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ちいちゃんの嫁入り支度

翌朝、神社に行くと朝の餌やり担当のS子さんと、
昼の餌さり担当のI子さんが待っていた。
境内を歩きながら、今までの経緯けいいを聞く。
昼担当のI子さんは、約1年半前から神社ねこの
昼の餌やりをしていること。
餌やりを始めたきっかけはちいちゃんとの出会いで
たまたま神社を参拝した際に出会い、一目ぼれ。
以降、ちいちゃんのお世話だけでなく
ほかのねこたちにもごはんをあげてきたこと。
そして、昼の餌やり担当に就任したときから
ゆくゆくはちいちゃんを引き取りたいと願い出ていたことも。
ちいちゃんが何かしらの体の疾患しっかんを持っていることも
高齢であることも充分承知しており、
今後の医療費の負担とちいちゃんの余生を
出来る限り快適にする考えであることなどなど。

ちいちゃんの命を救うためなら
「金に糸目はつけない」はI子さんだったのだ。

そして朝担当のS子さんと昼担当のI子さんが希望する病院へ
つなぐ役割をになうことを承諾し、その日は解散となった。

参道脇の茂みで休憩中のちいちゃん

ちいちゃんの病 克服までの道のり

その2週間後、I子さんは口腔こうくう専門の動物病院へ
ちいちゃんを連れていくことになった。
早朝、神社でちいちゃんに朝飯を食べさせたあと、
ちいちゃん本人の身支度が終わるのを待ち
やさしく抱き上げる。
猫用のネットに入れ、キャリーバッグに納めた。
ちいちゃんも、状況を把握しているのか
うんともすんとも、にゃんも言わない。
それどころか、I子さんに抱きかかえられるときも
ネットに入れられるときも
ちいちゃんはI子さんをじっと見つめていた。
今まで見たことのない穏やかな視線に
ちいちゃんとI子さんの信頼関係の深さを感じる。
ちいちゃんが自分の弱みを唯一さらけ出せ
甘えられる存在、それがI子さんなのだ。

この人なら、この人となら、
きっとちいちゃんは幸せな猫余生を送れるのだろう。

I子さんから渡された診断書

病院受診後、I子さんは
獣医師から渡されたレントゲン写真に、
口腔こうくう写真、診断書、治療計画書、治療費の見積もり書など
全てをカラーコピーしてファイルに入れ
関係者全員に配って回っていた。ごていねいに。
手渡された診断書によると、
ちいちゃんの難治性口腔炎なんちせいこうくうえんの炎症は
のどの奥まで広がっており、
できるだけ早く手術する必要があることも明記されていた。

I子さんは、可能ならその日から1カ月以内の、
神社の例大祭が行われる9月中旬ごろまでに
ちいちゃんを引き取り手術の準備をしたいと願っていた。
それらに異論があるはずもなく、
誰もがハッピーエンドを確信していた矢先のこと。

地域猫ボランティアとは?

ある朝、夜担当のN子さんが神社の階段を
ものすごい剣幕で駆け上がってきた。
「納得がいかない」
「だいたい、手術費用が安すぎて信用できない」
「私は10年、彼女の世話をしてきたのだ、
あなたは、たかだか1年半ではないか!」と。
年がいもなく駄々っ子のようなことを言い始めた。

気持ちはわからなくもないと朝担当のS子さんは言う。
年始にI子さんがちいちゃんを
「トライアル」として連れ帰ったとき
いつもいるべき子がいなくなってしまったという
喪失感が朝担当のS子さん、夜担当N子さんを襲ったそうな。
神社からちいちゃんがいなくなる、
頭ではわかっていても寂しい。
ちいちゃんと出会って間もない私でさえ
参道で行きかう人々を見守る
ちいちゃんの姿が見られなくなることを想像するだけで
なにやら心にぽっかり穴が開いたような空虚感があった。

昨晩からの大雨を灯篭の中で凌いでいたちいちゃん

喪失感、それはわかる。思いっきり共感できる。
しかし、病気になってしまった、または貰い手もらいてが見つかった
それなら、その子の幸せを願って
手放す勇気も必要なのではなかろうか……。

地域猫、のらねこ、保護猫、いろいろ呼び名はある。
つまり、飼い主のいない子をお世話するとは、
その子の幸せになる日(譲渡)までのお世話ではないのか?
素朴な疑問が頭の中を駆け巡り、
なんだかモヤモヤが晴れない、そんな出来事だった。
そして、この件はここで終わりはしなかった。

「事実は小説より奇なり」
ちいちゃんを取り巻く環境は思わぬ方向に
エスカレートしていく。

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