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駿馬京の恋愛短編【蜷局】

駿馬京さんから恋愛をテーマにした短編を頂きました。SNSの炎上、人生が一変した瞬間から、2人の関係性がはじまった……。タイトルの意味が明かされる、情緒を揺さぶるラストまでぜひご一読を。

駿馬京(しゅんめけい)
『インフルエンス・インシデント』で第27回電撃小説大賞を受賞しデビュー。漫画原作としても活動、『君と観たいレースがある』(原作:渡辺零・駿馬京 漫画:くわばらたもつ)が発売中。


【蜷局(とぐろ)】


 子どものころから、大きな蛇が好きだった。毒の有無は関係ない。山道で見かけるような細長い組紐みたいなそれではなく、獲物を締め付けて窒息させたり骨折させたりしてゆっくりと飲み込んでいく、大きな蛇。

 毒の有無は関係ない……とはいったものの、四大毒蛇と呼ばれるアマガサヘビ、インドコブラ、カーペットバイパー、ラッセルクサリヘビは、年間5万人近い死者を出しているのだけれど、一方でアナコンダやニシキヘビは毒を持たない。

 幼心に不思議だなぁと思っていた。大きくて毒もあれば最強なのに。

 四肢が必要なかったから退化したんだよ、的な回答はネットで探せばすぐ見つかるが、どんな過程の進化を辿ればあんな機能になるのだろうかと不思議に思って、人の良さそうなペットショップの店員に尋ねてみたことがある。しかし『爬虫類にも個体それぞれに性格があるんだよ』とか、『エサをあげるときは冷凍した肉をきちんと常温に戻すんだよ』など飼育方法について語られるのみで、知りたいことは結局知りたいことのままだった。

 ぼくにとっての事実は、大きな蛇が獲物を締め付けて、ゆっくりと捕食していくことだけ。

 それだけだ。



『ねぇ、もう寝た?』

 電球の消えた暗い部屋のなか、ザー、ザー……というノイズにともなって、聴き慣れた女の子の声が聞こえた。

「……………………」

『ねぇ、もう寝た?』

 こちらの返答を待たず、同じ問いをぶつけてくる。

「……返事があるまでずっとぶん投げられる無敵の質問じゃん」

 眠い目を擦りながらスマートフォンの通話口に向かって声を返すと、電子音声に乗って通話相手の安堵するような吐息が聞こえた。

『ごめんなさい。もう眠いよね。ほんとごめんね』

「いいよ。というか佐伯、この間言ったでしょ。『謝りすぎないようにね』って」

『それは、わかってるけど……でもやっぱり悪いし……もう2時だし』

「ついでに言えば、もう通話をつないでから5時間も経ってるね」

『ごめんなさい』

「わかる。さすがにいまのは謝るよね。謝らせるように誘導したから」

『……うん、ほんと……悪いと思ってるよ』

 佐伯はことあるごとに謝罪を口にする。『申し訳ない』、『ごめんなさい』、『悪いと思ってる』などなど語彙のレパートリーは多岐にわたる。なんなら、今日の通話の導入もそんな感じだった。LINEの通知画面に『ごめん、今日も通話いい?』というテキストが現れた時点で、こうなる覚悟は決めていた。



 ぼくはスマホの音声をスピーカーモードに切り替えて、佐伯がいつぼくを呼んでも反応できる状態にしておきつつラップトップPCを立ち上げた。眠気が吹っ飛んだついでに試験勉強の続きにでも着手しておこう。といっても、あと7時間もすれば定期考査が始まってしまうけど。

 高校3年生の夏期。うちは大学附属高校だから、よっぽど悪い点数を取らなければエスカレーター進学できるけれど、試験の成績によって志望学部の優先権が決まる。いくらレールが敷かれているとはいえ、手を抜くことは許されないのだ。

『ねぇニナ、さすがにもう切ったほうがいいよね?』

 佐伯がおっかなびっくりといった様子でぼくの愛称を口にする。ニナガワという苗字をもじっただけのシンプルなニックネームなのだけれど、語感が良くて気に入っている……という話を以前、一度だけ口にして以来、ずっとこの二人称が定着している。佐伯の人間性が変質する以前からずっとそのままなので、彼女の立場や境遇が変わっても彼女の自己同一性を示す事実としてぼくは認識している。

