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いつかサンタクロースになるきみへ #2021クリスマスアドベントカレンダーをつくろう

サンタさんっているのかな。

聞かれたのではなく、聞いてみたいんだ。
いつの日か息子に。

***

「ママ、去年のことは気にしないでくださいって英語でどう書けばいいの?」

去年?

そうだった。Switchの抽選に外れて、リクエスト通りのプレゼントを渡せなかったクリスマス。苦し紛れに手紙を準備した夜を思い出す。


息子がサンタクロースにお願いしたのはキャラクターケース付きのスペシャルなSwitchだった。小3へのプレゼントには高価すぎるかと悩んだけれど、結局 贈ることに決めたのは、私が罪悪感を抱えていたからだと思う。

友達が家族で旅行する夏休みも、バーベキューに行く連休も、大抵 私たちは家にいた。スキーもディズニーも息子の記憶に残る前の数回だけ。物心ついてからは、それこそ学校の作文に書けるようなレジャーは皆無。せめてもと、習い事のキャンプに参加させたり、いとこや友達と日帰りで出かけたりはしたけれど、やっぱりそれは普段の延長で、非日常感を味わわせてあげられないことがいつも心に引っかかっていた。

「ぼくも、おみやげを渡してみたいな」友達からもらったシャチ型のクッキーを食べながら、何気なく発した息子の一言に、最悪のリアクションをしたことがある。当時7歳だった息子の前で私は動揺し、思わず謝ってしまったのだ。申し訳なさそうにする私を見て、母を責めてしまったと思ったのだろう。それから、どこかに出かけたいと言わなくなった。

それでもゲーム機は安直すぎるのでは、と言われるかもしれない。でも、Switchが欲しくて勉強やサッカーを頑張っていたのは知っていたし、そもそも「サンタさんきっと見てるね」なんて盛り上げたのは私なのだ。年に一度のクリスマス、願いを叶えてあげたかった。それが親バカだと言われるなら仕方がない。

Switchは定価でも十分 高価だ。それなのにクリスマス前に品薄になるから、ネット価格はぐんぐん高騰、ますます手が届かなくなる。

祈る気持ちで応募した いくつかの抽選にはすべて外れてしまった。もうあきらめて、値上がりした商品を買ってしまおうか。日が迫るにつれ、冷静な判断ができなくなっていく。LINEが届いたのはそんな時だった。

「すぐ見て、ここ!」

知人が送ってくれたURL。開いてみると、良心的な価格で数台のSwitchが売られていた。

残り5台、4台…更新するたびに表示が変わっていく。

今を逃したら次はないかもしれない。この店なら安心だ。

画面を凝視したまま考える。


でも…

コントローラーの色が違う。キャラクターケース付きじゃない。


迷っているうちに残りは3台。


サンタが間違えるなんて。


でも…

やっぱり…

今だよね。


ほぼ答えの出ている自問のあと、えいっと購入ボタンを押した。手続きを済ませたあと、元の画面に戻るとSwitchは完売していた。

買っちゃった。

入手できた高揚感 半分、オーダーと違うことへの不安 半分。

今まで、希望以外のプレゼントを届けたことはない。サンタに全幅の信頼を寄せている息子を失望させることだけはどうしても避けたかった。

考えた末、私はプレゼントの袋に手紙を入れた。

長文は危険だから、一言だけ。

sorry


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クリスマスの朝、いつもより早く目覚めた息子はそっとリビングに入り、静かに部屋を見回していた。目につく所にプレゼントはない。不安そうな顔のまま数秒、そして何かに気づいて走り出した。向かった先は窓際のツリー。そうそう、その調子。こっそり追いかけてスマホを向ける。

リボンのついた紙袋を見つけると、中身を覗き込んで、振り返る。息子はこういう時、大声をあげない。喜びをゆっくり噛み締める。瞳を輝かせ、プレゼントをぎゅっと抱きかかえてニコニコ笑う姿を私は撮り続けた。

そのままソファまで荷物を運ぶと、ゲーム機の大きな箱を取り出した。あっ、待って、その紙、横によけたそれ、何か書いてあるでしょ。心の中で叫んだけれど届かない。

箱を裏返して説明を読む。読めない漢字だらけなのにずっと眺めている。やっと箱からSwitchを取り出したところで、そういえばと横に置いた紙を手にした。コピー用紙に文字が印字された味気ない手紙。息子は首をかしげている。

