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「日没」を通して考えるポリティカル・コレクトネス

記事の長さ:3分。
2020年はコロナの1年でもありましたが、差別や不公平性についても多く議論が重ねられた1年でした(代表的な例がBlack Lives Matterでしたね)。そしてその証拠に最近、現在では各企業が盛んにDEIに取り組まれています。DEIとは、Dはダイバーシティ(多様性)、Eはイクイティ(公平)、Iはインクルージョン(包容、受容)の略で、従来のD&Iから「公平」を足したものになります。

発想、理念としては間違いなく社会に必要な概念で、すべての人が理解をし、取り組むべきであることは間違いありません。何よりも恐ろしいのは、
アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)で不適切な発言や表現をしたり、知らぬ間に人を傷つけたり、差別してしまっていることがあることです。アンコンシャス・バイアスは「無意識の思いこみ」「無意識の偏ったものの見方」「無意識の偏見」など、さまざまな言葉で表現されている概念のことです。

しかしながら、それらを踏まえたとしても、昨今では少し首をかしげたくなる単語でさえも適切ではない表現であるとされはじめています。例えば、分析的を意味するアナリティカル(analytical)や個人を意味するインディビジュアル(individual)などです。これらの用語は原則DEIの概念に反する用語になるため、極力職業応募要項などからも除外され始めている言葉になります。

それらを避けなければ、企業であれ、芸能人であれ、アスリートであれ、ニュースキャスターであれ、クリエイターであれ、個人であれ、批判のリスクをはじめ、社会的に不適合者、不適切者として扱われるようになります。つまり、誰でもポリティカル・コレクトネスを維持しなければならない世の中になっています。

ポリティカル・コレクトネスとは

そもそもポリティカル・コレクトネスとは何でしょうか?Wikipedia様に聞いてみましょう:

ポリティカル・コレクトネス(英: political correctness、略称:PC、ポリコレ)とは、性別・人種・民族・宗教などに基づく差別・偏見を防ぐ目的で、政治的・社会的に公正・中立とされる言葉や表現を使用することを指す。「政治的妥当性」、「政治的公正」、「政治的適正」、「政治的正当性」、「政治的正義」などの訳語も使われる。 - Wikipedia

政治的とつくと、国会議員などにしか該当しないように聞こえますが、これは上述の通り、企業でも個人でも該当する概念です。そして、それに順応できていない、いわゆる「昭和のサラリーマン」(ちなみに、これもかなり差別的な表現だと思いますが、あくまでイメージをお伝えするためとご理解ください)がセクハラなどで最近問題視されています。

ネットの中傷など最たる例ですが、実際にそれが原因で自ら命を絶たれた有名人が多くいることも事実です。

少しずつではあるものの、誰しもが薄々と近づいてきているその気配を痛烈に、そして恐ろしいほどまでにどす黒く表現している小説があります。桐野夏生氏 著作の「日没」です。

「日没」のあらすじ

女性作家である主人公の作家マッツ夢井は、きわどい内容の小説を書くことで生計を立てていたが、突如として悪夢へといざなわれることになる。すべては、一通の召喚状から始まる。差出人は総務省の文化文芸倫理向上委員会という謎の政府機関。「映倫」ならぬ「ブンリン」と呼ばれる、知らぬかできたこの組織が、彼女を底なし地獄へと突き落とす。

きっかけは読者からの提訴らしく(真意は定かではないが)、ブンリンのルールでは、読者から不快と提訴された作家は療養所と呼ばれる場所で一定期間研修を受け、「更生」しなければならない。場所は千葉県の海辺の町の断崖。いわゆる作家の「収容所」だった。

そこでは減点制度が設けられており、点数により収容期間が変動する。異議を唱えれば反抗と見なされ、減点される。作家たちは互いに話すことをはじめ、目に触れることも許されず、名前でもペンネームでもない番号で呼ばれ、貧しい食事しか与えられず、「ある事」が起きると全員昼食を抜かされる。常時監視カメラに見張られ、作文を書かされる。

ただでさえ既に恐怖の世界だが、反抗を続けた者の末路は地下室にある。そこでは拘束衣を着せられ、行動すらも許されなくなる。

一時も油断も隙も見せられない中、他者からの好意も罠に見えかねない状況だが、誰かを信頼し協力しあわなければ閉ざされた場所から出て行くことはできない。主人公マッツは果たして抜け出せるのか、この現代の「地獄」から。

まとめ

DEI、アンコンシャス・バイアス、ポリティカル・コレクトネスなど本記事では触れてきましたが、「精神の自由」とは何か。「表現の自由」とは何か。「正しい」とは何か。

それらの意味をいま一度かみしめるために是非、年末年始に「日没」を読んでみてはいかがでしょうか。

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では、また来週。

- JumpE

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