見出し画像

2020年を振り返って 【歴史奉行通信】第八十号

こんばんは。伊東潤です。
今年最後の歴史奉行通信、第八十号をお届けします。


〓〓今週の歴史奉行通信目次〓〓〓〓〓〓〓


1. 2020年総括ー出版作品一覧と『茶聖』

2. 2020年総括ー『囚われの山』
『もっこすの城 熊本築城始末』
『北条五代』

3. 2020年総括ー2021年に向けて

4. おわりに / Q&Aコーナー / 感想のお願い

5. お知らせ奉行通信
新刊情報 / 講演情報 / その他


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1. 2020年総括ー出版作品一覧と『茶聖』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


いよいよ今年を総括するメルマガの回が来てしまいました。一年なんて早いものですね。

2019年から2020年初頭にかけて、
生涯のピークとなるであろう連載七本同時進行という荒業を行ったこともあり、2020年の前半はテンパっていましたが、
今は『威風堂々』の新聞連載が終わり(501回!)、
残る連載は三本となったので随分と楽になりました。
しかし来年は年初から一本増えて四本になるので、普通の状態に戻ります。
それでも大作が目白押しなので、
気を引き締めていくつもりです。


さて今年の作品ですが、新作小説四作、文庫四作となりました。
とはいうものの『茶聖』と『北条五代』という大作が二つもあったので、実質的には五~六作くらいの感覚ですね。
来年は新作小説三作、実録本一作、文庫三作という標準的な刊行年になります。

では、今年を振り返っていきましょう。

【単行本】
2月20日 『茶聖』(幻冬舎 / コルク)

6月22日 『囚われの山』(中央公論新社 / コルク)

9月30日 『もっこすの城 熊本築城始末』(KADOKAWA / コルク)

12月 7日 『北条五代』(朝日新聞出版)


【文庫】
*年月は単行本刊行月からの間隔・敬称略
2月20日『走狗』(中央公論新社・コルク / 3年2カ月 / 解説 : 榎木孝明)

4月23日『城をひとつ』(新潮社 / 3年0カ月 / 解説 : 春風亭昇太)

8月10日『悪左府の女』(文藝春秋 / 3年2カ月 / 解説 : 内藤麻里子(元毎日新聞社))

11月21日『西郷の首』(KADOKAWA / 3年2カ月 / 解説 : 大野敏明(維新史研究者))

作品内容については、年初のメルマガ「2020年展望号」に書きましたので、こちらを参照下さい。



2020年は大きな跳躍を遂げられた一年になりました。
歴史小説の存在意義について危機感を抱いたのは数年前ですが、
それから試行錯誤を繰り返しながら、たどり着いたのが今年の作品群だからです。


『茶聖』は視点を少しずらすだけで、歴史はこれほど面白いものだと感じられたと思います。
数少ない利休に関する史料をつなぎ合わせ、彼の意図は奈辺にあったのかを探っていく作業は、楽しくもたいへんでした。
しかし彼に寄り添い、彼になりきって思考をめぐらすことで、
史実に残る彼の行動には一貫性があったことに気づき、本作として結実できました。
『茶聖』が、私の代表作の一つになるのは間違いありません。


さて、ネットレビューの中には、史実を自分で調べることなく、私の解釈を無責任に批判する方々もいます。
しかし誰一人として「この解釈は、こうした根拠によっておかしい」というロジカルな批判をした方はいません。

作品に対する批判は大いに結構ですが、何ら根拠も示さず、自分の印象だけで作品を貶めるのは極めて残念なことです。


著者インタビューは、こちらになります。

今春注目の戦国大河ロマン『茶聖』刊行記念 著者インタビュー
歴史上最大のプロデューサーは千利休だ!
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/ctmyaawOxC3esVbN

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

2. 2020年総括ー『囚われの山』
『もっこすの城 熊本築城始末』
『北条五代』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


今年の第二弾は、一転して山岳ミステリーの『囚われの山』でした。
本作についても好意的な評が多いのは周知の通りですが、
それでも「現代パートが陳腐」だとか「オチが不要だ」といったレビューが多く、
まだまだ「読めていない」読者が多いことに落胆しました。


現代パートを陳腐な罠にしたのは、われわれ現代人が、
それだけくだらないものに囚われてしまいがちなことを揶揄したわけで、
さらに最後のオチも「囚われ」という意味を際立たせる役割を果たしているわけです。


現代社会への批判をブラックユーモアとして取り入れることで、過去パートがより以上、輝いてくるのです。
こうした作者の狙い、作品構造、効果を考えずに、現代パートだけ切り離して批判するのは全くのお門違いです。

エンタメ小説は「気分よく読了」できるものが「よい作品」ではありません。
作家が伝えたいメッセージやテーマ性がなければ、
ディーン・R・クーンツが言うところの「味のないシリアル」と変わらないのです。


そうした意味で『囚われの山』は、今年出した作品の中でも一番の出来だと思っています。
人間ドラマとしてもミステリーとしても恥ずかしくない作品を送り出せたことは、私の誇りと言ってもいいほどです。

著者インタビューは、こちらになります。
『囚われの山』刊行記念インタビュー
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/ctmyaawOxC3esVbO



今年の第三弾は『もっこすの城 熊本築城始末』でした。

本作では、築城の過程を小説として提示することで、その苦労を知り、また多くの教訓が得られるようにしてあります。
本作についてはネガティヴなレビューはないため、大半の方にご満足いただけたのではないかと思っています。
かなりマニアックに築城技術などを説明しましたが、「難しい」「分かりにくい」といった評もなく、
こうした小説もかなり踏み込んだレベルまで書いても構わないという手応えを摑みました。

ここから先は

5,441字
この記事のみ ¥ 300
期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?