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社会福祉士・精神保健福祉士国家試験 権利擁護と成年後見制度(社会福祉士第32回 問題83)虐待防止

問題

問題 83 虐待や配偶者暴力等の防止・対応等に関する関係機関の役割として,正しいものを 1 つ選びなさい。
1 「児童虐待防止法」において,母子健康包括支援センター(子育て世代包括支援センター)の長は,職員に臨検及び捜索をさせることができる。
2 「障害者虐待防止法」において,基幹相談支援センターの長は,養護者による障害者虐待により障害者の生命または身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときは,職員に立入調査をさせることができる。
3 「DV防止法」において,警視総監もしくは道府県警察本部長は,保護命令を発することができる。
4 「高齢者虐待防止法」において,市町村は,養護者による高齢者虐待を受けた高齢者について,老人福祉法の規定による措置を採るために必要な居室を確保するための措置を講ずるものとする。
5 「高齢者虐待防止法」において,市町村が施設内虐待の通報を受けたときは,市町村長は,速やかに警察に強制捜査を要請しなければならない。

(注)1  「児童虐待防止法」とは,「児童虐待の防止等に関する法律」のことである。
2  「障害者虐待防止法」とは,「障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する支援等に関する法律」のことである。
3  「DV防止法」とは,「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」のことである。
4  「高齢者虐待防止法」とは,「高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」のことである。

分析

 自宅であったり、施設のような閉鎖的空間において、子ども、高齢者、障害者というのは虐待(ここでは、自らの尊厳に関する侵害行為、というくらいに定義づけておこう)に遭いやすく、また、自分では助けの声を上げにくいという特徴がある。それゆえ被害が深刻化しやすく、しばしば事件が報道となり社会問題化する。その中で、これらの者に対する虐待防止法がそれぞれ制定された。

 虐待防止法は行政機関の権限や役割分担を定めた行政法であるものの、虐待自体を発見するのは、基本的には全国民の(努力)義務とされている(例えば、高齢者虐待防止法7条)。もっとも、虐待かどうかというのは、周囲の者からは、真実のところはすぐにはわからない。一方で確定的に虐待であるという状態まで判明しないと誰も動かないということであれば、真に虐待が発生しているときに手遅れとなりやすい。そこで、「市町村は、第七条第一項若しくは第二項の規定による通報又は高齢者からの養護者による高齢者虐待を受けた旨の届出を受けたときは、速やかに、当該高齢者の安全の確認その他当該通報又は届出に係る事実の確認のための措置を講ずるとともに、第十六条の規定により当該市町村と連携協力する者(以下「高齢者虐待対応協力者」という。)とその対応について協議を行うものとする。」として、事実確認の措置を取るいっぽうで、多様な対応策を検討するために包括などの職員などと連携をとってチーム対応を行うこととした。

 「虐待」というと、おぞましい故意の悪質な行為などが浮かぶかもしれないが、多くの例はいわゆる不適切介護という、介護がうまくいかない養護者が、思い余って手を挙げてしまったり、放置や人格否定発言を行ってしまうという態様が多い。このような場合にまで即警察、というのは行き過ぎであり、通報を受けた市町村において警察に通報義務、捜査要請義務があるわけではない(肢5)。

 通報を受け、事実確認をするなかで、被虐待者本人の様子を確認できないという場合も多い。養護者が家に本人を閉じ込めてしまい、行政の職員がその姿を確認できないという場合などである。このような場合、生命身体への重大な危険が迫っている場合も多く、各虐待防止法において立ち入り調査の権限を行政に認めている。

 児童虐待防止法では「都道府県知事は、第八条の二第一項の保護者又は第九条第一項の児童の保護者が正当な理由なく同項の規定による児童委員又は児童の福祉に関する事務に従事する職員の立入り又は調査を拒み、妨げ、又は忌避した場合において、児童虐待が行われている疑いがあるときは、当該児童の安全の確認を行い、又はその安全を確保するため、児童の福祉に関する事務に従事する職員をして、当該児童の住所又は居所の所在地を管轄する地方裁判所、家庭裁判所又は簡易裁判所の裁判官があらかじめ発する許可状により、当該児童の住所若しくは居所に臨検させ、又は当該児童を捜索させることができる(児童虐待防止法9条の3)。」と定める。