口を開くまでに30秒はかかっただろうか。

「なんであやまるの?」

そしてまた沈黙。


「………もしかしてマリオのじゃないから?」

そうだよ。赤いのじゃなくてごめん。


息子は膝からプレゼントを下ろし、ソファから飛び降りると窓に駆け寄った。

「ぜんぜん、いいのに。いいのに。
 ありがとう、サンタさん。」

空を見上げてつぶやく息子。

一瞬で画面がグニャグニャになった。


この時の動画は私の宝物だ。つたない自分の子育ても何かにつながっている、そう思わせてくれた嬉しい出来事だった。


それから一年経って。
息子はちゃんと覚えていた。去年の冬、サンタさんが謝ってくれたことを。


*

「気にしないでください、か。ノープロブレムとか使うのかなぁ。ごめん、ママ英語得意じゃないんだ」

「じゃぁグーグルさんに聞いてみる?」

翻訳ソフトのことか…確かにそれもいいけど。

あっ。いい考えがある。


「そうだ、トムに聞いてみれば?」

「えっ…トムならわかると思うけど…ぼく聞けないよ」

トムは英語スクールの講師だ。日本語はわかるけれど話せない。日本人講師のアツミさんと一緒にレッスンをしている。

「大丈夫、ママも一緒だしアツミもいるから。ねっ、次のレッスンで聞いてみようよ」

不安そうな息子を説得した翌日、こっそりアツミに会いに行った。事情を聞いたアツミはぜひ協力したいと言ってくれ、トムへの伝言も引き受けてくれた。

当日、意を決した息子はトムとアツミに話しかけた。小4といえば、学校で “サンタクロースいる いない論争“ が起きている頃。もともと恥ずかしがり屋なところにそんな背景も重なってか、数日前から息子は講師たちに相談するのを嫌がりはじめていた。困ったなぁと思っていたけれど、心配は杞憂に終わった。

トムはレッスン中にサンタクロースの話をしてくれたそうだ。フィンランドで働く彼らのことを外人講師が生徒の前で話したという事実は息子の迷いを晴らしてくれた。レッスンのあと、教えてもらった短い英文をノートに書き留め、息子はほっとした様子で帰宅した。


…あれ?

困ってしまったのはそのあとだっだ。プレゼントを届けたら、慣れない英字の手紙が置いてあった。サンタクロースはどうする?

言葉を残すよね?


小さな嘘が気づいたらおおごとになっていた、なんてよく聞くけれど、“サンタお手紙問題“ はまさにそれだった。でもやめるわけにはいかない。

そうだ、国際結婚した友人がアメリカにいる。早速メッセージを送ると、彼女は翌朝、パートナーが考えてくれた英文を送ってくれた。

Thank you for your letter and for understanding that sometimes even with all my elves help I can‘t make your wishes come true.
Mr.C
お手紙ありがとう。エルフ全員に手伝ってもらっても、キミの願いを叶えてあげられないこともあるって、わかってくれてありがとう。
サンタより


エルフか!サンタを手伝う妖精が登場するなんて私には絶対、思いつかない。これなら大丈夫だ。手書きフォントで出力した文章を下敷きにしてペンでなぞり、amazonから呼び寄せたエルフに持たせてプレゼントに添えた。

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「ママー!サンタさんだ。お返事きてる」
翌朝、声を弾ませて報告に来た息子と、意味を調べながら手紙を読んだ。

「でもさ、なんでMr.Cなんだろうね」

ああ、それはサンタさんがクロースって名前だからだよと言おうとした時、

「クリフさんとか?」と息子が先に納得した。


*

サンタさん、どうやって入ってくるんだろう、の質問は「Mr.インクレディブルのママみたいに体が伸びて隙間から入るっていうのは?」と逆質問で回避し、周りを巻き込んで壮大なサンタクロース劇場を演じた私だったけれど、翌年はサンタクロースの話を避けていた。小5男子に面と向かって嘘をつくのが苦しくなってしまったのだ。でも息子は疑う様子もなく、私がやってみたいと口を滑らせた体幹トレーニングゲームをサンタに頼んでくれた。

また翌年。ひと足先にサンタを卒業し、共犯として盛り上げてくれた姪も、さすがに今年は無理でしょ、とお手伝いを辞退。小学校終了のタイミングでサンタも卒業か、と しんみり思っていた12月中旬のこと…

