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社会の変化に応じて進化する港湾

水谷 誠
論説委員
(一社)日本建設業連合会

近年、再生可能エネルギーとして洋上風力発電が大きく期待されている。政府は2020年に、「2030年までに10Gw、2040年までに30-45Gw」との導入目標を設定し、導入を促進する海域を選定中である。港湾においても、港湾区域内の水域に洋上風力発電設備(風車等)を設置するための長期間の水域占用許可制度を創設したり、洋上風力発電設備の設置や維持管理のための基地港湾を指定して公共埠頭を事業者に貸付ける制度を創設したりするなど、洋上風力発電の普及促進に全面的に協力している。すでに秋田港、能代港の港湾区域内で風車の設置工事が始まっているほか、基地港湾も全国で4港が指定されている。

港湾は海陸輸送の結節点として物流を支えるインフラであるが、他方、広大な空間をうまく活用して社会の様々なニーズに応えることも可能であり、洋上風力発電もその好事例の一つといえる。

歴史を振り返ってみると、港湾は、時代のニーズに応えながら様々な機能を発揮してきた。戦前には、工場を港湾に立地させることにより輸出入に係る陸上輸送コストを圧倒的に削減できる工業港の概念が提唱され、戦後、港湾内に臨海工業地帯が盛んに造成された。この開発方針は1960年代の新産業都市や工業整備特別地域の建設にも用いられ、日本の高度経済成長を牽引するとともに、現在も日本の主要な工業地域を形成している。

1970年代になると環境問題がクローズアップされ、増大する廃棄物の処分が大きな社会問題となった。これを受け、港湾内に廃棄物を受け入れて処分する制度が創設された。具体的には、港湾の水域の一部を護岸で取り囲んでその中に廃棄物を投入し、将来は土地として活用するという制度である。これまでに80港以上の港湾で廃棄物処分場が造成され、全国で発生する一般廃棄物の約1/4が港湾で処分されているといわれている。

1980年代になると、一般の人々を港湾に呼び込んで賑わいの拠点を形成しようという動きが始まり、古くて狭い内港地区の再生ニーズと相まって、全国的にウォーターフロントブームが起こった。横浜港の横浜みなとみらい21、神戸港のメリケンパーク、大阪港の天保山ハーバービレッジ、小樽港の小樽運河、函館港の赤レンガ倉庫群、北九州港の門司港レトロなど、現在でも賑わいと交流の拠点として街を支えている地区が全国の港湾で形成された。

今後はどのように変わっていくであろうか。

冒頭の洋上風力発電もその一つであるが、日本を含め、世界は脱炭素化に舵を切った。今後、あらゆる分野で、あらゆる場所で、スピード感を持って脱炭素化を推進していくことが求められるであろう。

日本全国で発生する二酸化炭素の約6割が電力、産業からであり、その多くが港湾を含む臨海部に立地している。このため、港湾地域においていち早く脱炭素化を進めるべく、2021年より全国の港湾でカーボンニュートラルポート(CNP)の検討が開始されている。埠頭での様々な活動における脱炭素化(例えば、荷役機械や車両の燃料電池化・電動化、停泊している船舶への陸上電力供給等)の他にも、臨海部に立地している工場や発電所等での生産活動における脱炭素化、水素や燃料アンモニア等の輸入・配分のための基地の設置等、脱炭素化にはさまざまなメニューがある。冒頭の洋上風力発電による電力を港湾で利用することも考えられよう。どのような方法で脱炭素化を進めるかはそれぞれの地域や港湾の事情によってくるし、それにより港湾の活用の仕方も異なってくる。具体的な検討はこれからであるが、各港湾においてカーボンニュートラルポート(CNP)形成計画として取り纏めることとされているため、議論の推移を注視したい。脱炭素化は官民挙げての取組であり、また多くの技術開発を伴う。幅広い分野の若手技術者も大いに議論に参画してもらいたいと思う。

これまでも港湾は、交通結節点として、またそれ以外の機能も発揮しながら社会に貢献してきた。今後も引き続き、変化する経済社会環境に応じ、様々な要請を積極的に受け入れて新たな価値を生み出していくよう、各地域で関係者による活発な議論を期待する。

土木学会 第178回 論説・オピニオン(2022年3月版)


#港湾 #洋上風力発電 #脱炭素化 #地域経済

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