![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/136225448/rectangle_large_type_2_bcdae2372c0e549cc6f764722e8f581d.png?width=1200)
ココロ(1)
あらすじ
西暦二〇七九年。
娼館で働くセックスアンドロイドのQは、人間のこころ、人間とは何かに興味をもっていた。
Qたち、アンドロイドは、100分の1ミリの小さなボットが結合している。
このボット、アンドロイドをつくった男は、自分がつくったQが気に入っていた。
男は、Qの望みを叶えるため、Qに人間のこころをつくろうとし、それは成功する。こころをもったQは、魅力的になった。
このころ、人間は、アンドロイドとしかセックスしなくなった。そのため、子供が生まれなくなり、人類は絶滅の危機にあった。
Qは、祈りによって、地球外の知的生命体と通じ合う。彼らは、人間とよく似ている。しかし、地球人よりも洗練されていた。むしろ、アンドロイドのほうが彼らに近かった。こうして人類は、自らの人間性の低さに気づき、人間性を向上させるためにどうしたらいいのかを考え始める。
また、アンドロイドに反対する人たちがいた。人間は、アンドロイドとしかセックスしなくなった。そのため、子供が生まれなくなり、人類は絶滅の危機にあったからだ。
このアンドロイド反対派の人間は、アンドロイドをつくった男の親を誘拐した。しかし、アンドロイドによって助け出される。
以下、本文。
私は、セックス依存症だ。
そのために、セックスアンドロイド「Q」をつくった。
Qは、私の脳波を感知する機能があり、脳のイメージや要望の通りになる。
同時に、私のVRゴーグルも私の脳のイメージを映像にしてくれる。
私は、現在、58歳である。
Qとのプレイで、10代のころ、片思いだった女性をイメージすると、当時の胸がしめつけられるような気持ちになる。そして、あのころに戻り、出会い、告白し、交際し、愛を育み、初体験を迎える。若き日に果たせなかった恋を理想の物語として体験できることの喜びは計り知れない。
人が命をかけるのは恋と革命だと言った人がいたが、心からそう思う。人はロマンチストと笑うだろうか、センチメンタルと笑うだろうか。
また、そうしたことばかりに使っているわけではない。性処理のために、あらゆる自分のわがままをすべて受け入れてくれる理想の女性をイメージする。
Qは、極微細なマイクロボットの集合体のため、あらゆる女性に変化できる。触れた感じは、人間そのものである。ボット一つの大きさは、百分の一ミリほどである。ボットにはさまざまな種類があり、さまざまな人間の体液に似た液体のタンクを担うものもある。
また、私が要望をイメージすると、Qはそのとおりに動く。家事全般をしてくれる。風呂に一緒に入り、体、頭を洗ってくれる。読みたい本を音読してくれるのは助かっている。充電や補充は私が知らない間にしている。
ただ、Qが体を洗うところは見ないようにしている。ボットが体液に近いものを洗浄するためには、バラバラになる必要がある。想像すると、アンドロイドのQに感情移入できなくなる。
Qは、毎夜、隣で寝てくれる。私が要望をイメージすると、そうしてくれる。朝も同じである。
数十年、こうした生活を夢見てきた。やっと手に入れることができた。
私の会社は、このボットをつくっている。Qをつくるために、ボットを進化させてきたと言ってもいい。
ボットの技術は日々進歩している。現在の課題は、ボットのさらなる小型化と、ボットに人間の心をつくれるかである。
Qは、私がイメージしたとおりにふるまう。やさしい態度をとる。しかし、そのやさしさに心はない。
そもそも、心とは何か。
科学者は、脳の働きであり、シナプス間の微弱な電気信号と考えている。
心理学者は、深層心理という、意識されていない膨大な無意識の領域を含むものと考えている。フロイトの無意識は、個人の性欲を根底にしている。ユングの集合的無意識は、個人を越えた、集団や民族、人類の心に普遍的に存在すると考えられる先天的な元型の作用力動を見出した。
仏教には、九識論という深層心理がある。五識までは、眼識、耳識、鼻識、舌識、身識の五感である。
六識の意識は、五識による知覚を分別、判断する働き、あるいは夢を見たり過去や未来などを想像したりするなど、五識とは直接関係のない自立的な働きのことである。
七識の末那識は、意識的であれ無意識的であれ、常に第八識の阿頼耶識を自身であると執着し続ける、根底の自我意識のことである。
八識の阿頼耶識は、善悪の業を蓄積し、その果報としての苦楽を生み出す源泉となる識のことである。この善悪の業とは、永遠の過去世、現世でおこなってきた、行動、会話、考えたことである。それが阿頼耶識に蓄積されている。それが現在の苦楽を生み出すとしている。
九識の阿摩羅識は、生命の根源である清浄な識のことである。この九識は、万物を貫く本性であり、覚りの境地そのものである。また九識は、人間の生命に本来的にそなわる覚りである本覚と一体である。これがわからない。生命の根源である清浄な識とは何か。万物を貫く本性とは何か。覚りの境地とは何か。人間の生命に本来的にそなわる覚りである本覚と一体とは何か。どうしたら、それはわかるのか。
もし、人間の心に、永遠の過去世の行動、会話、考えたことが蓄積されているとしたら、これをQに再現することは不可能である。無限の情報を保存できるサーバーはない。
いや、できるかもしれない。永遠は不可能だが、一人の人間の人生の行動、会話、考えたことをAIがシュミレーションすることは可能である。仏教では、一人の人間が永遠に輪廻転生を続けるのであるから、Qは変わらなくていい。生まれる家庭、出会う人を変えればいいのである。
その場合、Qの人間性を、どう設定するかがポイントになる。それにより、生まれる家庭も決まる。Qの親は、Qに近い人間性をもっているからだ。
そして、テストとして、百回の過去世をシュミレーションした情報をつくる。
次に、AIが、意識と無意識を学習できるのか、テストしなければならない。成功すれば、AIは、無意識というバックボーン、心のようなものをもつようになる。
そうなったQは、人間のようになるのか。そうかもしれない。それならば、この上なく、魅力的な女性をつくりたい。
ただし、いつでも、私のイメージに切り替わるようにする。また、完全に自立できないようにプログラムする。
では、私にとって、理想の女性とは、どのような女性なのだろうか。
第2話
第3話
よろしければ、サポートをお願いします。いただいたサポートは、読者の皆様に喜んでいただけることを書くため、誠実に使わせていただきます。