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2024年の建設業に期待すること

阿部 友美
論説委員
株式会社奥村組東北支店土木部

一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ」と銘打ち、国を挙げて取り組む働き方改革。同一労働同一賃金の実現、長時間労働の是正、高齢者の就労促進を目指す。国土交通省では、建設業における働き方改革を加速させるため「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定した。

これには、長時間労働の是正、適正な給与の実現や社会保険加入の徹底、生産性向上への取組みとして新たな施策がパッケージ化されている。どれも重要な取組みだが、中でも「長時間労働の是正」は、最重要課題ではないかと思っている。これまで、建設業については36協定で定める時間外労働の上限の基準は適用除外とされていたが、2024年4月以降、上限が原則として月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができなくなる。長時間労働は個人の生活や健康だけでなく、出生率にも悪影響を及ぼすと考えられている。仕事の中核を担い、長時間労働となりがちな年齢と、出産・育児に関わる年齢とが重なるため、女性はキャリア中断や仕事と育児の両立への不安から出産に踏み切りにくく、男性も育児や家事への協力が難しいという状況になりやすい。長時間労働を是正し、仕事とともに私生活を充実させ、余暇を楽しむ余裕をつくることが、建設業界の魅力向上や入職者減少の歯止めにつながるだろう。

総務省統計によれば、全産業における就業者数は、2020年に減少へ転じたものの、女性や高齢者の労働参加が進んだことなどにより2019年まで7年連続で増加した。一方、建設業における就業者数は、ほぼ横ばいだった。今後、生産年齢人口が減少し、他産業との人材獲得競争が激化すると予想されており、高齢化が著しい建設業においては、若年入職者の確保が喫緊の課題である。現状、若い働き手が増えていないのは、建設業界の「古い働き方」が敬遠され、若者に「選ばれていない」結果と考える。

出典:令和2年版厚生労働白書

まったくの私事で恐縮だが、私にとって建設業界は、志を持って入った世界とは言い難い。地元公立高校を卒業後、地方公務員として勤務すること4年。知人を通じて、地元建設会社からオファーを受けた。会社を成長させたいという社長の熱意に打たれ、転職を決意。そこでは就業規則の改定やIT化の推進など、社内の環境整備に取り組んだ。工務の傍ら、現場へ出向いては実務を学び、現場代理人を経験。施工管理技士の資格を取得し、積算・入札、技術提案書作成やヒアリング対応など、さまざまな業務に従事した。とにかく、全てが面白かった。「これまで経験したことのない工種・工法に携わり、土木技術者としてもっと成長したい」。東日本大震災を経験し、地元建設業者として啓開業務や緊急工事に従事したことから、そんな意識が芽生えた。16年間お世話になった会社は、奥村組に新天地を求めた私を、快く送り出してくれた。奥村組入社後は、山岳トンネル工事の現場に配属となり、坑内における施工管理業務にも従事した。不思議なご縁を得て、土木の仕事に従事してから四半世紀が経過する。ダイバーシティという言葉が浸透・定着するより以前から、私を受け入れてくださった方々には、感謝しかない。

現在勤務している現場では、職員の男女比は6:4。夜間作業もあり、当然、私も夜勤に従事する。建設業の現場で女性が働くことは、珍しいことではなくなった。かつて現場運営における「快適職場」の事例とされていた女性専用のトイレや更衣室が整備された職場も増えてきている。

身をもって建設業の面白さを経験しているからこそ、若者にも建設業界に飛び込んできてほしい。そのためにはワークライフバランスを実現する柔軟な働き方が整備されていなければならないと考える。そこで、テレワークや遠隔臨場、遠隔施工などの取り組みにより働き方改革が推し進められ、長時間労働が是正されているであろう2024年の建設業にさらに期待することは、「選択的週休三日制」の導入である。1日10時間勤務を基本とし、週4日勤務する、という「選択肢」を設けることはいかがだろうか。休日が1日増えることで、単身赴任先から帰宅して家族と過ごす、趣味や旅行を楽しむ、自己研鑽に勤しむなど、多様な過ごし方が可能になる。2024年の建設業では、自らが選択できる働き方、意欲や魅力を感じる働き方がスタンダードになっていることを期待している。

土木学会 第175回 論説・オピニオン(2021年12月版)



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