「別にいいよ、気にしてないって言ったじゃん」

『……明日、テストじゃなかった?』

「日程、勘違いしてるんじゃない?」

『……ほんとうに?』

「もしぼくが嘘をついていたとして、確かめようと思う?」

『思わ……ないけど』

「ぼくは佐伯に通話を誘われて『いいよ』って答えた。電話を取った時点で、この誘いを了承したぼくの自己責任になる。それでよくない?」

『……ごめんなさい』

「というか言ったとおり、そっちが日程を勘違いしてるだけじゃない? もう1ヶ月でしょ、部屋に篭り始めてから。曜日感覚消えてるんじゃない?」

『……そう、なのかな。でも、スマホ見れば日付くらい分かるよ』

「それもそうか」

 佐伯はことあるごとに謝罪を口にする。

 正確には、謝罪を口にするようになった。

 1ヶ月前まではこんなやつじゃなかった。

 どの高校にもいる、教室の中心人物。快活で、社交的で、誰とでも分け隔てなく仲良くなる明るい女の子だった。校則すれすれの茶髪から、あきらかに穴の空いている耳朶がちらりと覗いていて、よく生活指導の教諭から呼び出しを受けていた。本来は禁止されているアルバイトに精を出していたことも知っている。まあ、佐伯のアルバイトに関してはそのうち全校生徒はおろか全世界中の人が知ることになるんだけれど。

 佐伯を変えたのは、ほんの29日前の、とある出来事だった。

 それ以来ずっと、彼女は学校を欠席し続けている。

 不登校はおろか、外の世界に出ることすらも拒否して、自宅に引き篭っているという。

「ねえ佐伯。高校、卒業するの?」

 ぼくは確認の意味を込めて、電話口の向こうに質問を投げかけてみた。

 佐伯の進退については、すでに教室中で憶測が飛び交っている。すでに学校を辞めたとか、休学扱いで定期考査だけ別会場で受けて形式上卒業はするとか。

『……わかんない。けっこう遅刻ついちゃってたし、何度か授業サボってたし、テストの点も平均点くらいだったから、たぶん次の試験を欠席したら留年確定すると思う』

「留年が決まったら、留年するの?」

『……それも、わかんない。でも、卒業はできないんだろうなぁ。ほら、うちって一応進学校じゃん? 大学進学率が99%を割っちゃうのを嫌がって、自主退学をすすめてきそうじゃない。というか、実際に1年生のころにそれで友達が通信制に編入したし』

「たしかに、大学の附属校なのに卒業後放逐される生徒がいるなんて、良い評判は生まないだろうからね」

 無論、成績によってエスカレーター進学の門戸が閉ざされる生徒もいるのだけれど、そうした生徒には3年生のはじめに学園側から勧告されて、早々に適性に合った偏差値の大学への受験をすすめられるという。ぼくには縁のない出来事だけれど、風の噂でそう聞いた。

 けれど、佐伯にはそういった選択肢すらも与えられないのだろう。

 進学を希望したところで、きっと大学側が彼女の入学を認めないだろうから。

 佐伯を——佐伯優という17歳の女の子を受け入れる場所は、とても限られているだろう。

 まるで、大蛇の蜷局の中に引きずりこまれてしまったかのように。

 彼女がこれまで築いてきたすべての信頼関係——家族や友人、その他もろもろすべてのつながりが、雲散霧消してしまったいまだからこそ、ぼくだけは彼女の力になりたい。

 それが『依存』というかたちであっても、彼女をこの世につなぎ留められるなら。



 依存体質の人間は、依存する相手の時間を奪うことに執着する。

 1日という単位のなかに割り当てられた24時間、1440分、86400秒という限られた時間のなかで、どれだけの時間を自らに費やしてくれるかどうかで、依存相手の価値が決まる。

 その点で言えば、LINEの通話という手段は完璧だ。

 スマートフォンという現代人が手放せないデバイスにおける機能の大半を、LINEの通知画面や通話音声によって削り取ることができる。否応なしに相手の注意を自らに向けることができるわけだ。もちろん、音声で直接的に会話を交わすことで、相手の意識を自らへ誘導することも可能である。実に合理的な手段だと思う。

 また、依存体質の人間はよく謝罪を述べることも特徴だ。

 先んじて謝ることで、相手に罪悪感を植え付けて、場合によっては相手の立場を強制的に書き換えることができる。すなわち、『ごめんなさい』と言われた側が客観的に『加害者』となってしまうのだ。謝罪の言葉を巧みに操れば、相手の立場をコントロールして、自らの求めたゴールに向かって相手の精神を誘導することができる——。

 ——と、彼らは思っている。私見だけれど。

 彼らは、相手の言動を縛るために謝罪というマジックを使っている。

 理解すれば、あとは単純だ。

 それらの間合いを見切って、関わらないようにするのが賢い人間関係の作りかただと思っているのだけれど、もちろん逆のパターンも存在する。つまり、目の前に現れた『依存』という枷に身を投じることで、より深い信頼関係を得ることができる。

