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『天下人の茶』執筆にあたって(後編)  【歴史奉行通信】第三十号

いよいよ11月も半ばを回り、
皆さんの仕事も
年末モードに入ってきたのでは
ありませんか。

私も仕事に次ぐ仕事の一年でしたが、
とても充実していました。

伊東潤メールマガジン
「第三十号 歴史奉行通信」を
お届けいたします。

〓〓今週の歴史奉行通信目次〓〓〓〓〓〓〓

1. 伊東潤メルマガ『歴史奉行通信』
三十号を迎えて

2. ロングエッセイ
『天下人の茶』執筆にあたって(後編)

3. 感想 / SNS投稿ご協力のお願い /
Facebookファンページのお知らせ

4. 伊東潤Q&Aコーナー

5. お知らせ奉行通信

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1. 伊東潤メルマガ『歴史奉行通信』
三十号を迎えて

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さて、今回でメルマガも三十号を数えました。

最初の頃は、どのような記事に
ニーズがあるのか手探りでしたが、

様々な過去のコンテンツ
(寄稿やインタビュー記事など)
を引き出してくることで、
登録者数がうなぎのぼりに増えたことから、
過去のコンテンツの前後に
コメントを入れるという
現在の方式を確立しました。

まだまだコンテンツはあるので、
これからも基本的にこの方法を
取っていきたいと思っています。

さて今回は、
「『天下人の茶』執筆にあたって 
―千利休の死の謎に迫る―」
というロング・エッセイの後編です。

短編個々の説明から入るので、
もう一度、この連作の構成と、
それぞれの死の有様を振り返ってから、
後編を始めたいと思います。

【タイトル / 視点人物】

『天下人の茶』第一部 / 豊臣秀吉

『奇道なり兵部』 / 牧村兵部  
→慶長の役の際に朝鮮で病没。

『過ぎたる人』 / 瀬田掃部
→秀次事件に連座して死を賜る。

『ひつみて候』/ 古田織部
→大坂冬の陣の直後、
謀反の疑いで処刑。

『利休形』 / 細川三斎(忠興)
→三斎は天寿を全う。
蒲生氏郷には毒殺説あり。

『天下人の茶』第二部 / 豊臣秀吉
→病死。

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2. ロングエッセイ
『天下人の茶』執筆にあたって(後編)

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利休には、「利休七哲」
と呼ばれる弟子たちがいた。

この七哲は武家茶人だけに限られ、
最も利休の謦咳に接していたと思われる
直弟子の山上宗二や、
息子の道安や少庵は含まれない。

七哲には諸説あるが、
蒲生氏郷、
細川三斎(忠興)、
高山右近、
芝山監物、
瀬田掃部、
牧村兵部、
古田織部
の七人というのが、
ほぼ定説になっている。

私は七哲に関する関連書籍や史料を読み、
七哲には不可解な死を遂げた人物が
多いことを知った。
そして、そうした人物の視点から
利休に迫ることにした。

それでは個々の短編作品を
振り返っていきたい。

『奇道なり兵部』で取り上げた
牧村兵部は、文禄・慶長の役で
朝鮮半島に渡海し、
そこで病死したことになっている。
多分、それが事実だろう。

だが兵部こそ、
古田織部に先駆けて歪み茶碗を
初めて茶席に用いた武将であり、
その芸術センスは七哲の中でも
飛び抜けている。

兵部は自らの侘を見出すべく、
苦労に苦労を重ねた末に
歪み茶碗というコンセプトに
たどり着いたのだ。

そして彼は、
自ら生み出した歪み茶碗によって
殺されるという
ストーリーを思い付いた。

『過ぎたる人』の視点人物は
瀬田掃部だが、彼の場合、
豊臣秀吉の甥の関白秀次に近侍し、
いわゆる「秀次事件」に連座して
死罪となった。

秀次の宿老の一人とはいえ、
掃部は大身ではなく、
おそらく政治的なことには
関与していなかったと思われる。
つまり秀次の茶頭を
務めていたにすぎない。

そんな掃部が秀吉から
死罪を申し渡されるのは、
実に不可解なことだ。

そこに何らかの謎があると思い、
彼を視点人物の一人に選んで
ストーリーを考えていった。

続いて『ひつみて候』の
古田織部である。

織部の死の謎を解くことは、
利休~織部~小堀遠州と連なる
「内なる世界」の支配者の系譜を
はっきりさせることであり、
ここに、この連作長編集の核心
(ハイライト)がある。

