行います。例えば、特定の期間や顧客セグメントのデータのみを抽出することも可能です。

3. CACを計算するためには、全広告費用を新規顧客数で割ります。具体的には、「広告費用」列を「新規顧客数」列で割った新しい列を作成します。この操作は、Power Query内で直接行うことも、データをExcelのワークシートに読み込んでから行うことも可能です。

4. 次に、LTVを計算します。これは顧客一人当たりの売上をその顧客が引き続き利用する見込みの期間で割ることで算出します。具体的には、「売上」列を「期間」列で割った新しい列を作成します。

5. CACとLTVの列を持つデータテーブルができたら、これをPower Pivotに取り込みます。Power Pivotを使用すると、データテーブル間のリレーションシップを定義し、複雑な計算を行うことが可能になります。

6. 最後に、Excelの標準的なグラフ作成機能を使用して、CACとLTVを比較するグラフを作成します。これにより、マーケティングの効果を視覚的に評価することができます。

モダンExcelの機能を活用すれば、大量のデータでも短時間で分析することが可能になり、より迅速に意思決定につなげることができます。

事業別、商品・サービス種類別の利益率改善のための深掘り分析


次に財務データを使った利益率改善のデータ駆動アプローチについてです。

1. 事業別の深掘り分析

たとえば、ある会社が複数の事業ライン(製品A、製品B、製品C)を持っている場合を想定します。会社全体の利益率を向上させるためには、各事業ラインの利益率を分析して改善点を見つけ出すことが必要です。

  モダンエクセルを使用して、まず「事業ライン」「売上」「コスト」の各列を持つデータをまとめます。それから各事業ラインの利益率(売上からコストを引いたものを売上で割った値)を計算します。

  これを元に棒グラフを作成します。横軸に事業ライン、縦軸に利益率を取り、それぞれの事業ラインの利益率を視覚的に比較できるようにします。これにより、利益率が低い事業ラインや改善の余地がある事業ラインを明確に識別することができます。

2. 商品・サービス種類別の深掘り分析

同様に、商品やサービスの種類ごとに利益率を分析することも有効です。商品やサービスの種類ごとに「売上」「コスト」の列を持つデータを作成し、各種類の利益率を計算します。

  このデータから、各商品やサービスの販売数と利益率を示すバブルチャートを作成します。横軸に販売数、縦軸に利益率を取り、バブルの大きさは売上高に相当するようにします。このチャートを用いて、利益率と販売数の関係、どの商品やサービスが売上への寄与度が高いのかを一目で理解することができます。

ここまでの説明だけでは、どこら辺がデータ駆動型のアプローチかわかりにくいとも思います。

データ駆動型での利益率改善のポイント

利益率改善のデータ駆動型の戦略的な財務意思決定の中心には、売上、原価、販管費などの各種費用データを適切に管理し、それらを基に深掘り分析を行うという考え方があります。そのためには、以下のような要点を考慮し、適切なデータ管理と分析の仕組みを整えることが重要となります:

1. データの精度と完全性:

分析の精度は、使用するデータの精度と完全性に大きく依存します。データが不正確であったり、不完全であったりすると、分析結果もそれに影響を受けてしまいます。したがって、データを収集し、整理する際にはその精度と完全性を確保することが最重要課題となります。

2. マスターデータマネジメント(MDM)の重要性:

データの一貫性と信頼性を保つためには、マスターデータマネジメントが重要な役割を果たします。MDMは全社的なデータの一貫性を確保し、重複や矛盾を排除します。これにより、分析の信頼性を高め、より正確な意思決定を可能にします。

3. 費用データの詳細化:

事業別、商品・サービス種類別の利益率を詳細に把握するためには、それぞれの費用データを詳細に分類し、収集することが重要です。これには、原価、販管費、間接費などの各種費用データが含まれます。これらの費用データを具体的に分析し、それぞれが全体の利益率にどのように影響を与えているのかを理解することが重要です。

4. 配賦計算を柔軟に行えるシステムの構築:

間接費を適切に配賦することは利益率分析において重要な要素です。配賦ルールは業界や事業の特性により変化するため、それらを柔軟に対応できるシステムが求められます。具体的には、特定の間接費が特定の製品やサービス、あるいは事業部門にどの程度配分されるべきかを決定し、それに基づいて利益率を計算することが求められます。

これらの要点を押さえ、適切なデータの収集と分析の仕組みを整えることで、データ駆動型の戦略的な財務意思決定を効果的に進めることができます。データ駆動のアプローチは新しいツールや技術の活用によって進化し続けており、これらを活用することで組織の利益率改善に大きな寄与を果たすことが期待されています。

