「ジャンプルーキー!」に僕たちジャンプ+編集部が込めたの2つの狙いとは?
こんにちは。ジャンプ+編集部のモミーです。
ジャンプ+編集部が、新しく面白い作品が生まれやすい環境をどう作ろうと苦闘してきたか、これまでいくつかのnoteでその一端を紹介してきました。
今回のnoteでは「ジャンプ+」のプロジェクトとして極めて重要な役割を担っている「ジャンプルーキー!」について初めてじっくり書いていこうと思います。
「ジャンプルーキー!」とは、漫画を誰でもWEBで投稿し公開できるサービスです。
新しいヒット漫画が発表される場である「ジャンプ+」には、当然注目が集まります。しかし、そんな新しい漫画を生むために「ジャンプルーキー!」は密かに大きく力を発揮してきました。
現在、圧倒的話題の「ジャンプ+」大人気連載『タコピーの原罪』作者・タイザン5先生も「ジャンプルーキー!」出身作家です。
また、編集部の使命であり存在意義である「漫画誌から新たな漫画を生み出すこと」に留まらない狙いも、実は「ジャンプルーキー!」には込められています。
今回のnoteでは、初めて公開する数字やデータを紹介しながら、実情やその隠れた狙いなどについて書いていきます。
■「ルーキー!」の第1の狙い
漫画編集者の目標であり価値は、新しい面白い漫画を世に届けることです。しかし、漫画編集者の個人の才能と努力だけで、その目標を達成できるわけではありません。
サッカーに例えてみると…、
現場の漫画編集者はいわばフォワードの選手です。ストライカーとしてゴールを決めることを求められます。しかし、天才ストライカーでも、ボールが来ないことにはゴールは決められません。さらに、良いアシストでないと、ゴールを決めることは難しいでしょう。
つまり、個人の努力や才能だけでなく、「良いボールがフォワードに多く渡りやすい過程や仕組み」が、ゴールを決めやすくしているわけです。
その仕組みというのが漫画編集部には色々と存在しています。
(そして、その仕組みが最強に機能しているのが、ジャンプというサッカーチームです)。
詳しくはこちらのnoteでも書きました。
ひとつの例が、漫画賞や持ち込みです。これまでは編集者が漫画家さんと出会う場として、「漫画賞への投稿」と「編集部への持ち込み」がそのほとんどを占めてきました。
しかし、今も元気な少年ジャンプを除く多くの漫画編集部では、時代の変化により媒体の訴求力も落ち、その仕組みが昔ほど機能しなくなってきています。
先日も、とある編集部で漫画賞への投稿がこの10年で半分位に減っている、という話を聞きました。「漫画賞への投稿も持ち込みも今やほとんど無くなった」という漫画編集部も実は多いと思われます。
時代の変化によってそうなったわけですが、逆にその時代の変化を生かして、新たな「仕組み」を作れないかと考えました。
それが、WEBでのマンガ投稿公開サービスでした。
かつては、多くの人に漫画を読んでもらう手段は基本的に商業誌に載せるしかありませんでした。それもあって、漫画編集部に多くの漫画家さんが集まってきてくれました。
僕たちは、むしろ、多くの人に漫画を読んでもらえる新たな手段を商業誌であるジャンプが自ら用意して、漫画家さんとの新たな出会いの場所を作ったというわけです。
■数字で見る「ルーキー!」の成果
これまで「ジャンプルーキー!」を通じて、僕たちはどれくらいの漫画家さんと出会い、そして新たな作品が生まれていったのか。最新の数字を公開していきます。
投稿は、毎月500~1000作品、話数でいうと3000~4000話ほどあります。(すべての作品に編集部が目を通しています。)累計で示すと、この7年半でこんなにたくさんの投稿を漫画家さんにしてもらいました。
次に、「ジャンプルーキー!」で僕たちが出会った漫画家さんが、どれくらい連載・掲載してきたのか紹介します。まだ創刊して7年半の雑誌ですが、「ジャンプ+」の連載作家中67人もの方が「ジャンプルーキー!」出身です。
