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元国際審判・家本政明氏がレフェリーの本音や裏話を語る『ある試合』+『教えて!いえぽん in YFFF2022』 

昨年6月に行われたヨコハマ・フットボール映画祭で、スイス人の国際審判を記録したドキュメンタリー映画、『ある試合』の上映を実施した。スイスを拠点に置くサッカークラブのBSCヤングボーイズとFIFAの協力によって撮影された本作は、わずか17分の内容ながらも、試合に臨む主審の様子が克明に描かれている。今回は、国際審判として2021年まで活躍され、本作の翻訳にも携わっていただいた家本政明氏をお迎えし、映画の感想や、審判の本音や裏話。そして、会場観客からの質問にもたくさん答えていただきました。

翻訳初挑戦の家本氏が感じた、想像力の大切さ


福島:
2度目のご登壇となる家本さんには、今回は字幕制作にもチャレンジしていただきました。制作を終えた感想をお聞かせ下さい。

家本:翻訳は初めての挑戦でしたが、素晴らしい機会を頂けたことに感謝します。

今作も含めて、多くの方は、映像を見た後で字幕に読むことになると思うんですけど、ある時「文字を読む」意識が強すぎて、映像や話の内容が入ってこない自分がいることに気づかされたんです。

最近の日本のテレビ番組とかを見ても、大半は字幕が出ていて、読みやすく工夫されている。「文字を理解しよう」とする意識が強くなってしまうぶん、もしかしたら感動することが難しくなっているところがあるのかなと感じさせられました。

ーー家本さんは、国際審判としても活躍されてきました。審判をされるにあたり、語学力は必要なのでしょうか?家本さんも英語が堪能なのですか?

家本:実は、語学はもう全然出来なくて…。 “This is a pen”とか、“Aha”、“uh-huh”、“Year”くらいですよ。もちろん「英語ができたほうが良かったな」とは思うんですけど。それでも11年間、何とか迷惑をかけることなく過ごすことができたのかなと感じています。

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ーー日本の審判の中で、語学が堪能な方はいますか?

家本:現役の審判の中では、山内宏志さんが圧倒的に英語のレベルが高いですが、あとはみんな同じくらいです。でも、語学が話せると、全然違いますよね。そこは強く思います。

高温多湿の中東の試合は、とにかくエグかった

ーー過去に色々な国際試合を経験されていると思いますが、その中で一番「エグかった試合」のエピソード聞かせてください。

家本:「エグい」にも色々あると思うんですけど。「凄い」という意味では、2010年にウェンブリースタジアムで行われたイングランドとメキシコの試合ですかね。いわゆる「ゾーン」をピッチレベルで体験させていただけたのは、自分にとっても貴重な経験になりました。「ヤバい」という意味では、中東での試合ですね。サウジアラビアとかに遠征に行くと、日中の気温が40~50℃近くあるんです。長時間のフライトで疲れている中で、時差も6時間ある。そういったコンディションで、気温の高い場所で試合に臨むのは、本当に大変でした。週末の試合を終えてから現地に向かい、火曜日か水曜日の夜中に、中東で行われる試合に臨まないといけない。試合の翌日には、再び日本に帰ってきて、また週末にはJリーグの試合に出る。時差と移動と環境の問題は、本当に大変でした。

レフェリーのスタンスの違いが描かれている作品

福島:「ある試合」は、実在するフェダイ・サンと言う審判のことを描いた作品です。共感できたところや、そうでなかったシーンはありますか?

家本:レフェリングをしているフェダイ・サンが、感情的になっているシーンがありましたが、日本の場合は、残念ながらそれを受け入れてもらえない風潮があるんです。日本では、レフェリーが感情を出すと、「短気だ」とかネガティブに言われてしまうことが多くて。でも、海外でレフェリングをしている時には、僕はゲームを落ち着かせるために、あえて感情を表現していたところがあるんです。僕のスタンスを受け入れてくれる風土も、海外では整っていましたから。結局は、文化や価値観、歴史の違いに繋がっていくと思いますが、レフェリーのスタンスの違いが描かれている点は、僕にとっても印象的でした。

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福島:作中では、声援を送るサポーターの様子も描かれていました。

家本:Jリーグでも、徐々に声出しが解禁されてきていますが、声援の心地よさを感じているレフリーも、意外に多いんですよ。「いい試合しよう」というメッセージとしても受け取れますからね。いわゆる“ブーイング”を受けたことも多くありましたけど、僕自身は、自分の判断の正しさよりも、「周囲からはそのように見えるんだ」と感じながら、冷静に受け止めていました。中には、感情の琴線に触れてしまう人もいらっしゃるんですけど。

