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消えた頂き女子
東京の片隅、古びたマンションの一室に、美穂は住んでいた。彼女は自分の美貌と魅力を武器に、年配の男性たちから巧みに金銭を引き出す「頂き女子」だった。甘い言葉と狡猾な駆け引きが、彼女の日常を彩っていた。
ある日、美穂は新しいターゲットとして神谷という男性を選んだ。一見地味で平凡な中年男性だったが、彼の部屋には骨董品や高価な美術品が所狭しと並んでいた。美穂は神谷の好意を引き出すため、悲痛な過去を巧みに作り上げた。哀れみを誘う悲しげな表情で自らの身の上を語る美穂に、神谷は心打たれ、彼女を手厚く支援した。
しかしある時、美穂は神谷の部屋で偶然、机の引き出しに隠されていた古い日記を見つけた。それは神谷が若い頃に愛した女性、聖子のものだった。日記には、聖子もまた「頂き女子」として多くの男性から恩恵を受けていたことが綴られていた。しかし彼女は次第に自らの行いに疑問を抱き、深い罪悪感に苛まれるようになっていった。
美穂が日記のページをめくる度に、聖子の苦悩と後悔の念が伝わってくるようだった。最後のページには、聖子が罪を償うために何か大きな決断をしたらしきことが書かれていたが、具体的な内容は記されていなかった。
日記を読み終えた美穂は、不気味な寒気に襲われた。早くこの部屋を出ようと立ち上がったその時、背後から声が聞こえた。
「美穂さん、私の話を興味深く読んでくれたようですね。」
振り向くと、そこには消えたはずの聖子が立っていた。優しく微笑む彼女の瞳は、底知れない悲しみを湛えていた。
「私のようになりたくないなら、今すぐこの仕事をやめなさい。この道の先に待っているものは、苦しみと絶望だけよ。」
その夜、美穂は悪夢に悩まされた。夢の中で、彼女は暗い霧に包まれた部屋にいた。ふと顔を上げると、そこには聖子が立っていた。その姿は生前の面影を残しつつも、どこか非現実的で、青白い光を放っていた。
「美穂さん、私はあなたを永遠に見守っています。」聖子の声は優しくも、どこか空虚に響いた。「この仕事から抜け出せないまま、私と同じ運命をたどることになるでしょう。」
美穂は恐怖で身を震わせながら目を覚ました。冷たい汗が額を伝い、心臓は激しく鼓動していた。部屋の隅には、まるで夢の中の聖子を思わせる影がちらついているように見えた。
美穂は決意した。もう誰からも何も「頂かない」と心に誓ったのだ。彼女は自らの行いを深く恥じ、この生き方から抜け出そうと必死に願った。
しかし、その決意は遅すぎたのかもしれない。
次の朝、美穂は自分の体が全く動かないことに気づいた。まるで見えない力に押さえつけられているかのように、ベッドから起き上がることすらできなかった。彼女は恐怖に襲われ、助けを求めて叫ぼうとしたが、声は喉の奥で掻き消えてしまった。
そのまま、美穂の意識は次第に遠のいていった。彼女の魂は肉体から抜け出し、重力に引かれるように上へと昇っていく。最期の瞬間、美穂は聖子の姿を見たような気がした。聖子は悲しげに微笑み、美穂を引き寄せるように手を差し伸べていた。
美穂の息絶えた部屋には、彼女が「頂いた」高価な贈り物の数々と、聖子の古い日記だけが残された。美穂の肉体は冷たくなり、魂はこの世界から消え去った。彼女は聖子と同じ運命をたどったのだ。
聖子の亡霊は、美穂の魂を引き寄せた。二人の魂は、永遠に「頂き女子」の罪を背負い、さまよい続けることになるのだろう。それは、生前の罪から逃れられない者たちの悲しく孤独な結末であった。
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