年代別に、「ジャンプ+」などに掲載された読切を含む数字も紹介します。出身作家さんのデビュー人数は年々増えていってることがわかります。
そして、冒頭でも紹介しましたが、『タコピーの原罪』のタイザン5先生もそのひとりです。
僕たちの想像を遥かに超える成果が出て、いまや「ジャンプルーキー!」は「ジャンプ+」を運営するのになくてはならないサービスとなりました。
■漫画家さんは何を望んでいるか
”漫画誌から新たな面白い漫画を生み出す”目的に留まらない狙いが「ジャンプルーキー!」には実はある、と冒頭で書きました。
次は、そのもう一つの狙いについて書いていきます。
漫画編集者の目標を「漫画誌を使って新たな面白い漫画を生む」と設定したこと。それは、作家や読者に編集者が最も貢献できる価値だと考えているためです。(少なくとも僕はそう考えています)
そして、漫画編集の価値というのは元を辿ると、「才能ある作家と読者をいかに適切な形で橋をかけて繋ぐか」、そこに根本的な意義があるのではないかと、僕は思っています。
それでは、作家さんはどのようなことを望んで創作活動をしているのでしょうか。
望む雑誌での連載?
単行本が沢山売れること?
良いアドバイスをくれる編集との出会い?
それともアニメ化?
「ジャンプルーキー!」で漫画を投稿している漫画家の皆さんにアンケートを取って聞いてみた結果を紹介します。
「描いた作品を多くの人に読んでもらって反応をもらいたい」。
それが、多くの漫画家さんが圧倒的に望んでいることというわけです。
■「ルーキー!」のもう一つの狙い
大きなメディアに作家と読者が集まり新しい面白い作品が次々生まれていく漫画雑誌の仕組みは、数十年にわたって大きな成果を上げ続けてきました。
それを、紙の雑誌だけではなくWEBでもより良い形で実現したい。それが「ジャンプ+」を創刊した意図でした。
そして、漫画家さんの望みも、そんな漫画雑誌という仕組みを経ることで、企画の精査や内容のチューニングなどの機能も含め、多くの読者に楽しんでもらえる作品作りや公開の場として役割を果たし続けています。
しかし、時代の進化により、もし漫画雑誌の仕組み以外にも、別の切り口で作家さんの望みが叶えられる手段があるとしたら…。
僕たちが、作家さんと読者との間に良い橋渡しができる新しい方法もあるとしたら…。
それが、「ジャンプルーキー!」という挑戦のもう一つの狙いです。
編集部を通さずに直接読者に公開できるサービスを、編集部が運営する矛盾。
僕が知っている限り、同様の漫画サービスを大手出版社でやっていた例はリリース当時ありませんでした。企画を社内で通した際にも、「これは編集者が自らの存在意義を否定する企画ではないか」と会社の偉い人にチクリと釘を刺されたりもしました。
「ジャンプ+」を支え、かつ、「ジャンプ+」とは異なる狙いも持つのが「ジャンプルーキー!」なのです。
「ジャンプ+」の創刊と同時に、そんな「ルーキー!」の企画を発表しました。それくらい僕たちは「ルーキー!」の挑戦に懸けていて、作家や読者にどのような新しい役割が果たせるだろうかと期待をしてリリースしました。
キャッチコピーはこんな文章としました。
「誰でもジャンプでデビューできる漫画公開サービス」。
誰でもデビューできないからこそジャンプには価値があります。
あえて、まったく正反対のニュアンスを入れたコピーにしました。
漫画雑誌の仕組みとは異なる、新たな作家と読者への貢献。
それは、いまだ挑戦の途中ではありますが、「ルーキー!」やそこから派生して実施してきた具体的な企画を、最後に紹介していきます。
■「ルーキー!」の挑戦と今後
・広告収益の100%還元
作品を投稿している作家さんから最も反響が大きかったのは、「広告収益を作家に100%還元する施策」でした。