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福島:映画の中では、「タッチ」という言葉が散見されました。

家本:ヨーロッパのレフェリーは、「プレイ ザ ボール」や「タッチ ザ ボール」という表現を使いながら、選手とコミュニケーションを取ります。「最初にボールに対してプレイが出来ていた」という状況が、「タッチ」です。選手が判定に対して感じた疑問を感じたままだと、なかなか次のプレイに入れないことが多いので。「タッチ」などの言葉で主審の判断を伝えてあげると、その疑問を取り除いてもらえるという感じですかね。

国際審判を経験して感じた、海外とのレフェリングの違い

ーー家本さんは国際試合を経験されていますが、国内外における評価の違いを感じられたことはありましたか?

家本:国内と海外の試合を経験して感じたのは、双方の評価の基準や観点に大きな違いがあるということです。海外では「明らかにPKだったのに、PKを取らなかった」とか、「明らかにレッドカードが出る場面なのに、カードを出さなかった」というその試合で起きた大きな事象の部分だけを指摘されるんですけど、日本の基準は海外よりも細かい傾向があって。「何分のあのプレーは、何で反則だったの?」みたいなことを聞かれて、延々と答えていく感じです。

映像を見ながら検証していくんですけど、細かな点を指摘されるので、自分でも記憶に残っていないような場面もときどきあって。なので、日本の方が「震えながらアセスメントを受ける要素」は強いのかなと思います。 

――VAR判定を待っている時は、審判の皆さんはどんなことを考えていますか?

家本:状況次第ですね。「判定を待つドキドキ感」はありますけど、僕は意外と“無”でいられたかな。試合でVAR判定になった時には、「最初にボールに触れた」とか、「相手の足に触れているけど、スピードと力の加減については、僕はこれくらいだと思っている」とか、ピッチ上で自分が見たものを、数字を交えながら説明していました。

――家本さんの場合は、ご自身の評価のされ方に対して、ある程度の距離を置いているイメージがありますが、審判の皆さんは、ご自身の評価をどのように捉えているのでしょう?

家本:日本人の審判は、気にされている方もいるんじゃないかな。研修を終えた後に審判同士で集まった時にも、「いついつの試合では、誰に何を言われて…」という話題に及ぶことが、海外に比べたら圧倒的に多いですから。

一方、僕が海外のセミナーに参加した時には、審判の評価に関する話題が出ることはほとんどありませんでした。それが、日本との仕組みやそれぞれが持つパーソナリティー、もしくは国民性の違いに起因するものなのか、詳細な理由はわかりませんが、両者に違いはあるように感じました。

なので、先ほどお話にあったVARに関しても、日本では“評価”の一部に含まれるので、それらに対する評価に対してドキドキする主審、副審の方も中にはいらっしゃるそうです。

――家本さんが、審判を務められる際に大切にされていたことは?

家本:僕自身は、「選手やサポーターに良く思われたい」とか、「良く評価されたい」という感情はなかったですが、自分の大きな勘違いや見落としによって、多くの人を結果的に傷つけたり、もやもやした怒りを抱えさせるのは申し訳ないという気持ちは強くて。そうならないための方法を考えたり、もし、そのような事態を引き起こしてしまった時には、どうやって解決するのかを強く意識していたように思います。

――若い審判の方から、相談を受けることもありますか?皆さんのお悩みは、どんな内容のものが多いのでしょうか?

家本:これはあくまでも僕の経験なのですが…。日本では、感情を出しながらレフェリングすることが、ネガティブなこととして捉えられてしまうんですけど。海外に出ると、日本のように場を乱さないことに気を配って自己主張をしない人や、自分の意見を言わない人は、そこに存在しないものとして扱われてしまうんです。なので、僕がたくさんの失敗を繰り返しながら学んできた、それぞれの文化や国民性の違いや隔たりをについて、伝えたりすることはありますね。


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スイスのレフェリーFedayi Sanが裁いた試合を記録した短編ドキュメンタリー映画。FIFAとBSCヤングボーイズ協力の元で作成された本作は、熱量溢れるスタジアムの雰囲気が記録されており、その中で適切に試合を裁くレフェリーの仕事や、その緊張感を味わうことが出来る一作。
2020 / スイス / 17分 / "Tigrar" / ドキュメンタリー
監督名:ローマン・ホーデル出演者:フェダイ・サン

2022年6月5日(かなっくホール•東神奈川)にて実施

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