 事実として、ぼくが佐伯と密接に話すようになったのは、ここ数週間のことである。



 ぼくは、変わる前の佐伯が好きだった。

 変質する前の、佐伯優という女の子が好きだった。

『ねぇ、この苗字なんて読むの?』

『ニナガワ』

『むっず。漢検何級に出てくるのこれ』

『自分の苗字が参考書に出てくるの、ふつうに嫌じゃない?』

『わかる! あたしも佐伯って苗字、よく文章問題に出てくるからふつうに嫌だわ。日常生活にはぜんぜんいないのにさぁ。文中何行における佐伯の気持ちを答えなさい、って問いに「ふつうに嫌」って書いてバツ食らったことすらあるレベル』

『だから、わざわざ自分の苗字を漢検のテキストで探そうと思ったことは無いかな』

『めっちゃ納得した! ……あれ? あたしいま、なにに納得したんだ?』

 誰に対してもフランクに接して、うまく同調しながらコミュニケーションを取る。教室に目立たない生徒がいれば、率先して輪のなかに入れる。誰とも対立せず、誰にも敵意を向けられることもなく、どこで学べばこれほど卓越した対人能力が身につくのかと思っていた。

 といっても、もともと過酷な受験を乗り越えて高校に入学してきた生徒たちばかりだ。陰湿ないじめも無ければ、表立った人間関係の不和も存在しない。というか、むしろ、あまり他人に興味のない生徒ばかりで、本能的な協調性が欠落しているからこそ、生徒間のいざこざが発生しないのかもしれなかった。そんな環境において、積極的に他者とスキンシップを取ろうとする佐伯の存在は、まるで太陽のようだった。

 太陽が無ければ月が輝かないように、佐伯優を失った教室は暗くどんよりと曇っているかのようにすら思えた。ぼくが普遍的な高校生として教室の雰囲気に馴染んで楽しい学園生活が送れていたのも、思えばすべて佐伯がきっかけだった気がする。

 佐伯はムードの構築に秀でていた。誰かとつながるわけではなく、誰かと誰かをつなぐ柔和な雰囲気づくりがとても上手な女の子。だから、ぼくが佐伯と特別親しかったわけではないというのは紛れも無い事実である。けれど、救われたのは確かだった。

 この空間に太陽を引き戻そうだなんて大層なことは考えていない。けれど少なくともぼくにとって、佐伯を再生することには重大な意味がある。

 けれど、一度爆発してしまった恒星はもとには戻らない。それもまた事実である。

 ビッグバンは、1ヶ月前に起こった。



 佐伯は地元のカラオケボックスでアルバイトをしていた。

 高校1年生の後期から、3年生に至るまで。

 もちろん校則に触れる行為である。けれど、クラスメイトの大半はその事実を知っていただろうし、無論ぼくもそのひとりだった。

 やむを得ない事情があるのかといえば、決してそんなわけではない。お小遣い稼ぎの範疇でしかなかった。美容やファッションへの関心が人一倍高い佐伯は、衣服代や美容院代、ネイル代などを自らのアルバイトによって賄っていたのだ。

 そして、佐伯の生態を変質させてしまった理由が、まさにこのアルバイトにあった。

 正確には、アルバイト中の佐伯を映し出した、1本の動画こそが理由である。


『3秒ルール』


 そんなタイトルが付けられた、Instagramのストーリー。

 内容はこうである。

 まず動画の冒頭に、撮影者と思しき、若い女の子の声が入る。

『床に食材を落としちゃったぁ。こういうときはどうするの?』

 次いで、調理場の床面に散らばったフライドポテトや唐揚げが映し出される。

 不衛生極まりない映像に、場違いな明るい声が入る。

『そんなときは慌てず騒がず!』

 続いて、画面中央に映った佐伯がフェードインする。

『だいじょうぶ。3秒ルール!』

 即座に食材を回収し、フライヤーの中に突っ込む佐伯。

 そして『おまけに熱処理で殺菌。これで安心です!』とお得意のキメ顔。

 わずか15秒ほどの動画である。

 ただ、アルバイト先でおこなったおふざけの投稿。

 佐伯のInstagramは鍵アカで、おそらく身内だけで共有して、笑いに昇華しようとしたのだと思う。けれど、事態は当事者の予想とは異なる方向に転換する。


 この15秒の動画がTwitterに転載され、瞬く間に話題となったのだ。


 拡散したアカウントの名前は文字化けしており、誰かが情報の流布を目的として恣意的に作成した『捨て垢』であることは明白だった。しかし、一方で映像そのものは事実である。

 わずか数時間で拡散数は2万件を超え、いわゆるインフルエンサーと呼ばれる人間が引用するかたちで苦言を呈し、苛烈なメンションが飛び交う。

 Instagramの投稿がTwitterに転載され、わずか数時間で大きな炎上をもたらしているという話は、すぐさまクラスメイトのLINEグループでも話題となった。

『マジでヤバいやつじゃない?』

『本名特定されてるじゃん……』

『YouTuberがもう動画出してる。今回の炎上について、って』

『これって撮影者だれ? バ先のひと?』

『これ面白いと思ってやったの? バカじゃん』

『学校の窓口に苦情入れたって投稿見つけた……どうなるんだろ……』

 阿鼻叫喚の様相。

 ぼくは『佐伯のアカウントって鍵アカだよね?』と投稿した。これを受けて、なかには『拡散したの誰?』と発信源を特定しようとする動きも見られたけれど、佐伯はその社交性ゆえ一般人にしては多数のフォロワーを抱えており、結局うやむやになってしまった。

