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愛されるプロダクトに育てるには、ユーザーの観察から
どうも、エンジニアのgamiです。
先日、弊社PLAIDが主催するカンファレンスに丸1日参加してきました。
KARTE CX Conferenceでは、デジタル接点を持ったサービスを運営している登壇者が様々な切り口で顧客体験に関して話しているのを聞くことができます。登壇者の業界も様々で、僕が聞いたセッションだけでも飲食、人材、損保、エネルギー、生保、小売、SaaS業界の話がありました。
僕もこのカンファレンスに会場参加し、自社のプロダクト改善に取り組む人の話を10人以上から浴びるように聞き続けました。そのいずれの話にも、根底にある次の2つの意識が強く感じられました。
・プロダクトは作って終わりではなく継続的な改善が必要
・愛されるプロダクトに育てるにはまずユーザーを徹底的に理解することが重要
今回は、プロダクトやサービスの改善においてなぜユーザーを理解することが重要なのかについて考えます。
ユーザーを観察することの価値
今回のカンファレンスで特に印象に残ったのは、エン・ジャパン 田中さんの登壇セッションでした。
![](https://assets.st-note.com/img/1657661975141-4FMq6uaojX.png?width=1200)
このセッションの中では、「仮説ファーストから観察ファーストへ」という表現ともに顧客を観察することの重要性が語られていました。その具体の思考法として、STPDサイクルにも触れられています。
![](https://assets.st-note.com/img/1657661397185-baeEEzpHDK.png)
ユーザーを観察することの重要性は、デザイン思考の文脈でもよく語られます。僕も何かの本で、IDEOがアイスクリーム・スクープ(アイスをすくう器具)をリデザインしたときの有名な逸話を読んだことがあります。曰く、アイスクリーム・スクープを使うユーザーの多くは、アイスをすくった後でそれを舐めることがユーザー観察でわかった。そこでIDEOは舐めやすいアイスクリーム・スクープをデザインし、多くのユーザーの支持を得るプロダクトが生まれた、という話です。
IDEOがチリス社の台所用品の開発に取り組んだ時のこと。台所に立つ人を観察したところ、アイスクリーム・スクープを使った後、スクープをシンクに置く前にスクープにこびりついたアイスクリームをなめていたのです。そこで、IDEOはこびりついたスクープを怪我することなく最後までなめられる口にやさしいスクープを開発しました。現場に行って観察したからこそ得られたアイデアです。
面白いのは、「多くのアイスクリーム・スクープ ユーザーはそれを舐める」という事実は単にアンケートを取得するだけではわからないということです。ユーザーは無意識に、あるいは恥ずかしさを感じながらアイスクリーム・スクープを舐めます。いざ面と向かって「あなたがアイスクリーム・スクープに求めるものは?」と質問されても「舐めやすいことです」とは答えられません。プロダクトを提供する側と利用する側の両方の先入観を排した客観的な観察の先に、顧客に本当に愛されるプロダクトを作るためのヒントがあります。
サービスがどう使われるかは作った人でもわからない
先入観を排した観察が重要なのは、アイスクリーム・スクープのような工業デザインの世界に限りません。Webサービスやスマートフォンアプリなどのデジタルプロダクトでも同様です。
たとえば前述のセッションに登壇したエン・ジャパン田中さんも関わる「エンゲージ」という求人サイトでも、ユーザーの観察によって意外な改善ポイントが見つかったそうです。少し長いですが、インタビュー記事からその話を引用します。
私たちは求職者がいいねをするのは応募したい求人だと考えており、求職者は求人詳細を読んでからいいねを押すと思っていました。ですが、KARTEで見てみると、求人詳細の手前の検索結果一覧(検索条件に合致した求人が複数表示されている画面)でいいねが押されていることが多いことがわかったんです。
一覧ページでは情報量が少ないので、応募するかどうかの判断ができないのではと思っていました。ですが、この結果から、一覧で「自分が応募できそうか」を判断し、詳細ページでは求人に「応募するかどうか」を判断しているのではないかと仮説を立てることができました。
(中略)
いいね機能の利用が応募数の増加につながりそうだという仮説はありましたが、いいねがよく押される画面が検索結果画面なのは意外でした。もしKARTEで求職者の行動を見ていなかったら、詳細ページを一生懸命改善していたかもしれません。
