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読書記録(2)『ロード・エルメロイⅡ世の事件簿「case.剥離城アドラ」』(角川文庫)

 読書記録二回目です。
 読書なのでとりあえず読んだ本の記録してくのでこの辺もやっていきます。今回はTYP-MOON作品の「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿」。Fate系列だと一番好きかもしれません。最近事件簿の「case.魔眼蒐集列車」がアニメ化しましたよね。

概要

タイトル:ロード・エルメロイⅡ世の事件簿
著者:三田誠
出版:角川文庫
説明:魔術教会の総本山「時計塔」において、現代魔術科の君主(ロード)に叙されているエルメロイ二世は「剥離城アドラ」の遺産相続に立ち会って欲しいと依頼を受ける。内弟子のグレイを伴い城へと向かったⅡ世を待ち受けていたのは、相続のための謎解きだった。招待された高位の魔術師たちにはそれぞれ〈天使名〉が与えられ、謎を解いた者が遺産を引き継げるという。魔術と神秘、幻想と謎が交錯するとき、悲愴なる事件の幕が上がる。

感想

 やっぱり面白い。
 この事件簿、他のFate作品みたいにサーヴァントがバチバチにバトルする作品じゃないんですが、代わりに魔術や魔術師達、そして世界観設定などに関して掘り下げられてるんですよね。
 また魔術などに関しては三輪清宗さんという方が考証を担当していて、実在する神話や宗教思想、信仰などに由来しているのでその辺を知ってると更に楽しめるのも魅力だと思います。
 今回の剥離城アドラで特に掘り下げられているのはユダヤ・キリスト教における「天使」の概念や神秘主義の筆頭であるカバラ。
エヴァやとある魔術の禁書目録なんかにも関連する神秘思想ですね。セフィロトの樹辺りはクソ有名なアレです。
 
 魔術師達に与えられている天使名は「シェムハムフォラエ」というカバラにおける七十二の天使に由来します。
 作中で「ミカエルは伝承が多いがミハエルは珍しい」と言及されていますがミハエルはシェムハムフォラエの一人の天使の一角であり、夫婦の貞操と多産を司る天使ですね。
 また魔術における詠唱で

「Thou art the Mars,blessing from war deity.(汝は火星なり。戦神の息吹を受けるものなり)」
 
 とありますが、これは火星が古代より戦いを司る神に対応させられてきた事に由来します。ギリシア・ローマ神話におけるアレス=マルスが有名ですが、それ以前のメソポタミア等の神学においては冥界神の性質を持つ戦闘神ネルガル、またペルシアでは中級神のウルスラグナ等が対応させられています。
 同ページにも「汝は木星なり。父神の息吹を受けるものなり」とありますが、木星の英名はJupiter、即ちローマ神話における主神ユピテルに相当し、ギリシア神話における対応神のゼウスは父なる天空神という性質を持ちます。このゼウスは語根div-(輝く)に由来を持ち、古代インドにおける天空神ディヤウスや北欧神話のテュールに対応しています。占星術が始まった地であるバビロニアにおいてはマルドゥク神が相当しますね。
 こういった原典、現実の宗教概念に関して深く盛り込んであるので読んでいて「ここはこうだな」ってなるのも面白いんですよね。
 前半で二世とグレイが「天使」の概念に関して触れていますが、二世の言う通り「羽を持つ天使」というイメージは比較的後の時代、特にルネサンス期等においてギリシア・ローマ神話の有翼神との習合が大きな要因となっています。有名どころではエロス=クピドなどですね。
 聖アウグスティヌスを描いた「改宗するアウグスティヌス」という絵画には彼に矢を向ける天使が描かれていました。

 キャラクターだとやはり主人公のロード・エルメロイ二世の推理や持ち前の知識で人の魔術を瞬く間に解体していく部分などが好きですが、ヒロインであり狂言回しの役も担うグレイも好きですね。少女×大鎌が個人的にめっちゃ好きな属性なんですが、彼女の持つ魔術礼装であり幼少期からの友人であるアッドとの絡みも好きなんですよね。
 また、この作品の魅力は他作品からのゲスト出演というポイントもあると思います。
 この「剥離城アドラ」ではFate/Hollow ataraxiaから参戦したルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。アニメUBWでもエピローグで出てきましたね。
 世界観は基本的に共有しているので、次巻以降も殆どゲストキャラが物語に絡んでくるというのが面白いですよね。外の作品も触ってると尚面白いんですよ。
 
 原典も型月作品も両方好きなので、今の所一番好きな作品ですね。
 グレイに関しては田舎のとある村からロンドンに来たという経緯を持ちますが、彼女のいた村は月姫においては二十七祖に数えられているとある死徒と縁があったりもするので、こういうネタも随所に盛り込まれているのも魅力ですね。

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