 すべての関心は、これから佐伯にどのような処罰が下るのか。自分たちは関与を疑われるのか。学校の汚名が世に知れ渡ることによる間接的な影響はどの程度のものか。そういった当事者意識に飲まれていく。

 なによりも、数時間前まで当たり前のように接していた人間の醜態が、同日の夜に電子の海を駆け巡り、世界中に拡散され、嘲笑の対象となっていることの非日常性が、ぼくたちが背負えないほどの重荷となって降りかかってきていた。

 奇しくも、佐伯がつくりあげたアットホームな雰囲気において、佐伯という存在が異物と化してしまう事態が発生したのである。

 その証左として、当人である佐伯は、なにを言うでもなく、ただ無言のまま——自らが立ち上げたクラスメイトのLINEグループを退会した。弁明も、釈明もないままに。

 ぼくたちを温めてくれた佐伯という太陽は、ものの数時間で焼け落ちる。

 ぼくたちに残されたのは、そんな残酷すぎる事実だけだった。



 事実に抗う手段。

 ぼくに取れる選択肢はひとつだった。

『佐伯がしたことは社会的に許されない。だから擁護はしない。でも、佐伯は十分すぎるほどに責められたと思う。だからこれ以上責めたりしない』

 既読はつかない。

『その上で、ひとつだけ知ってほしい』

 既読はつかない。

『ぼくは佐伯の味方だよ』

 既読は——つかなかった。

 きっと、そうなのだろうと思っていた。

 インターネットで炎上した人間が、その渦中にありながらインターネットと接続するデバイスを身につけているとは思えない。もしかすると家族にスマートフォンの操作を制限されているかもしれない。知人からの説教や侮蔑のメッセージがたくさん送られてきて、通知を見ることすら嫌になっているかもしれない。

 それでもいい。佐伯に届いてほしかった。

 以来、ぼくは毎日LINEメッセージを送り続けた。毎日、1つずつ。

『世界中すべてが敵に見えるかもしれないけれど、そんなことはないよ』

『拡散している人間は、佐伯がどんな人なのかを知らない。けれど、ぼくは佐伯が明るくて社交的な人だってことを知ってる』

『頼れる人間がひとりもいないなんてことはない。少なくともぼくがいる』

『時間を戻すことはできなくても、佐伯に寄り添うことはできる』

『そのうち忘れられるなんて綺麗事は言わない。でも、きっといつか安心して過ごせるはず』

『佐伯が頼ってくれたら、ぼくは嬉しい。ずっと助けられてきたから。佐伯はそんなふうに思わないかもしれないけれど、ぼくが思ってるから事実なんだ』

 1通だけでもいい。ぼくの気持ちが、佐伯に届いてほしいと願った。

 そして、はじめてメッセージを送ってから1週間後。

 土曜日の22時ごろ、スマートフォンが聴き慣れない音を立てる。

 LINEの着信音。すぐさまディスプレイをスワイプして電話に出る。

「もしもし、佐伯?」

『……ニナ?』

 それがぼくの初めて耳にする、焼け落ちて灰となった、佐伯優の肉声だった。

「生きててよかった」

『……死んでるようなものだよ』

「ずっと連絡してたの、気づいた?」

『……さっき知った。親にスマホぶん取られてて』

「スマホ、返してもらったの?」

『……返してもらったっていうか……もう好きにしろ、みたいな感じで、ぶん投げられた』

「ぶん取られたりぶん投げられたり、スマホも大変だね」

『……なんで?』

「主語も述語もないからコンテクストがわからないよ」

『なんで、あたしに連絡くれたの? ニナ以外、誰からもLINE来てなかった』

「そうなんだ。ってことは、それがふつうなのかもね。火中の栗を拾わない系だ」

『だから、なんで?』

「佐伯に知ってほしかったから。ぼくがいるよって」

『……あたしたち、そんなに仲良かったっけ』

「佐伯は誰とでも仲良かったじゃん?」

『……………………』

「たぶんその沈黙は正解だね。そこで『うん』って頷けるほど図々しい人じゃないし」

『……あたし、もう……これからどうすれば……』

「佐伯はどうしたい?」

『……わからない。どうしてあんなことをしたのか。これからどうなるのか、どうすればいいのか……なにもかもがわからない……』

「じゃあ、一緒に見つけよう」

『……どういう、こと?』

「だから、ぼくが相談相手になるから、一緒に見つけよう。やるべきこと、したいこと。そのために——いつでも、電話してきてくれていいから」

 それから佐伯は毎晩のように通話を寄越すようになった。

 いわく、SNSのたぐいはすべてアンインストールした。

 ふとした拍子に自分の醜態がサムネイルとして出てくるのが怖くてYouTubeなどの投稿型動画サイトが楽しめない。だからずっとNetflixで映画を見て過ごしている。