織部と言えば、漫画『へうげもの』の
イメージが強いが、これまで、
さほど研究がなされてきたわけではない。
とくに、その死をめぐる謎は
不可解に過ぎる。

私は断片的に残された史実を元に、
織部の死の謎に迫ろうとした。

そして『利休形』だが、
細川三斎と蒲生氏郷という
謎の死を遂げたわけでもない
二人の凡庸な茶人を描くことで
(視点は三斎のみ)、
茶の湯における天才性や独自性とは
何かを問い掛けることにした。

こうした冷めた視点の
一編を挟むことで、
凡庸でない人が際立つという
効果もある。

ここまでで牧村兵部、瀬田掃部、
古田織部、そして細川三斎という
四人の茶人を
取り上げることが決まった。

「さて、もう一人を誰にするか」
を考えていたところで、
「はた」と気づいた。

七哲にこだわらずとも、
武家茶人なら誰でも構わない
のではないかと。

そこで秀吉視点の一編を設けることで、
利休と秀吉の対峙感を、
いっそう際立たせることにした。

その結果、ラストで秀吉が己を見失い、
迷走していくことを予感させながら
エンドマークを迎えるという構成を
取ることができた。 

戦国時代、茶の湯は戦いに疲れた
武将たちの心を慰め、
互いの風流心を比べ合う
格好のツール(趣味)だった。

しかしツールは次第に
武将たちの心を支配し、
最後には武将たちを統御しようとした。

利休は天下人・秀吉の懐に入り込み、
「内なる世界」の支配者になると同時に、
現世にも気づかれぬように浸透し、
「静謐(平和)」を作り上げようとした。

だが秀吉には類まれな芸術センスがあり、
現実世界だけでなく
「内なる世界」へも侵攻を図ってきた。

傀儡子として徐々に現実世界をも
統御しようとしていた利休にとって、
それは予想外のことだった。

やがて二人は、
現実と「内なる世界」という
双方の立場から対決することになる。
これこそ、戦国時代最大の合戦だった。

その駆け引きの果てに、
当然のごとく秀吉は勝者となるわけだが、
やがて殺したはずの利休に
心の内を乗っ取られて破滅していく。

苛烈な時代を生きる武将たちの
心を慰める茶の湯。

だがそこには、
現実世界を上回る凄絶な
ドラマが隠されていたのだ。

(後編終了)

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3. 感想 / SNS投稿ご協力のお願い /
Facebookファンページのお知らせ

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さて、いかがでしたか。
茶の湯の深さも恐ろしさも、
ご理解いただけたのではないかと思います。
それを実際に感じてもらうために、
ぜひ12/4発売の文庫版
『天下人の茶』をお読み下さい。
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また遅くとも2020年初頭には、
大著『茶聖』が単行本化されます。
こちらは利休視点ということもあり、
秀吉と利休のせめぎ合いが、
さらに迫真の筆致で描かれています。

利休は、秀吉から死を賜ることで
敗者となったのか。

逆に死したからこそ、
秀吉の野望を挫くことができたのか。

果たして本当の勝者はどちらだったのか。

互いの心の内を刃で抉るような駆け引きを
お楽しみ下さい。

最後に皆様にお願いです。
このメルマガの感想などを
ツイッター等のSNSに上げて
いただけないでしょうか。
尚、アップいただく際は
「#歴史奉行通信」
「#伊東潤メルマガ」
のハッシュタグをつけてください。

とくに今回は
「茶の湯と利休」についての
感想などをお寄せいただければ
幸いです。

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「歴史奉行通信」は、
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内容を変えていきます。

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また質問もどんどんお寄せ下さい。
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また、伊東潤のファンのための
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「評定衆(ひょうじょうしゅう)」が
オープンしました。
ファン同士の会話を楽しみたい方や、
ニュースをいち早く知りたい方は、
是非こちらよりご参加ください。
私も不定期で登場します。
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では、また!

