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土木学会第111代会長 田中 茂義 会長就任挨拶

第111代土木学会会長に就任した田中茂義です。宜しくお願い申し上げます。

土木学会は『JSCE2020』において、安全・安心、国際、コミュニケーション、人材の4つの中期重点目標を策定し、様々な施策を展開してきました。

2020年以降の会長特別プロジェクトを振り返りますと、2020年度には家田仁会長の下、『日本のインフラの体力診断』を行い、道路、河川、港湾など日本のインフラが諸外国と比べて不十分であることを明らかにすることなどに取り組みました。

2021年度には谷口博昭会長の下、『コロナ後の土木のビッグピクチャー』を描き、国民の視点に立ち、より良い生活の基盤を形成すべく、インフラ整備の将来像についての提言がなされました。

2022年度には上田多門会長の下、『土木のグローバル化』をテーマに、我が国の土木技術の国際展開や、土木技術者や研究者がグローバルに活躍できるための人材育成などの課題解決についての提言がなされました。

これらの会長特別プロジェクトは、我が国における更なるインフラ整備の必要性やこれに対する土木技術者の役割の大切さ、国民のウェルビーイングに資する土木の貢献の大きさを再認識させるものであります。また、広範な分野で貢献できる土木の魅力とその未来像を描くとともに、我が国の土木技術者が内外で活躍できるような取り組みを推進するものでもありました。

これらに続く2023年度は私が委員長となって、『土木の魅力向上特別委員会』を立ち上げ、インフラ整備や災害対応、カーボンニュートラリティなど、幅広く社会的課題に貢献する土木の認知度向上と土木技術者の地位向上に取り組んでいくつもりです。皆様も感じておられると思いますが、土木の果たしてきた社会的役割に比し、土木に対する世の中の見方や評価は残念ながら我々が期待するものになっていません。様々な分野でいきいきと活躍している土木技術者の姿と土木の魅力を、我々自身が世の中に正しく発信する必要があると考えます。

具体的な活動としては、上記特別委員会の下に魅力ある土木の世界発信小委員会(松永昭吾委員長)土木技術者ステイタスアップ小委員会(今西肇委員長)を設置します。

前者では、土木の魅力を一般の人に理解してもらうコンセプトムービーの制作や、宣伝役となるアンバサダーの選定に着手します。また、これまでの代表的なプロジェクトや画期的な技術を後世に継承するための活動も展開していきます。黒部第四発電所や、青函トンネルのような過去の大規模プロジェクトを掘り起こし、再評価して語り次ぐとともに、アーカイブとして保存しいつでもアクセス可能なものとします。

後者では、地域建設業やメンテナンスの現場で活動する技術者など多様な領域で活躍する土木技術者に焦点を当て、様々な視点から土木の魅力や技術者の能力向上、技術の継承などの課題について取り組み、情報発信します。地域活性化や次世代育成がキーワードとなります。また、土木技術者のステイタスについて、保有すべき品格や卓越性、そしてステイタスを表すのにふさわしい名称についても考察する予定です。

これからの土木の目指すべきひとつの方向としては、『人がいきいきとする環境とレジリエントな社会の実現』と考えます。これは人口減少が国力の衰退につながらないような社会基盤づくりでもあります。

我々土木技術者には創造性、柔軟性、多様性が求められるとともに、基本的な資質として視野の広さや旺盛な好奇心が不可欠です。我が国の芸道の世界には「守破離(しゅはり)」という言葉がありますが、我々土木技術者も将来を見据え、その技術や伝統を進化させ、イノベーションを達成して新しい価値創造に邁進すべきでしょう。

皆様、宜しく御願い申し上げます。

2023年6月9日 土木学会令和5年度定時総会(通算第109回)にて



以下は、田中会長が論説委員時代に執筆した「論説・オピニオン」です。
ぜひあわせてお読みください。


国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/