「ルーキー!」では漫画の最後に広告が入ります。つまり読まれれば読まれるほど描き手の収入につながり、作家がその設定した作品については、一円も編集部は抜きません。
作家さんが継続して創作をできるような環境を作りたいと考えたのです。
通常、漫画編集部では、雑誌の売り上げや単行本の売り上げから一定の金額を原稿料や印税という形で作家さんにお戻ししていますが、それとはまったく別の発想で作家さんへの貢献を考えました。
・インディーズ連載
約1年前に始めた「インディーズ連載」も反響が大きかった施策の一つです。これは、「ルーキー!」での読者人気(閲覧数)のみで「ジャンプ+」の連載権を授与する企画です。
さらに、作家さんには担当編集がつかず、自由に連載内容を考えることができます。そして、原稿料も一定ではなく人気に応じて上下して、最高1ページ2万円をお支払いします。(厳密にいうと、原稿料は一定ですが、人気に応じて上下するボーナス金を追加でお支払いしています)
漫画雑誌とは正反対の発想の施策だからこそ生まれる作品や、役立てる可能性を見据えました。
・創作のノウハウを公開
編集部に蓄積される創作に関するノウハウも公開してきました。
実績のある編集者に、これまでならあまり広くは公開していなかったような創作に役立つ文章を書いてもらい「ルーキー!」上のブログで発表してもらいました。こちらは、現在「ジャンプの漫画学校」として企画を発展させて別途実施しています。
・作家さんと読者を直接繋ぐ寄付プロジェクト
昨年に実施した寄付企画も、多くの作家さんと読者に活用いただきました。
これは、作家さんが設定をすると、読者が読めば読むほど、新型コロナウイルス感染拡大防止対策を行う医療従事者などへの支援を目的に、日本赤十字社に寄付ができる(閲覧数×1円)という企画です。こちらも、これまでなかった作家と読者の間に架けた橋の一例だと思います。
・「ジャンプ」を冠さない投稿公開サービス
また、「ルーキー!」の手ごたえから、思い切ってジャンプという冠を外し、一切「ジャンプ+」とは切り離した、どんな作家、作品、読者にも使ってもらいやすい別のスタンダードな漫画投稿公開サービスも始めました。
はてなさんと共同で運営する「マンガノ」というサービスです。
「マンガノ」は、「ルーキー!」よりも個々の作家さんの要望にカスタマイズできるような色んな機能を充実させました。とても好評をいただいています。
有料で直接読者に漫画を販売できる機能や、全件チェックしてポジティブなコメントのみを作家に届ける「やわらかコメント」機能。そして、これまでの創作履歴を簡単に作れる漫画家専用のポートフォリオ「MANGAFolio(マンガフォリオ)」機能など、多くの漫画家さんに活用してもらっています。
作家と読者をつなぐ時代に沿った新しい貢献方法をどんなことでも模索していきたい。
僕たちジャンプ+編集部にはそんな思いがあります。
「ジャンプルーキー!」はその一つの事例です。
きっと、もっといろんなアイデアや、僕たちの知らない技術もあるのだろうと思います。そして、作家や読者のために尽くし切れていないのではないか、僕たちにはまだそんな忸怩たる思いがあります。
もし、このnoteを読んで、漫画業界の未来を一緒に歩んで作ってくれる、漫画家や読者に貢献できる、そんなアイデアや技術をもった方がいればぜひ話を聞いてみたいと思います。
ジャンプ+編集部は、そのために「ジャンプ・デジタルラボ」という窓口を設けています。よろしければ、ぜひこちらも見ていただければ幸いです。
そして、今年(2022年)は3年ぶりに「ジャンプアプリ開発コンテスト」も開催しようと思っています。こちらも、「ジャンプ・デジタルラボ」の下記サイトで最新情報は告知予定ですので、チェックしていただければ幸いです。