「どうかな、まだ間に合うかな」

動揺を隠してゆっくり返す。

「あと1週間だから微妙だよね。とりあえず急いでみたら?」


え?なに? まさかまだ続いているのだろうか。様子をうかがっていると、息子は折り紙にささっと英文を書き、外から読めるように窓に貼り付けた。昔から続けているサンタクロースとの交信方法だ。幼稚園の時はひらがなで。姪が隣に解説文を貼り付けてくれた年もある。やがてカタカナ、漢字が混ざり、すべてが英語に変わった。

今年は赤か。窓にくっついた小さな正方形を眺めながら、混乱する脳内を整理する。

ねえ、何を思ってるの?


考えて考えて、私が出した答えがこれだ。

世の中にはサンタクロースという職業がある。その “サンタ組織” には何かの補助金が出ていて、親は登録するとサービスを使える。もしかしたら上限金額は決まっていて、不足分は親が払うのかもしれないけど、とにかく高額商品でも安く買えるシステムがあるようだ。
ママはそれを利用している。でなければSwitchを買えるはずがなかったから。時々、ぼくのお小遣いを貸してくれっていうくらいだし。だからママの欲しがっていた“リングフィットアドベンチャー“も頼んであげた。今年はみんなで遊ぶゲームソフトにしようと思ってたけど遅くなっちゃったからどうかな… でもママのことだからきっと大急ぎで発注してくれるだろう。

息子は幼い方だけれど、夢見がちでも 空想好きでもない。かなりの現実主義。そして嘘は得意ではない、と思う。

サンタさんが直接プレゼントを届けてくれるのは嘘だとわかった。でもサンタクロースはいる。それもたくさん。だって、ちゃんとした組織なのだから。

今思えば、「クリフさん」と言った時からそう思い始めていたのかもしれない。ぼくの担当はクリフさん。ともあれ息子は無事、パーティゲームのソフトを手に入れた。


***

少しずつ小さくなっていくシュトーレンは、最後の一切れまで心がゆっくりついていく。もうすぐその日がくるのだと安心して楽しめる。けれど私がサンタを終える日は、うっすらとした予感を抱えたまま何年も宙ぶらりんだった。目を逸らし続けていたそれが、ついに今年 訪れてしまう。

先日、私の妹が息子に、今年はサンタに何を頼むの?と聞いたそうだ。仲良しの叔母の質問に息子はうつむいたまま答えたらしい。

「ぼく、サンタはもういいや」

“サンタ組織”では、つじつまがあわなくなったようだ。


きっとこれが正しい成長で、私たち親子にとっては最適な卒業だったのだと思う。本当はサンタってさ、なんて問い詰められたら私はまた謝ってしまうから。それを知っている息子は、幸せな嘘をそっと心に閉じ込めてくれた。

かなわないな。

サンタさんの体は伸びると思ってた?
エルフが持ってたあの返事、信じてた?
毎年、ちゃんと楽しかった?

聞いてみたいことはたくさんある。

でもひとつだけにするから。
もう少し大きくなったら聞いてもいいよね。


「サンタさんっているのかな」


もし返事がイエスなら、ちゃんと伝えたい。

「サンタはね、プレゼントを届けた分だけ幸せをもらえるんだよ。」



いつかサンタクロースになるきみへ

今まで本当にありがとう。

With love from Santa Claus



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こちらの企画に参加させていただきました。


七海さん、今年も素敵な企画をありがとうございます。書き上げられるか不安でなかなか手を挙げられずにいましたが、七海さんのもとに集まっていくみなさんを見ているうちに、どうしても仲間に入りたくなってしまいました。お忙しい中 取りまとめいただき、大変 感謝しています。

クリスマスの過ごし方は人によって、そして時間の経過によっても変わるもの。私自身、信じられないくらい幸せなクリスマスも、涙も出ないくらい苦しいクリスマスもありましたが、どんな時間も大事に抱えて次に行けたらいいのかもしれないと今は思います。

今年、サンタクロースを卒業した私たち親子、来年からは新しいクリスマスの楽しみ方を見つけていきたいです。長文を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

では、バトンをsiv@xxxxさんへ。大好きな書き手さんです。楽しみだなぁ。



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