音のない子守唄 愛情はさわれる(6)

先日、電車に乗っていたら向かいの座席でおかあさんに抱かれた小さな子が大きな声で泣いていました。小さい子が泣くのには何か理由があるのだろうな、と思っていましたが、かなり大きな声で泣き続けるので、イヤホンから流れる本の朗読の声も聴いているのが難しくなりました。
私は音声での読書を中断し、向かいの席のその子に愛情の質感を送ってみることにしました。
私のまわりには犬はいますが、小さな子はいません。
犬の場合は少し離れたところからでも私の愛情の質感を感じると気持ちよさそうにため息をついてリラックスします。小さな子も愛情の質感を感じたらちょっとリラックスして泣き止んでくれるかも、と思ったのでした。

人は誰でも動物や人に愛情を感じたり、何かに感謝したりするなど、ポジティブな感情を持つと身体からポジティブなエネルギーのようなものを発します。
これは動物が元々備えている性質のようなもので、おそらく誰でもこのエネルギーのようなものを発しています。
この身体から発しているものは、いわゆる「気」とか「生命エネルギー」とか「波動」などと呼ばれるものです。
これを読んで「あやしい」と思った人は自分の世界にこれらを感じる感覚情報を含んでいない人です。逆に「自分も感じる」とか「なんとなくわかる」と思った人は自分の世界にそれを感じる感覚情報を含んでいる人です。
どちらかが正しい、ということはありません。どちらも正しく、単に自分の世界の感覚情報の編集のパターンが異なっているだけです。
人が自分で見ている世界というのは、実際には画一的なものではなくかなり多様性があるものです。

そして人はたいてい自分が感覚で感じないものを信じようとはしません。感じない、というのはその人の見ている世界にその感覚情報が含まれていないことを示しています。その人の見ている世界というのは、自分で取捨選択した感覚情報でできているからです。
なので、人は世界の編集のパターンが違う相手の世界の感じ方に共感することができません。

現代では、視覚を中心とする感覚情報で世界を編集し、愛情の質感を感じる感覚情報を自分の世界に含んでいない人の割合が多数派をしめています。なので、愛情の質感が自分の世界には感じられない多数派の世界が「常識」となっています。その人たちにとって、人や動物が身体から発する愛情のエネルギーのようなものは(自分たちの)世界に存在しないからです。

逆に愛情の質感を感じる人が多数派である社会を考えることもできます。
それはおそらく「言葉」でのコミュニケーションがそれほど重要でなくなり、動植物など自然に属する存在と人との関係が今より近い社会になると思います。

私は一緒に住む犬にやる時と同じように、その子の声がする方向愛情のエネルギーを送りました。

感覚的には私の胸のあたりから帯状の温かいエネルギーが子どものほうに流れていくのを感じました。もし子どもが愛情の質感を感じていたら、おそらく身体がふわっと温かくなり、陽だまりの中にいるような心地よさを感じるはずです。やがて私の身体のまわりも温かくなってきました。

でも、子どもはなかなか泣き止む気配がありません。私は、やはり見ず知らずの人が送るのではあまり効果がないのかな、と思いました。

ところが、やがて子どもの泣き声が微妙に変化したのに気づきました。そして次の停車駅に着いた後は、子どもの泣き声が聞えなくなっていました。

私は目で確認することができないので、もしかしたらいつのまにかあの親子連れはさっきの駅で降りてしまったのかも、と思いました。

しばらくすると、向かいの席から、さきほどの子どもが小さく何かをつぶやく声が聞えてきました。もう泣き声ではなく、ふつうに何かをつぶやく声でした。

泣いていたその子は、いつのまにか身体のまわりが陽だまりのようにふんわり心地よくなるのを感じて、泣くのをやめたのかもしれません。

もちろん、私がやったことが子どもが泣き止んだことにつながったかどうかを証明することはできません。でも、犬が愛情の質感を感じた時の変化とよく似ていたので、きっと子どもが愛情の質感を感じて泣き止んでくれたのだろうな、と思いました。

人は、誰でも愛情の質感を送ることができます。
日常生活の中で、多くのおかあさんは自分で意識せずに子どもに愛情を送っています。

でも、この感覚を自分で感じることができれば、例えば子どもが泣いている時に、子守唄を歌うみたいに自分が愛情の質感を送って子どもを泣き止ますこともできます。
それはおそらく、言葉を使わない動物たちが今でも普通にやっているコミュニケーションです。

この、言葉を使うようになった人間が忘れかけているささやかなコミュニケーションが、子育て中の親御さんとか、ペットと暮らす人が、日常生活で当たり前に行なうようになったら良いと私は思います。
そうすれば、いろんな場所でお互いの愛情の質感を感じ合って、陽だまりの中にいるみたいな温かさに包まれて笑顔になる小さな子や動物がもっと増えると思うからです。

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