最近よく聞く「アドベンチャーツーリズム」ってなに?
訪日観光客の増加にともない、最近は「アドベンチャーツーリズム」という旅行形態がトレンドとなっています。アドベンチャーツーリズム(Adventure Tourism)とは、旅行者が地域独自の自然や地域のありのままの文化を、地域の方々とともに体験する旅行のこと。「アクティビティ、自然、文化体験の3要素のうち、2つ以上の要素をもって構成される旅行」と定義されており、経済的にゆとりのある欧米人を中心に「付加価値の高い旅のスタイル」として人気を集めてきました。
そんなアドベンチャーツーリズムに、日本でいち早く着目したのが北海道です。そこで、その可能性や魅力について、北海道でこの取り組みを推進している社員に聞いてみました。
「アクティビティ、自然、文化体験」が、旅行者の内面や人生観を変える。
―― なぜ北海道では、いち早くアドベンチャーツーリズムへの取り組みを推進してきたのでしょうか。
柴田:北海道は世界遺産知床・釧路湿原・大雪山などの大自然に恵まれ、ハイキング・サイクリング・カヌーといったアクティビティも豊富。さらにアイヌの伝統文化やゆたかな食文化もあるので、まさにアドベンチャーツーリズムを推進するにはうってつけだったんですね。
そのため、2016年ごろからアドベンチャーツーリズムへの取り組みを推進しており、2023年9月には「アドベンチャートラベルワールドサミット」も、ここ北海道で開催。世界から多くの関係者が来日し、北海道の自然や文化を堪能しにきてくれたんですよ。
―― 柴田さんが思うアドベンチャーツーリズムの魅力を教えてください。
柴田:そうですね。アドベンチャーツーリズム協議会では、以下5つを「体験価値」と定義しています。
私としても、やはり自然・文化・地域を体験することで、旅行者の内面や人生観が変わることが一番の魅力かなと思っています。
―― アドベンチャーツーリズムを推進していくにあたって、課題もあるのでしょうか。
柴田:アドベンチャーツーリズムはすでに欧米ではトレンドとなっていますが、日本においてはまだ確かなマーケットができていません。しかし、一般のお客様からの問い合わせは増えてきていて、JTBグループとしては昨年から商品を出し始めました。まずは土壌を広げていくことが大切だと考えています。
また、市場やお客様のニーズにお応えするのはもちろんですが、サステナビリティの推進や、地域経済への貢献という視点も欠かせません。課題もありますが、取り組む意義は大きいと考えています。
―― 具体的にどのようなことを意識しながら取り組んでいますか?
柴田:北海道運輸局が唱える「四方(よんぽう)よし」というキーワードがあるのですが、この考え方に私は共感していて、それを意識しながら取り組みを進めています。
ちなみにこの「四方よし」は、近江商人で有名な「三方よし」がベースです。三方よしは、「商売において売り手と買い手が満足するのは当然のこと、社会に貢献できてこそよい商売といえるという考え方ですが、そこに「環境や自然のサステナビリティ」を入れ込み「四方よし」としているんですね。
この考え方は、実際に「北海道の国立公園『ここだけの旅』」という商品の企画にも発展しました。グリーン期の販売は終わりましたが、現在は北海道ならではの流氷ウォークなどを取り入れた「ウィンター期」として、道東と道央の2商品を販売中です。通常の観光とはひと味違う自然・文化・歴史を体感していただくことをテーマにした商品で、地元に精通したガイドとともに、少数グループでゆとりある旅をサステナビリティにも配慮しながらお楽しみいただけます。
ちなみにグリーン期の商品(道東の阿寒摩周国立公園:阿寒湖→硫黄山登山→屈斜路湖→津別峠)は、HAMBURGER BOYSさんにも体験してもらったので、ご興味のある方はYoutubeでぜひご覧ください!
