社会福祉士・精神保健福祉士国家試験 権利擁護と成年後見制度(社会福祉士第32回 問題82) 日常生活自立支援事業

問題

問題 82 事例を読んで,日常生活自立支援事業による支援に関する次の記述のうち,最も適切なものを 1 つ選びなさい。
〔事 例〕
Bさん(80 代,認知症)は,介護サービスを受けながら在宅生活を送っていたが,金銭管理が不自由になったことを心配したC介護支援専門員からの相談により, 3年ほど前から日常生活自立支援事業を利用している。ところが 2 か月前から,Bさんの判断能力が急速に低下し始め,支援計画の変更が必要となった。
1 Bさんは認知症であるため,Bさんに代わって,C介護支援専門員が日常生活自立支援事業における支援計画の変更を行った。
2 日常生活自立支援事業における支援計画の変更に当たっては,Bさんの親族による承諾が必要である。
3 判断能力の低下により,本事業による援助が困難であると事業実施者が認めた場合には,成年後見制度の利用の支援等適切な対応を行う必要がある。
4 Bさんの在宅生活継続が危ぶまれるため,日常生活自立支援事業による支援の一環としてBさんの居住する住宅の処分を行うこととした。
5 Bさんの判断能力の急速な低下に対応するため,日常生活自立支援事業の今後の利用について運営適正化委員会に諮った。

分析

日常生活自立支援事業は、「福祉サービス利用援助事業(精神上の理由により日常生活を営むのに支障がある者に対して、無料又は低額な料金で、福祉サービス(前項各号及び前各号の事業において提供されるものに限る。以下この号において同じ。)の利用に関し相談に応じ、及び助言を行い、並びに福祉サービスの提供を受けるために必要な手続又は福祉サービスの利用に要する費用の支払に関する便宜を供与することその他の福祉サービスの適切な利用のための一連の援助を一体的に行う事業をいう。)」として、社会福祉法上の第二種社会福祉事業と規定される(社会福祉法2条3項12号)。その運営主体は都道府県社会福祉協議会・指定都市社会福祉協議会であるが、市町村社協への事業委託も可能である。

法律的には上記のとおりであるが、要するに、社協の運営する、契約に基づいて行われる福祉サービスの利用援助、定期訪問・金銭管理サービスである(「あんしんセンター」とか独自の名前がついていることが多い)。主として高齢者・障害者においては成年後見といかないまでもやや判断能力、財産管理の力に不安が出てしまうケースは大変多い。家族がいればいいが、身寄りがない、親族関係者が遠方、無関心であればまさに日常生活が円滑にできなくなってくる、支援が必要となってくる方は多い(事例のようなケース)。

そこで、地域福祉の担い手である社協が、当事者との契約によって上記のサービスを提供するのが日常生活自立支援事業である。なお、このような見守り、金銭管理は何も社協だけでなく、民間の個人・企業だって事業として行うことができる。実際にそのような事業を行う企業も少なからず存在する。しかしながら、一方当事者は判断能力不十分の高齢・障害者であり、報酬額や管理の方法、適切な履行が行われているかの十分な検討をすることができない。その結果、一部のケースで消費者被害的な状況が生まれていることは指摘しておかなければならない。

そうであるとすればやはり公的団体としての社協がかかる事業を行うことの意義は大きく、相当数の利用がある。

社協においては、まず日常生活自立支援事業にかかる契約を締結する際、独自に「契約締結審査会」という有識者も交えた審査を行い、契約をしてもいいかどうかを審査する。日常生活のための理解、意思を適切にすることは困難だが、契約の締結能力がある、というボーダーのケースを扱うことが多いので、慎重な審査が求められている。

審査会のOKが出て契約能力ありとなれば、援助に関する利用契約が締結され、支援計画が同時に策定される。契約内容に従って、社協から選任された生活支援員が銀行預金の入出金の手伝い、日常の金銭管理、福祉サービス利用の援助その他日常生活の支援を行う。

ここで重要なのは、あくまでも本事業が「福祉サービス」であるということ。福祉の観点から、生活もできなくなってしまうと困るので、日常の金銭管理がそのサービスに入っている。金銭管理なら何でもできるわけではなく、重要な財産、例えば住居を処分することなどは事業の対象外である(肢4.なお、成年後見人であっても居住用不動産の処分には家裁の許可が必要であることは関連して覚えておきたい。) 

上記の支援計画は定期的に見直しが行われるが、本人との契約ができる以上、本人のための支援計画であることが前提であり、本人と相談しながら決める。勝手に支援者や家族が決めることはできない(肢1、肢2)。

当然であるが、経年によって対象者の判断能力が低下することはままある。そうすると、契約をする能力が維持されているかどうかを再度チェックする必要が生じることになる。この場合の審査も契約締結審査会が行っている(肢5)。ちなみに、日常生活自立支援事業において苦情が出た場合は運営適正化委員会(社会福祉法83条)に苦情を申し立てることができる。運営適正化委員会はこの事業に限らず、福祉サービスにおいての苦情窓口として機能している。

もはや本人に契約の能力もないと考えるべきだとなったとき、成年後見制度の利用を検討することになる。日常生活自立支援事業を実施している社協においては、権利擁護の趣旨から成年後見制度の利用の支援(後見開始審判申立ての支援)を行うことが適切だろう(肢3)。

よって正答は3。

評価

日常生活自立支援事業が「本人との契約に基づくサービス」であるという基本が抑えられると、1,2を切ることができる。さすがに「日常生活自立支援事業」という名前で家は売れないよね…と思えば4も切れる。5がやや紛らわしいが、契約締結審査会を覚える余裕があったら切れるかも。もっとも、2択になった段階で、日常生活自立支援事業と成年後見の関連の基本を押さえていれば、3がまっとうな肢なのでこれを選べるのではないかと思う。

 ※この記事は、弁護士の筆者が、社会福祉士、精神保健福祉士の国家試験問題を趣味的かつおおざっぱに分析しているものです。正確な解説については公刊されている書籍を確認したり、各種学校の先生方にご質問ください。  


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