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授業てらす講師 新潟大学附属新潟小学校 中野裕己先生について語る

はじめに

 人との出会いによって自分の授業が変わる、そうした体験を人生の中でどれだけしてきただろうか。「すごい先生」や「尊敬できる先生」に出会うことは、それほど珍しいことではないのかもしれない。しかし、人との出会いが自分の授業を変えてしまうというような体験は、それほど多くないように思われる。だが、私は、自分の授業が変わるような出会いを、授業てらすに入ることで体感することができた。それは、中野裕己先生との出会いである。本稿では、中野先生とはどのような方なのか、私の眼差しから、深く掘り下げていきたいと思う。

子どもが自ら言葉に向かう国語授業

 まず、中野先生の国語授業を見て気づくのは、子どもたちが教材に対し前のめりになり、自ら言葉と言葉を繋いで理解を深めようとしている姿があるということである。例えば、『スーホの白い馬』の授業では、「もしも殿さまがいなかったら、このお話のどこが変わる?」という問いを投げかける。すると、子どもたちは教材文の叙述を何度も読み直し、線を引き、「この部分が変わる!」ということをつぶやき始める。こうした子どもたちの姿が生まれるのは一体なぜか。実は、この発問の前に、中野先生は「殿さま」がスーホにとって(あるいは視点人物に寄り添って読んでいる子どもたちにとって)嫌な人物であることが全体で共有している。子どもたちはスーホに寄り添って読んでいるため、殿さまの存在は「馬」を死に追いやった酷い人物、ということになる。しかし、このようにして「殿さま」という人物に対する見方の基本的な構えを作った後、中野先生は「殿さまがいなければよかったよね」と揺さぶりの発問を投げかける。すると、子どもたちは「いや、殿さまがいなかったらこのお話は・・・」、「確かに殿さまは嫌なやつだけれど・・・」というような意識が生まれる。つまり、「殿さまは嫌やな人物だけれど、この作品の中で何か大事な役割を持っているのかもしれない」という問いが子どもたちの中に生まれたのである。だからこそ、叙述に立ち止まって、何度も本文と向き合う子どもの姿が生まれたのだ。しかも、「このお話のどこが変わる?」と聞かれたら、自ずと「ここが変わる!」という形で文章に着目することが促される。このように、中野先生の授業の中には、子どもたちが前のめりになって学びに向かうための手立てが丁寧に仕掛けられているのである。

対話型国語授業の最高峰

 さらに、中野先生の国語授業は個に閉じられていない。いや、個の学びを最大限に尊重するからこそ、対話的な学びが生まれるための働きかけが随所でなされている。中野先生は対話の価値を「意味の共有化」ということに置いている。「意味の共有化」とは、ある子どもが発言したことや記述したことに対して、別の子どもが解釈し、理解する過程を通じて、学びの価値が共有されることを指す。つまり、中野先生は、対話を通じて、個々の子どもたちが他者の考えから理解を深めていくその「過程」を大切にしているのである。先ほどの『スーホの白い馬』の授業でもう一度考えてみよう。子どもたちは、視点人物の「スーホ」に寄り添いつつ、「殿さま」が嫌な人物であることを、対話を通じて、全体で共有していた。この「登場人物に対する見方」を共有するまでに、おおよそ15分ほどの時間がかけられている。しかし、ある子どもが発言したことに対し他の子どもが理解を示したり、共感しあったりする「過程」が大事にされているからこそ、子どもたちは本気で話し合い、友達の話に真剣に耳を傾けている。こうした授業のあり方は、中野先生の授業全体を貫いている。対話型国語授業を徹底的に追究する中野先生だからこそ、子どもたちは対話を止めないのである。

志高き授業者

 そして何より、私が強く心を打たれるのが、中野先生の教育に対する情熱である。セミナー中はもちろん、懇親会等でお話をしていると、授業における大切な哲学を教えてくれる。中野先生は教師主導の授業を超えて、「子どもたちが言葉と言葉のつながりに自覚的になる国語授業」、さらには「対話的な国語授業」への徹底した意識を持っている。こうした授業に対する思いが、中野先生の指導技術を支えていることを強く感じる。授業への思いが並大抵ではないのである。また、学び続ける教師ということをその姿で体現している。6月24日「国語授業アップデートセミナー」後の懇親会の際、中野先生は「私は常に学び続けたいと思っている。学びたいという気持ちがあれば、忙しいという気持ちにはならない。」ということを話してくれた。このストイックさに、私自身が勇気をもらう。常に学ぶことを楽しみ、前向きに国語授業について語る中野先生のそばにいると、自分もまた学ぶことを楽しみ、走り続けることができるのである。

おわりに

 ここまで中野先生のことを紹介してきた。ただし、私の文章力では、中野先生の全てを十分に語ることはできない。だからこそ、この文章をお読みの方は、ぜひ一度中野先生の授業・講座を見ていただきたい。まず、その授業力の高さに圧倒されるだろう。そして、できれば直接中野先生に話しかけていただきたい。中野先生は来るものを絶対に拒んだりしない。むしろ、温かくあなたを迎え入れてくれることだろう。何より、確かな授業力、志高き思いに触れたあなたの国語授業はきっと変わることになる。授業を変えたいと思い、日々歩み続けている読者の方であれば、中野先生との出会いはきっと一生ものになるだろう。
 8月11日(金)及び8月12日(土)には、授業てらすで「磨け、授業力。ALL HAPPY」という大規模なセミナーが開催される。そこでは、全国の錚々たる教師が多数集結し、2日間で本物の授業を体感することができる。もちろん、その中には中野先生もいる。ぜひ、本セミナーに参加していただき、人と出会い、自分の授業を変えてほしいと思う。あなたを変える出会いがそこにはあると私は確信している。

授業てらす TAKA _黒瀬貴広@山梨

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