 映画は良い。現実逃避になるから。でも逃避してばかりで現実に向き合える日が来るのかどうかがわからなくて怖い。だから、ニナとの僅かな音声通話の時間が拠り所になっている。

 そんなことを佐伯は口にしていた。

 ぼくは佐伯の言葉を決して否定しなかったし、肯定することもなかった。ただ、話を聞いて、うん、うんと頷いて、たまに形容を挟みながら認識をすり合わせる。

 まるでワークフローの定められた流れ作業のようなコミュニケーションだったけれど、むしろこちらが聞き役に徹したほうが佐伯も話しやすかろうと思い、ただ繰り返した。

 効果があらわれたのは、2週間ほどが経過したころ。

 ふとした瞬間、スマートフォンが『クスッ』という音声を拾ったのだ。

『あはっ……そうかも!』

「おっ」

 ぼくは思わず唸ってしまう。

「佐伯、この通話習慣がついてから、初めて笑ったんじゃない?」

『……あたし、笑ってた?』

「どうかな。電話じゃ表情見られないからわからないし」

『あはっ……それもそっか』

「ほらまた笑ったじゃん」

 そんなふうに、少しずつ。

 佐伯と歩み寄ることで、彼女の再生の一助となれればと尽力した。

 たとえこれが愛情の搾取であっても、ぼくにとってはどうでもいい。

 社会的に正しい。人道的に正しい。倫理的に正しい。

 佐伯のおこないを『バイトテロ』と評して叩き潰すような正論を、インターネット上でぼくは何度も目にしてきた。たしかに佐伯のおこないは正しくなかった。

 具体的には、床に落ちた食材をフライヤーという調理器具に放り込む行為について、衛生的な問題があるのは明白で、仮にこれが提供されていた場合はカラオケボックスの客に健康被害が起こった場合責任問題が発生する。また、フライヤーの油が交換されたのかどうか。ここにも焦点が当てられる。店舗が特定されれば企業の信用問題に発展し、損害賠償が発生する可能性もある。

 けれど本来、それらはすべて当事者である佐伯と、企業間で解決すべきこと。

 しかし世論は、佐伯の起こした問題を論い、第三者が口々に行為の非正当性を説く。

 そういった集合意識的な『正しさ』を携えた正義の刃が、結果的に佐伯の心をズタズタに切り裂いた。原形も無いくらい、木っ端微塵に。

 人間のかたちを失って肉塊と化した心を、さらに叩き潰すことが正義の行使なのだとしたら、そこには別方向の認知の歪みがありそうだ。

 いっそのこと、暇な人たちはハンバーグでも作ってればいいのに。

 ぼくが佐伯と通話するたび、伝えていた言葉がある。

「過去のあやまちは消えないし、電子の海に残り続ける。でも、それは佐伯が幸せになる資格を奪われたということじゃないんだよ」

 これを口にするたび、佐伯は力なく『うん』と答えていた。



 うちの高校は、他校と比べて比較的早い時期に夏が到来する。定期考査の全日程が終了し、晴れて我が校は夏季休暇へと突入した。

 試験の終了とともに、運動部の生徒が口々に「ついに始まったか……地獄の夏だぁ……」「これから毎日練習か……」「夏休み到来、なお大嘘の模様……」などと呟きつつ、路上にゆらゆらとたゆたう陽炎のようにおぼつかない足取りでグラウンドやアリーナへと向かっていく。

 一方で、文化部の面々や帰宅部の生徒たちは「こないだ言ってた旅行、あれ人数確定でいいよねー?」「せっかくだからこれから映画いく?」などなど誘い合わせて、早々に夏を満喫しそうな空気を醸し出していた。

 しかし、本来ならその輪のなかにいるはずの太陽はどこにもいない。

 とうとう佐伯は定期考査を受けにこなかった。

 個人の事情だからと詳細までは聞き出せなかったが、担任いわく保健室など会場を移して試験を受けたわけでもないらしい。いよいよ、佐伯の高校生活から『進学』という選択肢が道を閉ざしたのだと知る。

「ニナは良いよなぁ、試験なんてどこ吹く風って感じだ」

 ふいに同級生数名から声をかけられた。部活動に所属せず、仲間内で学生生活を楽しんでいるグループの面々である。本来なら喜んで応対するところだけれど、ぼくの思考は別の方向へと舵を切っている。