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4. 伊東潤Q&Aコーナー

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さて、今回のQ&Aコーナーには
秋らしい話題を
いただいています。

Q.
食欲の秋のせいか、
最近お腹まわりの肉が気になります。
伊東先生が食事で気をつけている
ことがあれば知りたいです。
(豊 様)

A.
仰せの通り、私も昔から体調管理には
気を遣っています。
それでもメタボになって
しまったのでショックでした。

食事は高タンパク低脂肪を心掛け、
炭水化物も控えめにしていますが、
やはり運動が第一です。

私の場合、ずっとウエイトトレーニングを
続けており、それで太らないと思ってきた
のですが、そうも言っていられなくなり、
最近、水泳を始めました。

始めたといっても昔からやっていたので、
再開するやすぐに1,000mは楽に
泳げるようになりました。
今はウエイトをやってから
プールに行くという習慣になっています。
ただし多忙だと、
なかなかジムに行けないので、
それが悩みですね。

(伊東潤)

***************

いつもご質問をはじめ、
ご意見、感想をいただき
有難うございます。

インタラクティブを心がけている
伊東潤のメルマガでは、
皆さまからの質問に最大限にお答えします。
是非お気軽に以下のリンクより
お送りください。
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5.お知らせ奉行通信
新刊情報 / 読書会 / その他

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【新刊情報】

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追ってオープン予定)

【読書会・主催イベント情報】
現在予定している、
読書会および主催イベント情報一覧です。

11月24日
<まだご参加間に合います!>
コルクラボ文化祭でプチ読書会を開催予定。
題材は『国を蹴った男』。
いよいよ今週より募集が始まりました。
詳細やチケットはこちらからどうぞ
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12月8日
第1回「城めぐりオフ会」
小田原城日帰りツアーが
ついに実現 (懇親会も現地で予定)。 
おかげさまで完売となりました。
御礼申し上げます。

12月15日
第12回「伊東潤の読書会」は、
来年二月発売の『真実の航跡』が題材。
詳細やチケットはこちらから
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/aY7waadF56oYaRbT

2019年
2月
第13回「伊東潤の読書会」は
第2回「ファンベース・セッション」の予定。

4月
第14回「伊東潤の読書会」は
連作短編集『家康謀殺』が題材。

5月
第2回「城めぐりオフ会」
『武田家滅亡』1泊2日ツアーを計画中。
一日目 : 新府城・武田八幡宮・躑躅ヶ崎居館・甲府城・恵林寺(宿泊は石和温泉)
二日目 : 勝沼氏館・天目山方面(大善寺・四郎作古戦場・鳥居畑古戦場・景徳院・栖雲寺)

【TV / ラジオ出演情報】

11/26(月)19:00~20:00 
歴史科学捜査班(BS11)
「城郭工学で徹底検証する熊本城の実力」

スタジオのコメンテーターとして、
熊本城の魅力を語ります。
多分、年内最後の出演になります。
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/aY7waadF56oYaRbU

NHKラジオのレギュラー放送は、
いつも通りあります。
私の担当は土曜日で隔週です。
だいたい朝の7:30から始まります。
今は第二と第四土曜になります。
「マイあさラジオ」
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/aY7waadF56oYaRbV

【講演情報(*主催イベント以外)】
12/24(月)「お城EXPO」
伊東の講演は11:00~12:30
「関東戦国史と城郭攻防戦」
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/aY7waadF56oYaRbW

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