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寝ジャズのお話 フロム盛岡[5]

双極性障害とリー・モーガン「リー・モーガンVol.3」

 僕は双極性障害だ。細かくは双極性感情障害と言い、躁鬱病とも言う。躁鬱病と言う名前がおどろおどろしいから人に話す時は双極性障害と言う。双極性障害の方が軽く感じる(個人的見解)し、カッコよく感じる(かなりの勘違い)からだ。でも説明するには躁鬱病のほうが解りやすいから結局、躁鬱病と付け加えたりもする。ちなみにこの病気になって20年程経つけど「鬱」という字を未だに書けない。あまり書く機会も無いが。
 あまりに波瀾万丈、紆余曲折、複雑怪奇、支離滅裂だから恥ずかしいし、面倒くさいし、思い出したく無いことばかりだから経過は書かない。。
 でも、小さなエピソードを一つだけ。  
 僕の躁の症状の一つに美術品が欲しくなるという訳がわからない奴がある(他も訳がわからないものばかりだが)。なんでも鑑定団に出る程高価なものを買うわけじゃないが、数万円するブロンズ像やレリーフ、メダルをヤフオクで数点落とした。全部、舟越保武という具象彫刻の第一人者の物。もったいないから一応リビングに飾ってあるが、眺めるたびに満足感と後悔が相まってしまう。言ってみれば瞬間的躁鬱混合。
 ある日、僕のもとに大きな平たいダンボールが届いた。それを見て「ああそういえば」と思った。同時に「やばい」とも思った。届いたのは一目惚れしてヤフオクで落としたロジェ・ボナフェというフランスの画家の絵画。12号もあるデカいもの。隠して置けるわけもなく、当然カミさんに見せなければならない。日頃寛容なカミさんもさすがに「またか」では済まない。「いくらしたの?」「5万」「どこに飾るの?」「…」「偽物じゃないの?」「…」。僕のその絵への愛情、欲求は既に皆無で事態収拾だけを考え始めた。
 車で5分程の所に画廊がある。家に届いてからわずか1時間後、ボナフェの絵は画廊にあった。「査定してからご連絡差し上げます」と言われ一旦帰宅する。査定の申し込みのペーパーに「入手先、売却理由」とあり、僕は「5年前、改築記念に貰ったが趣味が合わないため」と書いた。繰り返し言うが、ヤフオクで一目惚れし、落札し、さっき届いたばかりの絵だ。
 自宅で連絡を待つ。肉筆の自信はあった。何故か?躁状態だったから。何の根拠もない自信が湧き上がるのが躁状態なのだ。
 電話が来た。
 「7万5千円ではいかがでしょうか」
 手に入れた5万円の絵画は、2時間後に7万5千円の現金に変わった。
 全額カミさんに渡し、家庭内の暗雲はとりあえず消え去った。
 だが「これはオイシイ」と気分は高揚し、僕にはこういう目利きの才能があるのではないか、という勘違いが始まり、さらにヤフオクに手を出すことになる。希少価値がある(と思った)G-SHOCKやジャズのレコード、クラシックカメラ…。どれも万超え。

 これはごく小さなエピソード。
 躁鬱の闇は深い。

 久しぶりにこのエッセイを書いたのだが、やはり前段が圧倒的に長く、どっちが本題か分からない。どっちでもいいや。

 寝ジャズ。
 リー・モーガン「リー・モーガンVol.3」。ベニー・ゴルソンがプロデュースし、僕のアイドル、モーガンが躍動する名盤。ハイライトはやはり「クリフォードの想い出」。自動車事故で25歳で亡くなった天才トランペッター、クリフォード・ブラウンを追悼する名曲中の名曲バラードを当時19歳のやはり天才トランペッターが煌びやかな音色で泣けるほど切なく吹く。そしてその天才も33歳の若さで内縁の妻に射殺されるのだ。
 ジャズの闇も深い。

 おやすみなさい。

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