「やっぱ今回のテストも余裕って感じ?」

「うーん。ぼちぼちって感じ」

「ニナの『ぼちぼち』って満点って意味だよなー」

「それなりに勉強してるし」

「普通、それなり程度で満点なんて取れねえんだよ」

 やがて話題は試験から夏季休暇へと移っていく。

「なぁ、ニナは夏休みどうすんの?」

「どうするもなにも、決まってない」

「学割使えるツアープランで温泉に行くプラン立ててんだけど、お前も来る?」

「パス。こんな暑い時期に温泉なんてジジイかよ」

「なに。ニナ不機嫌じゃね? なんかあった?」

「なんもないことが不満って感じかな」

「出たよ、ニナの意味深なコメント。どういうこと?」

「意味を期待されても困るんだけど、強いて言うならアレだよ」

「どれだよ」

「巻き込まれるかたちじゃなくて、自分でイベント作らなきゃなってこと」

 そう言い捨てて、ぼくは教室を後にした。

 コの字状の廊下を渡って、エントランスホールを横切って、下駄箱まで一直線。スクールバッグの中からスマートフォンを取り出しつつ校門をくぐると、生活指導の教諭と目が合った。

 軽く会釈をしつつ素通りしようとすると、案の定声をかけられる。

「佐伯の処遇について、いろいろと聞き込みしてるらしいな」

「やっぱバレてますよね。そんな気はしてました」

「なにが目的だ?」

「別に。困ってるクラスメイトの助力をしたいなと思いまして」

「……もう一度問う。なにが目的だ。ニナ」

「せんせーって、生徒をニックネームで呼ぶタイプの教諭でしたっけ?」

「こっちは元担任教師だろ、許せ。それともセクハラで訴えるか?」

「こんな些細なことで訴えるほど法律ナメてないんで」

「……お前が1年生のころ、同学年の教室内で財布や金目のものが窃盗される被害が相次いでいたことがあったな」

「ありましたね、そんなことも」

「犯人は同学年かつ別クラスの生徒5名。いずれも体育の授業中、教室に忍び込んでの犯行だった。犯人特定の決め手となったのは個人ロッカーから撮影したであろう隠しカメラの映像。おまけに映っていたのは——」

「——ぼくがこれみよがしに置いていた長財布、でしたよね」

「そうだ。そしてカメラの画角から、撮影場所は」

「ぼくのロッカーでしたね。というかその件はきちんと話したじゃないですか。教室で窃盗が起きてるなんて気色悪いんで、勝手に自腹切って捜査しましたって。あとは警察に引き渡すなり学園側で内々に処分するなり適当にやってくれって」

 案の定、窃盗に加担していた生徒は芋づる式にしょっぴかれて、なんやかんや学園から除籍された。表向きは成績不振による他学校への編入とされていた。佐伯が以前、口にしていた『学校を去った友人』もこの中に含まれるのだけれど、この事実はぼくしか知らない。

 教諭はさらに続ける。

「ニナ、お前はこうも言った。『学園側の不手際を糾弾するつもりはありません。ただし、学園を去った生徒たちにどんな処遇が下ったのかを教えてください』とな」

「言いました。興味がありましたので」

「……今回の、佐伯の処遇について調べているのも興味からか?」

「あのですねー」

 ぼくはため息をついて反駁する。

「ぼくは、悪いことをした人間がどんな末路を辿ったのかを知りたいだけなんです。ただ、悪いことを悪いことと受け止めて、相応の苦しみを受け取るべきだと思っているだけ。それに以前の窃盗グループ、裏でエグいことしてましたし。3階の使われてない旧視聴覚室をあいつらが喫煙所にしてたの、学園側も気づいてないわけではなかったでしょ? そのぶん、あのグループには不可視のツケがあったわけで。それらも込み込みで『あぁ妥当だな』と納得しました」

 ひと呼吸置いてから、ぼくはさらに続ける。

「でも佐伯は違う。許されないことをしたのは間違いありません。でも、やらかしたことに対して代償があまりにも大きすぎる。あんなに明るい子が、いまじゃ廃人同然の日々を送っている。こんなの、あまりにも気の毒すぎるでしょ。だからせめて、彼女が置かれている状況だけでも知っておきたかった。佐伯の口から直接聞き出すなんて、傷口に塩を塗り込むような真似はしたくなかった。だから教師を頼ったまでのことです。どこかおかしいですか?」

