ありたい未来の育て方~未来洞察授業@2024.5.8灘高等学校〜
こんにちは、藤本です。
本記事では、2024年5月8日に兵庫県の灘高等学校で実施した特別授業「実践!Futures Literacy~「ありたい未来」の育て方~」をふりかえります。
1.授業の背景
授業の背景としては、大学受験を控える同校の高校生に、受験後の未来の見据え方を体験してもらう一手段として、未来洞察ワークショップを活用できないか、と検討したことにあります。
受験校や専攻、その先の職業選択は悩ましいもの。
ワークショップを通じて、生徒の方々にとって「自分のもう1つ の未来(代替的未来)を模索するための、新たな情報の扉が開かれること」を目指しました。
授業は同校池田教諭ご協力のもと、ゴールデンウィークに終わった文化祭の興奮冷めやらない高校3年生文系クラスにて、「社会講義」2コマ分を使い、3部構成で行いました。
2.授業の流れ
プログラムは、未来洞察のフォーマットである、企業・業界にとっての「未来イシュー」と「社会変化仮説」を検討し、その交点で強制発想を行い「機会領域」を検討する過程を、個人単位に落とし込む形で進めました。
第1に、「わたし探求」を行いました。(通常の未来洞察ワークショップの「未来イシュー」パートにあたります)。
生徒たちに、事前に作成してもらった「偏愛マップ」を、共有してもらいます。
ペアを組んで、各々が好きなスポーツや映画や哲学書(!)、トイレ(!!)……など、好きなものを紹介してもらいました。
そのうえで、互いにフィードバックを行い、お互いの「好き」がどんな向きをしているかを抽象化し、「好きベクトル」カードに言語化してもらいました。
第2に、「ありうる社会探索」を行いました。(通常の未来洞察ワークショップの「社会変化仮説」パートにあたります)。
先ほどのペアで、未来デザイン・ラボが、2045年の社会像を想定して作成した5枚の社会変化カード(ありうる社会カード)を眺めてもらいます。
「ありうる社会」としては「①魂の住み処が四次元になる」「②『擬態』が常態化する」「③挫折体験を売買する」「④夢の中で能動的にふるまう」「⑤視聴覚を介さず意思疎通する」の各シナリオを提供しました。
そのうえで、各カードを「こんな未来になったらいいな(GOOD)⇔こんな未来になったらいやだな(BAD)」、「こんな未来を聞いたことがある(想定内)⇔こんな未来ははじめて聞いた(想定外)」の2軸からなるマトリクスに配置してもらいます。
マトリクスへの配置を通じ、「はじめて聞いた(想定外)」未来の中から、「なったらいい未来(GOOD)」と、「なったらいやな未来(BAD)」にあてはまる未来カードを、チョイスしてもらいます。
第3に、「してるかも発想」と題して、第1段階で作った「好きベクトルカード」と、第2段階で選定した「はじめて聞いた、なったらいい未来」「はじめて 聞いた、なったらいやな未来」の交点で何が起きうるか、個人作業でアイディエーションを行いました。(通常の未来洞察ワークショップの「強制発想」パートにあたります)。
良い未来も、悪い未来も、自分のコントロールの範囲外で起きえます。
そんな幅のある未来に対して、過度に楽観することも悲観することもせず、どう対応するか、どんな未来を作っていくか、を考えてもらいました。
最終的には、ワクワクするアイデアを1つ選んで、「職業名」として表現してもらいました。
すなわち、「自分の好き」を、「思ってもいなかった未来」という文脈の中で表現するとどんな職業として立ち上がるか、発想してもらった格好となります。
結果として、「あなたの死後の情報を届けます教祖」「挫折系作家」「話芸の面白さを伝える人」「夢プランナー」「プロスリーパー」など、少し線形の未来からは外れた職業の名前が生徒から編み出されたところで、チャイムが鳴りました。
3.おわりに
思春期において自己に向き合い、開示することは容易ではないですが、今回のようなワークが自己と世界の理解につながれば望ましいと考えています。
キャリア教育はともすれば既存の職業、専攻のうち、どのルートを選ぶか、を手助けする作業になります(当然とも言えます)。
しかし、教育を受ける生徒が社会に出るころにはテクノロジーの進歩やプラットフォームの登場とともに新たな職業が生まれているかもしれません。なりたい職業ランキングで上位常連のYouTuberはそんな職業の1つですし、ここ数カ月世間を賑わせている「インプレゾンビ」も(褒められたものではないですが)「新たな職業」でしょう。
現状存在しない職種、職業を構想することは、学生に限らず、すでにある程度キャリアを積んだ人々にとってもきっと有用だと信じています。
生徒の方々からは、授業後に「自分の人生の候補が1つ増えた」「自分のなりたい職業が見つけられた」という声や、「自由度が高すぎて難しい面もあった」「好きなことに合わせて考えると(想像できる将来が)狭まるのでは」といった声を頂戴しました。
もう1つの未来を模索してもらう、という目的は部分的に達成できたかもしれませんが、アプローチはより洗練させる余地があったように思われます。
私自身は、官僚にならねばならない、そのためには死ぬ気で勉強しなければいけない、と自縄自縛だった自分の高校時代を思い出し、未来洞察に触れていれば少しは肩の力が抜けていたかもしれない、と感じました。
未来洞察は万人への処方箋にはならないかもしれないですが、少しでも自由になるきっかけを提供するツールとして活用できないか、と考える日々です。
本記事で少しでも未来洞察や未来デザイン・ラボに興味を持たれた方は、日本総研公式サイトに訪ねていただければ幸いです。
この記事を書いた人 藤本一輝
繁華街の路地裏や川沿いを散歩しながらああでもないと考えを巡らせるのが好き。属性を問わずいろいろな人と交流するのも好きです。
関心…考現学/エスニック料理/国内サッカー/モードファッション/路線バス/文化論
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