自然言語処理によるダッシュボード事例


データ駆動型アプローチについてまだまだ事例を挙げていきたいと思います

自然言語処理(NLP)は、テキストデータを分析し、その中の意味を理解するためのテクノロジーです。この技術を使用して、例えば顧客のフィードバックや商品レビューを分析し、その結果をダッシュボードに表示することが可能です。

具体的には、日本語対応のNLPツールである「Mecab」や「SudachiPy」などを使用して、テキストデータから意味のある情報(例えば、特定のキーワードの頻度や、感情のポジティブ/ネガティブなど)を抽出します。抽出したデータは、モダンエクセルで視覚化します。

例えば、「キーワードの頻度」を視覚化するためのワードクラウドを作成します。頻出するキーワードを大きく、あまり出現しないキーワードを小さく表示することで、顧客のフィードバックやレビューにどのような言葉が多く含まれているかを一目で理解できます。

また、「感情のポジティブ/ネガティブ」を表すための棒グラフを作成します。ポジティブなフィードバックとネガティブなフィードバックの数を比較することで、商品やサービスの受け取り方を把握できます。

これらの視覚化は、モダンエクセルのダッシュボード機能を利用して一つの画面にまとめることができます。これにより、テキストデータから抽出した情報を一覧でき、効率的な意思決定に活用することが可能となります。

最後に、さらに2つの進んだデータ駆動型の戦略的財務意思決定事例をご紹介します。

マシンラーニングを用いた売上予測と最適価格設定


   これは、マシンラーニングアルゴリズムを使用して、売上や商品価格の最適化を行う方法です。具体的には、時間系列分析を用いた売上予測や、弾力性モデルを用いた最適価格設定などが可能です。

   この手法を用いると、過去のデータから売上のパターンを学習し、未来の売上を予測することができます。また、商品の価格と売上の関係を学習し、最適な価格設定を行うこともできます。これにより、利益率をデータ駆動で最適化することが可能になります。

   ツールとしては、PythonのScikit-learnやTensorFlow、あるいはMicrosoftのAzure Machine Learningなどがあります。

プレディクティブメンテナンスによるコスト削減

   プレディクティブメンテナンスは、IoTデバイスから得られる大量のデータを活用して、設備の故障を予測し、事前にメンテナンスを行うことで、故障による停止時間を最小化し、効率を向上させる手法です。

   データ分析の手法としては、異常検知や生存時間分析などがあります。異常検知では、設備からのデータが通常の範囲を逸脱することを検知し、予測メンテナンスを行います。生存時間分析では、設備の寿命を予測し、最適なメンテナンススケジュールを計画します。

   ツールとしては、PythonのPyODやlifelines、またはMicrosoftのAzure Machine Learningなどがあります。

これらの方法は、より進んだデータ駆動型の意思決定を可能にし、利益率の改善に寄与します。ただし、これらの手法は専門的な知識と技術を必要とするため、専門家の助けを借りるか、適切な研修を受けることをお勧めします。

おわりに

今日のビジネスの世界では、「データ」が新たな価値創造の源となっています。そして、その価値を引き出すためには、単にデータを収集するだけではなく、それを意味ある洞察に変換し、具体的な行動に結びつけるデータ駆動のアプローチが必要です。

私たちが見てきたように、具体的なツールと手法を活用し、データの収集から分析、意思決定に至るまでの過程を整理することで、企業は資源の最適化、業績の向上、新たなビジネスチャンスの発見など、多くの可能性を手に入れることができます。

そして、そこには間接費の配分からMDMの導入、最新のデータ分析ツールの活用に至るまで、多くの具体的なステップとテクニックが絡み合っています。

しかし、それらの手法やツールは結局のところ手段であり、最終的な目的は、より良いビジネスの意思決定と結果の改善です。データ駆動のアプローチを取ることで、その目的達成への道が一層明確になり、より確実なものになるのです。

これまでの話をまとめると、データ駆動のアプローチは我々にとって最強の羅針盤とも言えます。未来は確定していないもの。だからこそ、データを手掛かりに、自分たちの進むべき方向を探し、選択し、舵を取ることが求められています。これこそが、データ駆動のアプローチがもたらす最大の価値です。

それでは皆様、この先、データとともに素晴らしい未来を創り上げていきましょう。データ駆動の旅は、これからが本当のスタートです。


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