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土木学会『論説・オピニオン』

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土木学会では、会員だけでなく広く一般社会に、土木に関わる多様な考え・判断を紹介し、議論を重ねる契機とすることを目的に、社会に対する土木技術者の責務として、社会基盤整備のあり方・重…
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地質リスクマネジメントと地質・地盤技術者の役割

田中 誠 依頼論説 (一社)全国地質調査業協会連合会 会長  土木学会が2022年9月に発表した「地盤の課題と可能性に関する声明」(以下、「声明」)においては、地盤がインフラ施設にとって地盤は構造物を支える基盤的存在としてその重要性が強調されている。これは全国地質調査業協会連合会(以下、全地連)が標榜する「地質調査はインフラのインフラ」というメッセージとも軌を一にする。 地質調査業界は、「地盤」を対象に調査・試験・解析などを業としており、インフラの整備・保全、防災・減災の

社会の変化に応じて進化する港湾

水谷 誠 論説委員 (一社)日本建設業連合会 近年、再生可能エネルギーとして洋上風力発電が大きく期待されている。政府は2020年に、「2030年までに10Gw、2040年までに30-45Gw」との導入目標を設定し、導入を促進する海域を選定中である。港湾においても、港湾区域内の水域に洋上風力発電設備(風車等)を設置するための長期間の水域占用許可制度を創設したり、洋上風力発電設備の設置や維持管理のための基地港湾を指定して公共埠頭を事業者に貸付ける制度を創設したりするなど、洋上風

名古屋大学の国際環境人材育成プログラム

永石 雅史 論説委員 名古屋大学 工学研究科 環境土木国際室 教授 名古屋大学工学研究科の土木工学専攻と環境学研究科の都市環境学専攻に横断的に設置されている「国際環境人材育成プログラム(Nagoya University Global Environmental Leaders Program: NUGELP) は修士課程のプログラムで、2009年から学生を受け入れ、2021年度で13年目を迎えた。すでに多くの修了生を輩出し、2021年10月入学までの実績では、33ヵ国28

ダイバーシティ&インクルージョンについて ~働き方の動向を交えて~

田中 茂義 論説委員 大成建設 ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&Iと略す)はいまや社会倫理として定着しつつあり、職場や家庭はもちろんのこと社会全体が取り組むべき規範として流布している。企業においては昨今の担い手不足、価値観の多様化、グローバル化による競争の激化等に対応すべく多様な人材が活躍できる働き方を模索し、生産性の向上やイノベーションにつなげようとする動きがある。D&Iとは外面および内面の多様な属性(D)を受け入れ尊重し活かしていくこと(I)であるが、D&I

D&Iを支える都市インフラとは?

太田雅文 論説委員 (株)東急総合研究所  ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)は、「誰一人取り残さない」ことを基本的理念とするSDGsの根幹であり、都市づくりに欠かせない理念となっている。多様性を受け入れる社会とはいかにあるべきか、例えば駅のバリアフリー一つを見ると、当初は車椅子経路が1ルート確保されていればいい、という認識であったが、今は健常者と同等の利便性を確保すべく、2つの離れた改札口があるとか、幹線道路を跨ぐとかのケースでは複数ルート確保が当たり前、と事業者の

社会インフラ整備・運営における価値創造の加速

上田 康浩 論説委員 前田建設工業 日本の社会インフラの整備・運営には、その老朽化、自然災害の激甚化、利用人口の減少、担い手不足、整備予算の削減などの課題への対応が進められている。またカーボンニュートラルや感染症対策などの新たな社会課題も顕在化し、複雑化・不確実化する社会の中で、インフラサービスのイノベーションが求められている。 この動きは世界の潮流であり、ベンチャー企業だけでなく、大企業を含めたイノベーションを起こすことの重要性が問われてきており、2019年に国際標準化

大学における教育のDX化

吉田 秀典 論説委員 香川大学 文部科学省は2021年11月19日、大学等における2021年度(令和3年度)後期の授業の実施方針等に関する調査および学生への支援状況・学生の修学状況等に関する調査結果について公表した。本調査は、各大学等における令和3年度後期の授業の実施方針等を把握することを目的とし、全国の国公私立大学(短期大学を含む)および高等専門学校を調査対象とした。2021年10月7日の調査実施時点で、「全面対面」と答えたのが全体の36.4%、「ほとんど対面」が28.9

