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嗚呼、小虫よ

 弱くてもろくて汚くて黒い。美しさを装うために、色んなモノをベトりと塗りたくる。それだけでは物足りないのか、床に堕ちた屑を傷だらけの手で拾い集め、上からかぶった。偽像の光沢は羽のかけた小虫を引き寄せ、もはや、光るものなら何でもいいと言っているようだった。そんな小さき者を振り払うことはなく、ゆっくりと進み始める。歩く度に屑はハラハラと散り、足の裏にまとわりつく感覚が何とも鬱陶しい。いつの間にか、装飾の光沢はみんな消えてしまっていた。あの小虫もいなかった。一瞬立ち止まりそうになったが、気にせず歩き続ける。どこに向かっているのか分からなかった。何をしているのか理解していなかった。だけど、進むしかないことだけは知っていた。引き返せないと悟っていた。周りに道はなく、何も無い黒色がひたすらに続いている。

「もう何も見ることはできないのだな。」

そう言い、ゆっくりと目を閉じた。

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