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ノルウェー、透明な世界から日本の未来を考える

依頼論説
屋井鉄雄
一財)運輸総合研究所所長
東京工業大学特命教授
東京医科歯科大学特任教授

発端は土木学会のビッグピクチャー検討時にあった。

「ノルウェーでは長期インフラ計画が事業規模と共に決定され、1100㎞に及ぶフィヨルド縦貫道路等が建設中である」との話を聞いた。当時、筆者はノルウェーでは国や地域の計画体系が備わり、万事公論に付して決めるから可能なのだろうと推察した。それは必ずしも間違いではなかったが、透明感の高い大自然に留まらず、“隠すことのない高い透明性”、それがすべての源泉のようだと今は考えている。土木学会ではビッグピクチャーのフォローアップ委員会を設置して検討を続けたが、国土交通省とも連携して、彼の地で国や地方行政の人達と大いに意見交換をしてきた。その全体報告に先立ち、本稿ではこの一点に絞って論じてみたい。

詳細は同報告に譲るが、ノルウェーの長期インフラ計画の一つに“国家交通計画”があり、その策定途上の情報公開レベルが極めて高いことは特筆すべき点である。計画策定中には計画に関わる部局間のやり取りも膨大な文書で積極的に公開し、事業の便益の低さやコストの高さなどの課題、中央や地方の各組織の賛否を含む見解の相違なども包み隠さず公開している。政治家の要望なども一緒にオープンに評価されているようだ。そのような計画づくりが数年ごとに繰り返される。

また、各事業計画ではノルウェー独自の“プランプログラム”という過程を設けていて、計画開始にあたり、全体プロセス、住民参加の方法、複数代替案の概要などを公表し、地域の理解を高める工夫がなされている。これは極めて効果的であり、日本でも参考にすべきである。事業計画の決定は地方議会が行うが、大きな計画の検討は省庁(公社含む)が代行する。決定時に事業の担当省庁と自治体の考えが一致しない場合に、地方自治省が代わりに決定する制度などもある。当然、住民の参加もあるが、地方の政治家の参加もオープンに扱われているようだ。

総じて言えば、計画検討途上の透明性が高いのである。計画や事業に対する関係機関の立場や賛否の相違が様々な文書で逐次公開されている。そうなると、行政の特定部局が全責任を抱え込んで、決定まで沈黙を守る姿勢などは取りにくい。関係機関の立場や見解が公開されているので、他団体からの圧力もオープンといえ、各々の全うすべき責任分担が社会で明確に理解される環境にあると思われる。そのため行政はオープンに胸を張って仕事を続けられるのだ。この点は我が国の未来を考える上でも大変重要である。

一方、計画づくりへの国民や市民の参加については、必ずしも活発ではない。だが、調査によれば、ノルウェー国民の政府に対する信頼は極めて高い。一般に透明性が高く政府への信頼が高い社会では、国民が自ら参加せずとも政府に任せておけるというのが、市民参加が活発でない理由であろう。ただし、同国の信頼は“法の支配”に対するものであって、政治家に対する信頼ではない。ノルウェー国民は政治家が変わっても、現在の民主体制は維持できると考えているのだ。その根拠は政府が常に要求される“透明性”の高さにあると思われる。

ノルウェー憲法100条の“表現の自由”は、1814年の制定時に宣言された非独立下の人民の権利である。日本と異なり憲法改正は頻繁に行われ、現在の100条では「国民が国の行政について率直な意見を述べる権利と国の行政情報にアクセスする権利とを有し、国は開かれた公論を促進する条件を整える義務を有する」旨が記されている。これが行政の極めて高い透明性の根拠であることは間違いないだろう。

最後にまとめよう。やはり透明性が大前提ということだ。国民は知らなければ協力もできないが、その点ノルウェーでは、計画の決定前からすべて公開されるので、行政は責任分担しつつ自分の仕事に専念できる。その結果、決定後の説明責任も聴く耳を持つ国民に対して全うできる。透明性が格段に高い環境をつくり、社会への参加意識や公共心の高い世代を育てることは、今後のわが国でも重要であろう。一朝一夕にはいかないが、まずは国民の安全な暮らしを支える国や地方のインフラ分野が、そのための予算を確保して“決める前の透明性”を抜本的に向上させるべきだ。それが未来の基盤づくりに繋がると考える。是非とも期待したい。

第201回論説・オピニオン(2024年2月)



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