 今度は教諭が大きくため息をつく番だった。

「……自主退学だよ。親御さんから連絡があった」

「そうですか。わかりました」

「いいか、他言無用だぞ」

「それ先に言うべきでは? もっともご存じのとおりぼくの口は硬いです。表情も硬いですが」

「……本当に、なにを考えてるのかわからんやつだ。気味が悪い」

「あのー、聞こえてるんですけどー」

「聞こえなかったふりをしろ」

「横暴だぁ。現役合格者数の底上げのために有名国立大学をかたっぱしから受験する約束、反故にしちゃってもいいんですけどー?」

「お前に借りをつくらないことのほうが重要かもしれない。検討させろ」

「冗談ですって。本気にしないでくださいよー」

 舌打ちをする教諭を後目に、ぼくは帰路を辿り始める。

 なるほど、佐伯は退学か。

 昨晩……というか今朝方まで話していた口ぶりからすると、佐伯はどうやら両親が決定した『学校を去る』という処置について知らされていないらしい。

 となると、早めに連絡しなくては。

 自暴自棄になられては困る。

 スマートフォンの画面に目をやると、LINEのメッセージが無数に送られてきていた。

『ねえ』

『ねぇニナ』

『ねぇってば』

『無視しないで』

『試験?』

『試験中?』

『試験、別の日って言ってなかった?』

『いつでも連絡していいって言ったよね』

『話したい』

『声ききたい』

『親が、退学手続したって』

『あと半年以内に、実家を出てけって』

『ニナ、たすけて』

『あたし、もうほんとに』

『どうすればいいか、わかんない』

 見事なくらい、愛情を搾取されている気がする。それもまた心地いいけれど。

 かつて同学年の窃盗グループの調査に助力したとき、ぼくは幼少期に知りたかったことをすこしだけ理解できたような気がした。それは確かだったけれど、辿り着けなかった。

 今回はどうかな。

 そういうわけで、提案してみよう。

 発信ボタンをタップすると、コンマ2秒ほどの速さで反応があった。

『ニナ、なんで——』

 佐伯の切羽詰まった声を受け流して、ぼくは提案した。

「佐伯、明日デートしよ」



 行き先は未定。待ち合わせ場所は佐伯の自宅。

 というか、ぼくが佐伯の実家の前まで迎えにいくことにした。

 唐突な外出の提案に、佐伯は反射的に拒否反応を示した。

『むり。ぜったいに、むり』

「わかってる。人の目が怖いからでしょ」

『そうだよ。だったらなんで——』

「つまり、人の目がなければ外出は可能だ」

『…………どういう、こと』

「人間のいない場所に行こう。明日は世間的には平日だし、海でも川でも山でもいい。とにかく人がいない、佐伯を知らない人しかいない場所に、外の景色を観に行こう」

 思い立ったが吉日である。

 時間通りに出向くと、指定された場所に建っていた民家の窓から、見知った顔がこちらを見て、その表情が驚愕に歪むのがわかった。まるで『ほんとに来るなんて』とでも言わんばかりの顔だ。あれだけ言い切ったのに出向かなかったらさすがに嘘でしょ。

 佐伯は物音を立てないように自室の窓からそっと出て、屋根をつたい、器用にブロック塀の上を平均台のように渡って、まるで曲芸師のような器用さでもってぼくのもとへとたどり着いた。

「ひさしぶり、佐伯」

「……ひさしぶり」

「佐伯ってそんな顔だったっけ?」

「……自分でも、ひどい表情だなってわかる。てかごめん、メイク。マジで最低限しかこなせてない。マジで見せられない顔してる」

「すっぴんでも悪くないと思うよ。素材がいいんだね」

「デリカシーなさすぎ」

 そう言って佐伯は、大きな黒マスクと頭がすっぽりと入るキャスケット帽をかぶる。

「……これで特定されないかな」

「ないんじゃない? まあ、そもそも人の多い交通機関を使わないって手もあるけど」

「どういうこと?」

「ぼく、バイク運転できるけど?」

「……やめとく。事故ったらそれこそ目も当てらんない」

「そっか。じゃあそうしよう。佐伯がしたいことをしよう。なにがしたい?」

 矢継ぎ早に質問を投げかけると、マスク越しに佐伯が笑ったのがわかった。

「ニナって、こんなにヤバいやつだったんだ」


 

 マスクとキャップ姿の佐伯の手をとって、最寄り駅まで歩みを進める。

 目的地はない。強いて言うなら、行きたいと思ったところに行く。

 なによりも、彼女を外に連れ出すことこそが最も大切だと思ったから。

 もしかすると、佐伯はこの先ずっと、ぼくなしでは外出すらできないかもしれない。

 そうあってほしいと思う。

 だから、これは確認作業だった。

「佐伯はどこに行きたい?」

「……どこでも。ニナの行きたいところに行きたい」

「ほんとに? ぼくの行きたいところは佐伯の行きたいところなんだけど」

「……あはっ。なにそれ」

 じゃあいっそのこと、ずっと北上して恐山あたりまで行っちゃう? なんて話も出た。恐ろしいことに行けなくはない。青森駅まで夜行バスに揺られ、その後レンタルバイク店で車両を借りて陸奥湾沿いをさらに2時間ほど走らなければならないけれど、それでも行けてしまう。