 上記の「臨検」は非常に強力な行政調査の一つであり、抵抗があった場合でも実力行使でそれを排除することができる。そのため、警察の捜索・差押と同様に裁判所の令状を必要としている(肢1)。他の虐待防止法などでは臨検は認められておらず、虐待防止法の中では強い権限による調査を認めている。子どもの要保護性の高さゆえであろう。

 高齢者虐待防止法、障害者虐待防止法では立ち入り調査が認められている。障害者法の条文をあげておくと「市町村長は、養護者による障害者虐待により障害者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときは、障害者の福祉に関する事務に従事する職員をして、当該障害者の住所又は居所に立ち入り、必要な調査又は質問をさせることができる。」(11条)(肢2)。強制力の行使はできないが、調査の拒絶、妨害をすると刑事罰があり、最後の手段としては警察による逮捕という方法がないわけではない。


 さて、事実確認が済んだ段階にて、自宅にいる本人を養護者と一緒に現状では住まわせるのは生命身体保護の観点から難しいという結論に至る場合がある。その場合で一定の行政処分として、老人福祉法による措置によって老人短期入所施設等に入所させるなどの措置をとることができる(「措置による分離」「やむをえない措置」といったりする。高齢者虐待防止法9条2項、老人福祉法11条1項)。この措置を取るためには施設に一定の居室を確保しておかなければならない。そこで、高齢者虐待防止法では、「市町村は、養護者による高齢者虐待を受けた高齢者について老人福祉法第十条の四第一項第三号又は第十一条第一項第一号若しくは第二号の規定による措置を採るために必要な居室を確保するための措置を講ずるものとする。」とした(10条 肢4)

 虐待防止法とは異なるが、夫婦のDV(ドメステッィクバイオレンス)もまた、閉鎖的な空間で行われる暴力等であり、声をあげにくいことから、DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)という法律が制定されている。こちらは、市町村、都道府県の福祉部局というよりは、警察及び配偶者暴力相談支援センターが主役となる。虐待防止法とは、全国民に対して通報(努力)義務を課している点で共通するところがある。

 「DV防止法」において,被害者側の配偶者が、一方配偶者からの更なる生命身体に重大危害が及ぼすおそれのある暴力を受けるような場合、被害者の申立てにより地方裁判所が審査のうえ、被害者の住居付近を徘徊してはならない、面会要求禁止等の保護命令を出すことができる(肢3)。このような保護命令は、やはり加害者とされる側の者に対する権利制限が強力であり、そのいみで行政ではなく裁判所の命令が必要とされているものである。

 よって正答は4

評価

 知識問題ではあるが、虐待防止法は頻出でもあるので、それぞれの虐待防止法の異同は覚えておきたい。特に、誰がその権限を行使するか、というところが聞かれやすいように思う。そのうえで、強い権限行使(行政処分や即時強制)であればあるほど、市町村長であったり、裁判所であったりがその主体となる。〇〇センターみたいなところは処分などの強い措置を基本的には取ることができない。 その意味で、1,2が切れるとよい。 そして、虐待防止法自体は「悪いものをこらしめる」というよりも、虐待をしてしまっている方へのアプローチも考えてこれを解決するという立法趣旨がある。この基本からすると5はありえないということで切りたい。3はありそうな肢ではあるので知識がないと迷うだろう。無難なことが書いてある4のほうを3との相対的比較で選び取れれば何とか正答にたどりつけるか。

※この記事は、弁護士の筆者が、社会福祉士、精神保健福祉士の国家試験問題を趣味的かつおおざっぱに分析しているものです。正確な解説については公刊されている書籍を確認したり、各種学校の先生方にご質問ください。  


 


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