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殺人は舞踏会にて2.

  1. 集合

  2. 帰宅

2.毒

 こんな時でもマサトは軽快にスキップを決め込んでやがる。俺の依頼遂行に対する陰鬱なモチベーションはコイツによって少しずつ崩されていったのかもしれない。

 ダンスフロアは殺伐としていた。ダンサー同士、互いに顔では笑っているが心では殺戮、暗殺や裏切りを企んでいる。その心情はわからないでもない。その大会の成績次第では今後のダンサーとしての価値や仕事のギャラが天地の差を生む。恐ろしい。俺には到底真似できない。
マサトは「俺も踊ってみたいな。もちろんお前とな!笑。ガハハハ!」とただの思いつきでテキトーな事を言っていた。ほんと、軽いやつだ。

 2人でダンサー達を横切りながら観客のふりをして賞金を隠してありそうな場所を探した。ダンスフロア付近には無さそうなのは誰が見ても分かるほどだった。恐らく大会運営のスタッフがいる控え室、或いはその大会を企画した事務所内の金庫にあるだろう。それか銀行に入っていた場合はキャッシュカードとパスワードが必要になるのでかなり面倒だ。

 とりあえずマサトと大会運営スタッフの控え室を調べにいくことにした。だが、控え室には談笑している人間が多くいる。いま、この中に入るのは難しい。一度作戦を練るために2人で誰もいない多目的室に身を置く事にした。

誰もいない多目的室があることを俺は不思議に思ったが、作戦をスタッフに聞かれる心配もない。2人で外へ注意を払いながらテーブルの下で小さく丸まりながら作戦を話し合うことにした。

扉を閉め、鍵をかけた。

その時
埃っぽい陰世界から解き放たれて軽やかになり、少年時代の無責任な感覚を抱いた。

誰も入ってこない。気の許せる友と知恵を出し合い、天井の無い膨大な可能性すら感じた。要するに安心感に包まれた。

 まず最初に互いの武器を確認し合った。マサトはスタンガン、それに対して俺はボールペン。(ボールペン…弱すぎ…)

「そんな武器で戦えるのかよ笑。手傷を負わせる事は出来ても殺すのは無理だろそれ笑。」マサトは小声で揶揄ってきた。

(そんな事わかってるけど仕方ないんだよなー。これしか無いし、殺しなんて俺にはできないし)

「まぁしゃーないな。やれる事をやっていくしか無い。とりあえず俺がスタッフをこれで気絶させて連れてくる。そんで服を奪って、その服を着てスタッフ控え室に堂々と入るぞ。」マサトはスタンガンを図々しく見せつけながら言った。

(顔でバレるだろ。どう考えても。)

マサトの身長は約175㎝、俺は約180㎝。それなりに高身長な2人に見合うようなスタッフがいるのか、かなり疑問だった。しかし平然とスタッフ控え室に入る方法としては、かなりリスクは少ない。他のスタッフと紛れて入れば、かなり自然に入室できる。

(入室して賞金があるかどうかを確認し、控え室を出る。5秒もあれば出来る。やってみっか。)

 「よーし、ほんじゃ行ってくるわ」とマサトは意気揚々と多目的室を出て行った。しかし、アイツは本当に底無しのアホなのか、スタンガンを忘れて行った。

(昔から変わらない。幾度となくアイツには教科書を貸してあげたり、体操着も貸したり。クラスの人気者なのにどこか抜けてる。そこがまた、アイツに人を惹きつけるのかも知れない。)

多目的室の外にマサトの姿が見えていた。今から届けに行けば見失うことなく届けられると思いスタンガンを手に取った。

 すると、まだ一度も使っていないはずのスタンガンが猛烈に熱かった。携帯を使い過ぎて熱くなっている時の、あの感じだった。

(いつ使ったんだ?倉庫を出て多目的室に来るまでに使用してる様子は見られなかった。とすると、集合場所に来る前にたくさん使ったとか?んー、そんなわけな…)

ツーーーーーーーー、プスーーーーー

薄黄色の、きめ細かい霧がスタンガンから物凄い勢いで漏れ出した。しかも濃厚な硫黄のような匂いがし、瞬く間に目に効いた。

(毒だ…。こんなの手に持ってたら10秒足らずで意識が飛ぶ。)
俺は可能な限り多目的室の遠くに毒霧スタンガンを放り投げた。しかし、既に毒は部屋中に充満していた。息を止め、泥になっていく重い体を、遠くに見える0.3㎜の光へ向かって匍匐前進で運んだ。

 最初から違和感はあった。誰もいない多目的室などあるはずがない。なぜなら誰もいないならダンサー達の控え室にでもしたらいいからだ。つまり、ここはメンバーを減らす為の部屋としてマサトが用意した部屋だったんだ。確かにメンバーが減れば1人に対する報酬の金額も増える。

 ハエの音を口から漏らし、まだまだ極楽に逝かぬよう唇を噛んだ。その痛みで、やっとの思いで意識を保っていた。

(死ぬ…。親友に裏切られて…。ちくしょう。)

扉の前まで来たが鍵が高くて開けられそうに無い。扉にあるわずかな隙間から青い空気を吸った。ほんのり、体力を1%まで回復させ、30分ほどかけてドアを開けた。

 血涙、嘔吐、眩暈、痺れを全て飲み込み直立で歩いた。そして会場を出た。

(ようやく逃れる…。)

はらわたが煮えくりかえるほどの晴天で、涼しい天気だった。
時刻は意外とまだ9時。

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