 一方で南はどうだろう。聞いたところによると沖縄にはわりとすぐ行ける。アクセスいいらしいし。むしろ、地理上は東京に所在する式根島や神津島にはフェリーに乗らなければ向かえないから、こちらのほうが難易度は高い。けれど、そのぶん佐伯を知っている人間はゼロに近づく。現実的に、それもアリかもしれないねとお互いに笑った。

 温泉に行くというクラスメイトの言葉を思い返して、やっぱりぼくは佐伯を選んでよかったと心から思う。

 始発から、何度も電車を乗り継いで。

 気がついたらまた日が暮れていて。

 太陽が沈んでいく。

 いつしか辿り着いた海岸にて。

 暗闇のなかで、ぼくと佐伯は手を握り合って言葉を交わした。

 まだ、月は見えない。

 そんななか、佐伯はぽつりとつぶやいた。


「あたしは……生きていてもいいのかな」


 ぽたぽたと、佐伯の整った相貌から雫が滴り落ちる。

 やがて滂沱の涙をともなって、慟哭が流れ落ちる。

「取り返しのつかないことをしたあたしに、生きる価値はあるの……?」

「あるよ」

 取り乱している相手には、なるべく端的に、シンプルな言葉で伝える。

 ぼくは忠実に遂行した。

「生きる価値は他人が決めるものじゃない。自分で見つけるものだと思う。佐伯が生きる意味は佐伯が決めていいんだ」

「あたしにはそんなの見つけられないし! もうなにもない! あたしにはなにもない!」

「ぼくがいるじゃん」

 即答すると、佐伯はハッとした表情でぼくを見る。

 まるで、母親を見つけた迷子のように。

「それだけじゃだめ?」

「だめじゃ……ない、けど」

「けど、なに?」

「ニナに、もっと迷惑かけちゃう……」

「ぼくがそれを望んでるんだから、それでいいんだよ。だめ?」

 こちらの言葉を受けて、佐伯はとうとう膝から崩れ落ちる。

 大粒の涙を流して、赤子みたいにわあわあと泣き叫ぶ。

 そんな彼女を、いつしか月が照らしていた。

 月は、太陽の光がなければ見えない。

 佐伯は悪いことをした。代償として、インターネット上で炎上を経験し、友人を失い、家族の信頼を損ない、誰にも頼れるものがなく、将来を閉ざされようとしていた。

 もう十分、釣り合いは取れただろう。

 ぼくは片腕で佐伯を抱き寄せる。

 ぎゅっと、ぎゅっと、縛るように抱きしめる。


 そして——もう片方の手でスマホを操作し、Twitterのアカウントを削除した。


 最後に目にしたのは、一見不規則で……その実、規則的な文字列。

『繝√Ε繝ウ繝峨Λ(チャンドラ)』。

 ようやくだ。

 ようやく、完成した。


 ——佐伯はもう、ぼくの許可なしには生きられない。


 ぼくは佐伯優が焼け焦げていく様子を、近くでずっと見ていた。

 彼女が苦しみ抜いた灼熱の1ヶ月を、誰よりもそばで眺めた。

 佐伯優はみんなの太陽であって、ぼくだけを照らすものではなかったけれど。

 これで、ぼくのものになる。

 ぼくだけを照らしてくれる。

「ニナ——ううん、癒月(ゆづき)。蜷河癒月(にながわゆづき)。ずっとあたしのそばにいてね」

 佐伯がぼくの名前を呼ぶ。

 必然的に、ぼくは答える。

「わかってる。ぼくはどこにもいかないよ」

 世界中のどこを見ても、佐伯の視界に入るのは、ぼくが入念に巻いた蜷局(とぐろ)だけ。

 ぼくだけしか見えなくなった彼女は、どんなふうにぼくを縛ってくれるのだろう。



 子どものころから、大きな蛇が好きだった。毒の有無は関係ない。山道で見かけるような細長い組紐みたいなそれではなく、獲物を締め付けて窒息させたり骨折させたりしてゆっくりと飲み込んでいく、大きな蛇。

 アナコンダやニシキヘビが毒を持たない理由が、ようやくわかった気がする。

 身体が形づくる蜷局こそが、最大の毒だからだ。

「そういえば佐伯。ぼくのこと、はじめて名前で呼んでくれたね」

「……うん。前々では馴れ馴れしいかなって遠慮してた。でも許してくれるかなって」

「ぼくの名前、どう思う?」

「きれいな名前だなって思ってたけど……それくらいかな。どうかしたの?」

「ううん、なんでもないよ。たまに言われるんだ、名前と性格が合ってないって」

「……へんなの。癒月はこんなに優しくて、あたしに寄り添ってくれるのに」

「わかる。へんだよね」

 それならば、安心して縛られよう。

 固く、固く、ぎゅっと縛り返そう。

 いつか解ける、その時まで——。

「佐伯はずっと、そのままでいてね」


【了】