2024年の建設業に期待すること

阿部 友美 論説委員 株式会社奥村組東北支店土木部 「一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ」と銘打ち、国を挙げて取り組む働き方改革。同一労働同一賃金の実現、長時間労働の是正、高齢者の就労促進を目指す。国土交通省では、建設業における働き方改革を加速させるため「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定した。 これには、長時間労働の是正、適正な給与の実現や社会保険加入の徹底、生産性向上への取組みとして新たな施策がパッケージ化されている。どれも重要な取組みだが、中でも「長時

「スマートシティ」について考えてみよう

中野信悟 論説委員 パシフィックコンサルタンツ株式会社 はじめに本年、4月、内閣府から「スマートシティガイドブック」が示され、政府方針「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針2021)」では、スマートシティを2025年度までに100地域構築する目標が示された。今更ではあるが、スマートシティとは、デジタル化や、AI、IoTをはじめとする技術開発が急速に進展する中、これらをまちの課題解決に取り入れ、市民生活の質、都市活動の効率性の向上を図る取り組み、またはその都市のことをさす。

モネたちの復興

羽藤 英二 論説委員 東京大学 教授 東京五輪が2021年8月に開催された。復興五輪が謳われていたが、現実にはCOVID-19の蔓延とともに、ただでさえ困難な東京開催の軌道修正が何度も繰り返された結果、東北のいくつかの会場での大会が開催されたに留まり、祝祭によって復興10年を迎えることが出来たとは言い難く、分断をむしろ強めた大会と言えなくもない。「格差をなくすために土木はある」は東京大学名誉教授の中村英夫先生の言葉だが、改めてこの言葉の意味を考えさせられる。 東北復興は、

現場第一線に携わる土木技術者としてのインフラDXに対する心構え

伊藤 正秀 論説委員 (一財)土木研究センター理事長 インフラを含め、世の中はDX(デジタルトランスフォーメーション)ブームである。「データとデジタル技術を駆使して公共サービスや働き方改革を実現する」ことに疑問の余地は全くない。既に大規模施工やオンライン申請ではDXの実装が進んでいる。一方、私が関わってきた分野の技術開発では、担当者が当惑する姿を何度も見てきた。ブームの陰で何が起きているのか、どう乗り越えていったらよいのか、体験談と私見を述べてみたい。 混乱は大別すると2

テレワーク環境におけるコンプライアンス・技術者倫理について

秋葉 努 論説委員 株式会社 建設技術研究所 取締役常務執行役員 弊社は、IT環境整備を進め、生産性を向上させる目的で部分的にテレワークを推進していた。しかし、COVID-19のパンデミックによる緊急事態宣言を受け、多くの社員が在宅テレワークに強制的に移行せざるを得ない状況となった。 弊社の場合、パンデミック下の2020年3月以降の2年間に入社した社員は、会社の雰囲気、先輩たちの議論の内容を自席で直接感じとる機会が少ない中で、業務を遂行している。技術の内容や作業手順などは

高速道路は無料公開原則の適用対象か?

中田 勉 依頼論説 元・ハイウェイ・トール・システム株式会社 監査役 誰もが道路を無償で自由に利用できるという道路無料公開の原則は、わが国の道路政策の根幹であり、すべての道路に適用されている。ここから次のような課題が生じている。 まず、高速道路を取り上げよう。現行のルール(「償還主義」という。)ではこの建設資金が償還された後は、原則に戻って一般予算で管理されることになる。平たく言えば、タダになるということである。しかし、キロ当たり単価で一般道路の約3倍と言われる高速道路の

究極の危機管理と流域治水

山田 正 論説委員会委員長 中央大学 わたしはこのコロナ渦と言われる1年半、テレビ、新聞等の従来型メディア(以降、メディアという)を通じた情報ではなく、インターネットを介して専門家が配信する各種のブログやYouTube等から新型コロナの情報を得るようにしてきました。なぜなら、日本の多くのメディアから発信される情報はデータサイエンスとしてあまりにも稚拙であると感じているからです。そして、人の生死に関わる情報でありながらメディアによる扇情的な情報操作に繋がっているのではないかと