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手取り16万円・49歳の非正規「昼ご飯はパンの耳」…年収差を生むのは「学歴」か「雇用形態(正規・非正規)」か

資産形成ゴールドライン/ニッセイ基礎研究所より抜粋・引用してまとめました。

主要国のなかでも「非正規社員の比率」が高まっているとニュースになった日本。低収入で困窮する人たちの行く末は……みていきましょう。

では「雇用期間の定めのない会社員」がどれほどの給与を得ているか、厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』でみていきましょう。「雇用期間の定めのない会社員」(平均年齢42.8歳)の平均給与(所定内給与額)は月32.2万円、賞与も含めた年収は519.5万円。さらに正社員(平均年齢42.3歳)に限ると、平均給与は月32.9万円、賞与も含めた年収は534.2万円。非正規社員(平均年齢49.7歳)だと、平均給与は月20.9万円、賞与も含めた年収は286.6万円。


調査対象となった正社員は228万人、非正規社員は14万人。常勤雇用者において正社員の比率が高いことで、低所得者比率は低水準になっている可能性もあるでしょう。実際は非正規社員の年収は正社員の年収のおよそ半分。圧倒的な給与格差が存在しています。

年収200万円台の非正規社員…受け取る「年金額」も残酷


49歳で月収21万円。手取りは独身であれば16万円ほど。ライフスタイルによりますが、楽な生活ができるほどの給与とはいえないでしょう。そこにきて、この物価高。総務省統計局『小売物価統計調査』によると、2023年2月、食パン1㎏あたりの平均価格(全国)は480円。前年同月444円から8%ほど上昇。このときすでにロシアによるウクライナ侵攻で急激な物価高が始まっていますから、2021年12月と比較すると15%アップ。ちょっと買うのに勇気がいる値上がりです。


――パンの耳をお昼ご飯にして


以前、そんな非正規社員のつぶやきが話題になりました。手取り16万円。家賃も高い東京などの都会暮らしなら、そんな生活でも上々かもしれません。


そんな非正規社員ですが、これから先も過酷です。仮に20歳から非正規社員の平均的な給与を手にしてきたと仮定します。60歳定年で引退した場合、65歳から手にする年金は、厚生年金部分が5.2万円。国民年金と合わせると11.6万円です。会社員が65歳で手にする平均年金額は17万円といわれていますから、老後においても大きな差が生じてしまいます。

月11.6万円。それがすべて生活費になるわけではなく、そこから税金に保険料も天引きされて……それで生きていけというのもあまりに過酷です。


では65歳まで働いたとしたらどうでしょう。厚生年金部分は5.9万円と7,000円アップ。国民年金と合わせて、12.3万円になります……やはり、生活するのもツラい水準です。


では70歳まで働くとしましょう。厚生年金は原則70歳まで加入できますから、その分、厚生年金部分は増額が見込まれます。さらに年金の受取額がアップする繰下げ受給を希望すると、年金の受取額は月18.4万円になる計算。原則65歳からの年金を受け取らず、70歳まで歯を食いしばり働くと、平均的な年金を受け取れるようになる……それが非正規社員の現状です。


もちろん、これは非正規社員の平均値で考えたもの。非正規社員のなかでも給与差があり、さらに低所得で苦しむ人もいます。そうなると、どんなに頑張っても人並み以上の年金を手にすることはない……そんな絶望的な未来が確定しています。

学歴別に見た若年労働者の雇用形態と年収~年収差を生むのは「学歴」か「雇用形態(正規・非正規)」か

学歴よりも正規雇用者か非正規雇用者かが年収に影響、若年非正規の待遇改善を

本稿では、若年労働者の中で増えている大学・大学院卒に注目し、学歴別の非正規雇用者の割合や年収の状況を確認した。

1990年代以降、大学進学率は上昇し、現在、男女とも約半数が大学へ進学するようになっている。同時期に非正規雇用者も増え、現在、若年労働者では大学卒の約2割、大学院修了の約1割が非正規雇用者である。また、それらの多くは不本意な理由で非正規雇用者として働いている。

また、学歴別に平均年収を推計したところ、男女とも年齢階級や雇用形態が同じであれば、年収は高学歴ほど多くなっていた。また、いずれの学歴でも非正規雇用者より正規雇用者の方が年収は多くなっていた。

特に男性で家族形成の壁がある様子がうかがえる年収300万円という区切りに注目すると、男性では、正規雇用者は学歴によらず25~29歳以上で300万円を上回っていたが、非正規雇用者は中学卒や高校卒の全ての年代、高専・短大卒の40~44歳まで、大学・大学院卒の25~29歳までは年収300万円未満であった。非正規雇用者の男性の中で、比較的、年収水準の高い大学・大学院卒では、30~34歳以上で年収300万円、40~44歳以上でおおむね400万円を上回っていたが、同年代の中学卒や高校卒の正規雇用者の男性の年収を下回っていた。

女性でも男性ほど顕著ではないが同様の傾向が見られ、正規雇用者では学歴によらず年収300万円を超える層が多いが、非正規雇用者で300万円を超えるのは今回推計した中では大学・大学院卒の55~59歳のみであった。また、非正規雇用者の女性で大学卒・大学院卒の年収は、同年代正規雇用者の女性の中学卒のものは越えるが、高校卒は下回っていた。

また、前述の通り、非正規雇用者の男性では大学・大学院卒で30代以上であれば、平均年収は300万円を超えて比較的家族形成の壁にぶつかりにくいようであったが、実際に年収300万円未満の雇用者人口を推計すると、当該層の約4割が該当しており、決して少なくない層が家族形成の壁にぶつかっている様子がうかがえた。一方、大学・大学院卒の正規雇用者の男性では、年収300万円未満層は30代後半以上では5%未満であり、年収に起因する家族形成の壁にはぶつかりにくいようだ。

以上より、現在の労働者の年収は、学歴よりも、正規雇用者か非正規雇用者かという雇用形態の違いの影響の方が大きく、その状況は男性で顕著である。つまり、近年の日本社会では、学歴よりも、学校卒業時の就職環境に恵まれるか否かが、将来の経済状況や家族形成の可能性に大きな影響を与える。

ひと昔前は、大学を卒業すれば、安定した仕事に就きやすかったのかもしれないが、長らく続く景気低迷により新卒時の労働環境に恵まれない世代では、大学を卒業しても必ずしも安定した仕事に就けるわけではない。ただ、本稿では触れていないが、少子化による大学全入時代では大学卒業者の質の問題も見る必要があるだろう。

大学卒業者の質の問題は別の議論として、将来を担う世代における学校卒業時の労働環境に起因する不公平感は是正されるべきだ。第三次安倍内閣では「働き方改革」を重点課題として表明している。「同一労働同一賃金」の実現や「最低賃金の引き上げ」などの議論を通じて、若年非正規雇用者の待遇改善が進み、受けてきた教育を十分に活かせるような労働環境を望みたい。

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