〜二千文字物語〜 【初恋】

始まりは多分なんの変哲もない事。たまたま同じ学校で同じクラスで同じ部活に入部して、部活の相談をして、その内段々と部活以外の相談もして、そんな時間を過ごしているうちに他の人よりもよく話すようになった。修学旅行や文化祭、定期試験、そんな学校生活で誰しもが経験するイベントを重ねているうちに段々と彼の方に目が行くようになって行き気がついたら恋に落ちていた。

優奈「ねえ、陽菜?」
陽菜「….」
優奈「ねえ、陽菜?」
陽菜「….」
優奈「ねえってば!聞いてる?」

私は優奈の声にハッとして優奈の方に体勢を向けた。

陽菜「あ、ごめん、聞いてなかった、どうしたの?」
優奈「陽菜ねー。大好きな淳くんの方をみていたいのは分かるけど、少しは友達のことも大事にしないとダメだよ?」
陽菜「ちょっ、大好きって!そんなんじゃないって」
優奈「じゃあ、私たちの話を無視して上の空でどこを見てたのかな?」
陽菜「別にどこってわけじゃないけど…」

優奈はため息混じりで話続ける。

優奈「でも意外だったな。陽菜がここまで熱をあげるなんて。正直恋愛よりも今はもっと大事なことがあるっていう感じだったじゃない?どうしてこうなっちゃったかな?」

優奈の質問に私は明確な答えを持ち合わせていない。私だって自分がこんな風になるなんて思ってもいなかったのだから。

陽菜「ねえ、どうして好きな人って目で追っちゃうのかな?」

私の突然の発言に優奈は目を丸くしていた。

優奈「陽菜、どうしちゃったの!?聞いておいてなんだけど、いつもはもう少し隠すじゃん?」
陽菜「私だって分かんないよ…。正直恋愛のこと甘くみていた。ここまで自分が分からなくなるなんて思ってなかったもん。好きな人がバレるのは嫌だけど、今は誰かに話を聞いてもらいたい気分だよ」

彼の名前が呼ばれた時、考えている時、席を立つ時、彼のちょっとした挙動の度に私の視線は自然と彼の方に言ってしまうのだ。こんな行動に意味はない。それなら他愛のないでもいいから何か話しかけたほうがよっぽどいいだろう。そう思いつつも、こういう時に限って話題が見つけることができない自分に不甲斐なさを感じる。

優奈「じゃあ、この優奈姉さんに何でも話してみな!」

自信満々な親友の言葉にむしろ不安を覚える。

陽菜「やっぱりいいや。何でもない。今の話は忘れて...」
優奈「いやいや!そこまで言っといて無理だって!別に誰かに話したりはしないからさ!私だって友人の元気ない姿を見るのは辛いんだよ?」

優奈の発言は私を気遣っているように見えるが、目は「淳くんのどこが好きなの?」と言っている。誰かが言ってたっけ、人の本心は言葉よりも身体に出やすいって。それが本当なら彼女の心配は私の体調ではなく私の恋路の方になってしまうのだが、そう考えてしまうのは私の心が汚れてしまっているからだろうか?

陽菜「優奈は自分の幸せと自分が好きな人の幸せ、どちらか一つだけ選べるっていったらどっちを選ぶ?」
優奈「いきなりどうした?」
陽菜「ごめん、何でもない。今のも忘れて」

まあ、真っ当な反応だ。単純に親友がどう答えるのかが気になっただけで、別に答えを求めてるわけではない。多分こういうのは正解があるわけじゃなく自分が自分なりの答えをこれからの人生で見つけていくのだろう。高校生の段階で答えを持っている人もいなければ疑問に問いかけた人もほとんどいないだろう。そんな私に親友は真面目な顔をして

優奈「私は自分の幸せかなー?」
陽菜「え?どうして?」

私は「結局好きな人なんてこれから変わるんだから自分の幸せを追った方がいいでしょ?」とか答えるんだろうと思った。賢く考えればそうなのだろうが、多分そういうことではない。恋愛において将来ではなく今が一番大事なんだと思う。これからのことを考えられないくらい好きな人との時間を妄想して、にやけて、そして理想と現実に落ち込んで、片思いは綺麗な思い出とされるが、もっと泥臭く悲しいものであることを実感する。だから、賢く現実的な理由なんて多分聞いても意味ないだろう。そう思っていたが、優奈の答えは少し違っていた。

優奈「だって私の幸せって私の周りの人の幸せも入ってるから!だから私が幸せになればきっと私の好きな人も幸せになるはず!だから私は私の幸せを追うよ!」

優奈の優奈らしい答えに一瞬間が空いた。そしてそれは直ぐに私の笑い声に変わった。本当に優奈は優奈らしいな。自分に自信を持って前に進める子だ。多分こういう子だから親友でいられるんだろう。自分至上主義の主張に今は少し心が救われる。

陽菜「なにそれ〜。結局自分のことしか考えてないじゃんw」
優奈「まあね〜。陽菜もあんまり考えすぎない方がいいよ。陽菜は笑っている顔が一番可愛いんだから!」

優奈はそうやって私の頬っぺたをつねって上へ横へと引っ張り出した。優奈なりの励ましなのだろうか?

陽菜「それもそうね、ありがとう。少し荷が降りたわ」
優奈「それはよかった!」

優奈も笑うと同時にチャイムが鳴った。次の授業は担任の結衣先生による古文の授業だ。昔の人の恋愛話が多い古典だが、その当時の女性は男性の顔を知らずにどうやって相手を好きになるんだろう?好きな相手の顔は何度も見たいと思わないのか?手紙だけで満足できるんのだろうか?沢山接点があるから人を好きになっていくんじゃないのか?そんな不毛な議論を自分の中で繰り広げることが最近多くなった。

結衣「はい、淳くん!ここの単語の意味は?」
淳「!?あ、すいません、どこですか?」
結衣「全く...。ちゃんと聞いていなさい!じゃあ後ろの人は分かる?」

全く、他の成績はいいのに古文だけはボロボロだよね?受験でも重要科目じゃないから適当に流しているのかな?それとも昔の人の恋愛話は興味わかないのかな?そんなありえそうな理由で現実から目を背ける。でもそんなことは直ぐに無駄になることを私は知っている。だって後ろの人が答えている間、彼の視線は教科書ではなく結衣先生の方に向いているのだから…。


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