イレギュラーが交流を生む、本当の魅力は地元にあり。
―― ほかの旅行者のみなさんは、具体的にどのような体験をされているのでしょう。何かエピソードがあったら教えてください。
柴田:知床国立公園コースに参加された、ある年配のご夫婦が私としては特に印象的ですね。以前から知床への旅行を考えていたそうで、ようやく時間ができたとのことでお越しいただきました。
特に野生動物を観たいと期待されていたのですが、自然が相手ですので正直なところ会えるかどうかは運次第。にもかかわらず、はやくも初日のナイトウォッチングツアーで野生のキツネが野ネズミを捕獲するところに遭遇いただけました。そして幸運なことに、次の日は知床峠手前で、なんとヒグマに出会うことができたんです。
ご主人からは「この歳になると感激することが少ないが、ここでは自然のものと今を一緒に生きている実感がわく」というお言葉をいただきました。そして「さまざまな生態が過酷な環境で生育していることを知り、『お前も、まだまだだぞ!』と言われているような気がした。本当に元気をもらえる良い旅でした。」と。うれしかったですね。
またこれは別のお客様の話ですが、先日ホエールウォッチングが欠航になってしまったため、代わりに地元の羅臼昆布のヒレ刈り体験をご案内したんです。地元の漁師の方々も張り切ってくれて、漁師ならではの「浜言葉」でハサミの入れ方や美味しい食べ方を教えてくれ、さらにはお土産まで持たせてくれました。アドベンチャーツーリズムに資するツアーは、天候や気象状況によって柔軟に行程を変えないといけないケースが多々あるのですが、こんなふうに地元の人たちとの交流が生まれるのは嬉しいですね。参加者の皆様にも、できるだけイレギュラーを楽しんでいただけるようにしています。
―― 参加者や地元の方たちなどの、交流も生まれていそうですが。
柴田:はい、いまお話しした欠航のケースはイレギュラーでしたが、ツアーのなかで交流を生む工夫もしています。
たとえば、今回の「北海道の国立公園『ここだけの旅』」というツアーでは、あえて行程のなかに昼食を組み込みませんでした。ツアー参加人数を少なく設定し、大人数では対応できない、地元の方たちが利用する名物店や料理を選んでご利用いただきたいと考えたためです。多人数で押しかけて、慌ただしく食べて引き上げるのではなく、少人数で地元のお店に入り、そこの店主と交流しながら食事を楽しむ。あるいは地元の人と相席となって会話を交わす。そんななかで、北海道の本当の魅力に触れていただきたいという想いがありました。
実際、地元の皆さんも大変好意的に受け止めてくださっていて、参加者との交流にやりがいを感じていただいています。また、お客様のお好みにあわせてお店をご案内していますので、地産地消や食品ロス対策(適量での食事)にも少なからず貢献できているのではないかと思っています。
アドベンチャーツーリズムはまだまだこれから、北海道の魅力を世界に届けていくために
―― 今後、北海道のアドベンチャーツーリズムにはどのようなことが必要でしょうか。
柴田:日本では、まだまだアドベンチャーツーリズムはニッチなマーケットかもしれませんが、今後は業界のニューツーリズムになると思っています。北海道としては、さらに旅のクオリティを重視して、リピーターになっていただくための取り組みが必要でしょう。そのためには、人と地域とのコミュニケーションや、驚きあるコンテンツの提供など、旅行者に楽しんでいただくことを最優先に考える必要があると思っています。
―― 最後に、柴田さんの夢も教えてください。
柴田:さきほどの「四方よし」の考えが、私には本当にしっくりきています。これを念頭にアドベンチャーツーリズムを広めていきたい。北海道には世界に誇れる魅力があります。それをさらに磨き上げることで、北海道という地域を活性化、ひいては日本全体を豊かにしていきたい。
それと、個人的な夢をいうなら、観光における知識や経験を武器に、北海道の経済界にも関わってみたいと思っています。地元事業者の皆さんと一緒にさまざまなことに取り組んで、北海道の将来に貢献できたら嬉しいですね!
―― 柴田さん、ありがとうございました!