これらの顧客行動から、いいね機能の見せ方を変えることで、求人の応募数を増やせるのではないかという仮説を立てました。具体的には、求人に対する「いいね」というよりブックマーク的に使われていそうだったので、使い方に合わせていいねボタンの文言を変更するテストを行いました。
いままで「いいね」と表示していた部分を、「気になる」および「キープする」に変えたパターンで、ABテストを実施。すると、「キープする」では、「いいね」と比較してクリック数が1.2倍になり、CVRも+22%改善できました。
求人サイトを新しく作るとなれば、それをデザインする段階でPdMやデザイナーは「ユーザーはこういう目的でこういう行動をするだろう」という仮説を立てるはずです。一方で、実際にサイトを公開してユーザーに使ってもらうと当初の仮説とは全く違う予想外の使われ方がされた、ということがよくあります。この仮説と実態のズレは、実際のユーザー行動を観察することでしか修正することができません。
エン・ジャパンさんの事例でも、ユーザー観察をした結果、「使い慣れたユーザーはいいね機能を検索結果一覧ページでの求人のキープに使っている」という新たな仮説の発見がありました。その仮説をベースに「いいね」を「キープ」に変えることで、うまい使い方をしているユーザーに近い行動を他のユーザーにも促すような改善を実施し実際に効果が出ています。まさにユーザー観察を踏まえたデジタルプロダクトの改善事例です。
ちなみにWebサイトなどのデジタルプロダクトの場合は、アイスクリーム・スコープのようなプロダクトとは違って、適切にデータ取得の仕組みを構築していれば自動でユーザー行動データを収集できます。そのためユーザーにオフィスまで来てもらわなくても、そのデータを分析することでユーザー行動の観察と同様のことができます。対面のユーザーインタビューは実施するのにまあまあコストがかかるので、慣れてしまえば比較的楽です。
愛されるプロダクトを育てる方法
DXが叫ばれる昨今、日本の多くの企業に対して「ソフトウェアを活用した新たなサービスを開発して新規事業を立ち上げよ」という圧力がかかっています。一方で、事業の柱になるような広く愛されるプロダクトを作るためには、ただ作って終わりのプロダクトでは全然足りず、地味で地道な改善の積み重ねが必要です。
こうした改善のベースとして、事業者側の独りよがりな仮説よりも事実ベースでユーザーを理解することの方が重要であることを、今回のKARTE CX Conferenceに参加して強く実感しました。
このnoteでは特に「観察」の重要性について考えましたが、他にもNPSなどユーザーの感情や意見が集められるアンケートを組み合わせることで、ユーザーの無意識と意識の両方に関するデータを集め、多角的にユーザーを理解することができます。
ユーザーの声を聞いたりユーザーを観察したりするような活動は、オフラインの実店舗では普通に行われてきたはずです。たとえばアパレルショップのカリスマ店員は、顧客がどの棚のどんな商品を見ているか、その人が今どんな洋服を着ているかを観察した上で、現在の要望をヒアリングし、総合的に考えて最適な商品をおすすめしています。
多くの企業は、これまでオフラインでは当たり前に行われていることがオンラインでは全然できないという事実に直面しています。オンラインで提供されるサービスでは、リアル店舗のようには実際のユーザーに話しかけたり観察したりすることができません。似たようなことを実現したければ、オンライン上でユーザー行動を収集・可視化したり、ユーザーにアンケートやチャットを表示したりするためシステムを組む必要があります。それを1から実現するのは大変なので、普通はKARTEなどのSaaSプロダクトを使って楽をするのが普通です。とはいえ、勝手が違うデジタルの世界のユーザー理解に慣れるのはやっぱり大変です。
人間は得てして自分の考えの正しさを過信しすぎてしまいます。そのため、「私が考えた最強のサービス」をそのまま形にすれば、勝手にユーザー数が増えて、多くのファンが付くと甘く考えてしまいがちです。しかし大抵はそんな甘い話は無く、実際にサービスをリリースしてユーザーに使ってもらい、その様子を観察したり感想をヒアリングしたりして初めてわかることも非常に多い。提供するサービスの場がオンラインでもオフラインでも、その事実は変わりません。
皆さんも、実際にプロダクト改善の現場で戦う人の声を聞きたい気持ちになりましたか?そんなときは、ぜひKARTE CX Conferenceのアーカイブ動画を見てみてください。(そこまで宣伝色は強くないので)
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