複雑な問題の解決のために「総合的な力を発揮できる人と組織」をつくる
石井 一英
論説委員
北海道大学
1.環境分野の複雑性
将来の持続可能な社会のために、SDGsの達成、ネイチャーポジティブへの転換、そしてカーボンニュートラルの実現に向けた活動を加速化しなければならない。そして昨今のサーキュラーエコノミーに代表されるように、これら環境に関連する活動に投資を呼び込めるような仕組みづくりが求められている。すなわち、環境と経済、グローバルとローカルなど、一見相反する軸上に存在する複雑な問題の改善・解決に対処していく必要がある。
2.画一的なシステムから多様性へ
私の専門である廃棄物分野の歴史を一つの例として振り返ると、主に家庭から排出される一般廃棄物は、国土が狭く最終処分場の確保が困難なこと、そして衛生的適正処理の必要性から、各市町村においては、補助金制度も相まって焼却処理が主流となってきた。大都市から中小市町村まで、分別方法に多少の違いはあれど、一部の市町村を除いて、焼却中心の画一的なシステムが採用されてきた。しかしながら昨今は、市町村が管理するだけではなく、PFI手法を取り入れた民間企業とのパートナーシップや地域のNPO等の団体との協働による3Rの推進がみられるなど、ステークホルダーの広がりや多様な処理システムも見られるようになってきた。すなわち、多様な連携による多様なシステム構築が必要な局面を迎えている。他分野も同様の動きが見られよう。
3.トップダウンからボトムアップへ
地域コミュニティの集まりが市町村を形成し、都道府県を形成していると考える(地域コミュニティとは何かはあえて定義しない)と、持続可能な社会を達成するための主役は、地域コミュニティである。その地域に根ざした風土や文化などの地域特性を考慮した多様なシステムを、地域の人々が協働してボトムアップで創り上げる仕組みが今後は重要となろう。昨今の気候変動によると考えられる自然災害を考慮した安全な社会を築くための基準やルールの構築や刷新はある程度全国一律の考え方があって当然である。しかし、その安全の上に成り立つ安心できる多様な社会は、必ずしも国からのトップダウンだけではなく、地域コミュニティ自らがボトムアップで、しかも近隣のコミュニティと協力して築き上げるものであると思う。
4.仕事よりも人づくり
私は、様々な自治体の計画策定づくりに関与しているが、地方創生の文脈からは、まず仕事、人の流れ、子育て、地域づくりと続き、そして横断的な活動として多様な人材の活躍と新しい時代の流れへと続く。私が今回主張したいのは、地域に仕事をつくる前に、「人づくり」が大事であるという点だ。仕事が人を呼ぶのではなく、人が人を呼び、そして新しい仕事が生まれると考えるからだ。ゼロから人づくりをする必要はなく、地域には行政、民間企業、NPO、学識者だけではなく、退職されたシニア層、子育て中の母親世代、小中高生や大学生の中にも、将来のまちづくりに貢献したいと思っている人やすでに活動をしている人は必ずいるはずだ。そのような人たちをつないでネットワーク化し、その中のみんなが活動しやすいような場や機会、資金作りを考えることが、地域コミュニティづくりには重要であり、それが人づくりにつながる。
5.人や組織の総合力を高める
多くの市町村で頭を悩ませている地域脱炭素計画策定時の会議で、カーボンニュートラルのためにできることは何か?と一般市民に問うと、黙り込んでしまう。行政担当者であっても然りだ。そのような時には、その地域の社会課題を、どんなことでもよいから話してもらう。脱炭素に関係なくてもよい。その市民からの一言、あるいはNPOや民間企業の職員の一言こそが、ボトムアップのまちづくりにつながる。そのような一見すると脱炭素とは関係ない様々な声を集約し、総合的に解釈し、企画アイデアを練り、地域コミュニティの中でプロジェクトとして具現化し、そして、例えば脱炭素施策として落とし込めるような、分野横断・総合的な力を発揮できる人材、あるいはそのような機能を持つ組織が今求められているのではないか。地域で仕事をつくることも大事であるが、自分事として地域問題の解決にあたれるような人と組織をつくっていくことの方が、時間はかかるかもしれないが、実は早道であると確信している。
第196回論説・オピニオン(2023年9月)
国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/