あおいぶるう🎶

元物書きもどき。ほぼ投稿のためだけのアカウント。訳ありで今は日の目を見ない運良く賞を頂いたいくつかの拙作、iBook・コミックシーモア等から販売されていた凡作等を投稿します。設定が古いものもありますが、何処かの誰か一人にでもご一読頂ければ。ジャズ中心の音楽に纏わるエッセイも時々。

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元物書きもどき。ほぼ投稿のためだけのアカウント。訳ありで今は日の目を見ない運良く賞を頂いたいくつかの拙作、iBook・コミックシーモア等から販売されていた凡作等を投稿します。設定が古いものもありますが、何処かの誰か一人にでもご一読頂ければ。ジャズ中心の音楽に纏わるエッセイも時々。

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【短編小説】きききの吊り橋

 ねえ、そのタイムトンネルを通り抜ければ、あの日に戻れるのかな。  汽笛に僕は意外なくらい驚き、電車はトンネルに入った。その驚きを静める間も無く明るさは戻った。トンネルは三つあって、どれも5秒位の短いトンネルだった。驚いたのは僕が少し緊張してたからだろう。車窓からの風景は、東西の低い山並みに挟まれた狭い町っていう感じ。小さな川が線路と並行して流れてる。手が届きそうなほど近付いた山々には5月初旬の新緑の中、川岸の所々に濃いピンクの桜が見える。東京はもう初夏だけど、ここにはまだ

    • 【小説】ブルーグレーの海 ( 1/3)

       1 朝の会  「ちゃんと起きられたんだ」  「当たり前だって。2回目だぞ、教育実習」  「知的障がいの学校が圭ちゃんに務まるかな」   「うるさい。実習の初日に気を重くさせるために電話をよこしたのか」  「励まそうと思ったんじゃん」  「一言も励ましになってませんけど」  「まあ、あっという間だよ、2週間」  「はいはい、優秀な亜紀様のおっしゃる通りだと存じます」  「子どもたち、かわいいよ。頑張ってね」  「ありがと」  かわいい…。想像がつかない。  第一、いまさら教

      • 寝ジャズのお話 フロム盛岡[6]

        Pacific DRIVE-INとハービー・ハンコック「処女航海」  鎌倉の七里ケ浜にPacific DRIVE-INというレストランカフェがある。やたらと国内旅行に出かける盛岡民だが、息子が東京に家を持ったせいもあり、年に何回も東京方面に出かける。そして時間を見つけては行くのが鎌倉。  そもそも憧れがあった。中学生の頃からサザンオールスターズの大ファンでライブに行った回数は数知れず、先日もロッキンジャパンのライブビューイングを観に市内の映画館に行って来たばかり。サザンと言

        • 【小説:盛岡】みえないさくら (3)最終章

          四 自己ベスト  次の月曜日には学校のソメイヨシノも満開になっていた。  健児は昼休み時間に進路指導室に行った。  「おう、田岡、珍しいな」  高田はカップラーメンを食べたらしく、部屋にはその匂いが漂っていた。  「先生、点字受験ができる情報処理系の学部がある大学を調べて欲しいんですけど」  健児は惑わずに言った。  「そうか、やっとこさ動き出したか」  「はい」  「で、どこ辺りがいいんだ。盛岡か?仙台か?それとも東京か?」  「どこでもいいです」  「よし、いい覚悟だ。

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        【短編小説】きききの吊り橋

          【小説:盛岡】みえないさくら (2)

          三 白杖  喜ぶべき招待だったのだろうが、それは飯坂の出現によって小さな波風が立ち始めていた健児の心にさらに別の方向から風を吹かせる結果になり、それ以来、健児は経験の無い心の重さを感じるようになっていた。ただ、普段からあまり口数の多いほうではない健児は、表面上いつものテンションをどうにか装うことができた。そしていくらか気分が落ち着くと二つのことが頭に浮かび、そしてまた憂鬱になる、ということを何度も繰り返す日々が続いた。  その一つは進路のこと。自分は何がしたいのか。漠然と嫌

          【小説:盛岡】みえないさくら (2)

          【小説:盛岡】みえないさくら (1)

          2006年 一 石割桜  北東(きたとう)北(ほく)や北海道の入学式に桜は無い。ましてや卒業式の時期に咲いていたら狂い咲きだ。  盛岡ではゴールデンウィークの一週間位前からやっと桜が咲き始める。盛岡盲学校にも、その薄い肌色をした新しい校舎を取り囲むように、毎年連休が始まる直前からソメイヨシノが見事に咲き出した。  健児は歌詞の中に桜が出てくる卒業の歌を聴いたり、音声解説付きのテレビドラマで入学式のシーンを観(・)たり(・・)するたびに、「卒業や入学に桜を重ねるのは、東京とか

          【小説:盛岡】みえないさくら (1)

          【小説】レフトアローン(第4,最終話)

          第19章 祷り  「主役が外れて大丈夫か?」と和哉が心配して聞いた。  「大丈夫。文香が上手くやってくれる」と言って隆次は先にパブを出た。それに付いて行く形で啄郎と和哉、知佳がパブを出て通路を挟んで向かいの店の扉の前に立った。店の名は「ミスティ」。ジャズのスタンダード曲の名前だが、まさにこれから隆次が何をしようとしているのか解らずに戸惑っている三人にぴったりの店の名だった。啄郎が「ミスティ」の扉を開いた。  狭い店でカウンターの他にボックス席が二つしかない。カウンターの向こ

          【小説】レフトアローン(第4,最終話)

          【小説】レフトアローン(第3話)

          第16章 泡粒たち 1988年  啄郎のアパートは仙台駅の北西、JR仙山線の北山駅の近くにあった。  新しめの綺麗なアパートで部屋はワンルーム、床が三角形だった。正確に言うと二つの隅が90センチほどの壁になっていたため五角形だったが大まかに見れば三角形でみんな「三角部屋」と呼んでいた。どれも狭いながらも部屋の外にキッチン、トイレ、風呂付き。当時流行り始めたフローリングで八畳ほどの広さがあり、黒電話が置かれた木目合板の机と肘付き椅子は何かの事務所風。レコード棚の上にコンポ。そ

          【小説】レフトアローン(第3話)

          【小説】レフトアローン(第2話)

          第8章 知佳(4)  知佳が講義を終えて廊下に出ると先日60年代と現代の学生の落差について質問してきた学生が追いかけてきた。  「先生、この前の話の続きが聞きたいんですけど」  学生の腕が知佳の腕に触れそうな位置に並んだ。  「ごめんなさい。もう少し離れて」と知佳は反射的に言った。  「すみません」と言って学生は大きく横に離れた。  学生はスマートな体型でハイヒールを履いている知佳よりも15センチ以上背が高く、180センチ以上はあった。美男子で黒目が大きく澄んだ瞳をしていた

          【小説】レフトアローン(第2話)

          【小説】レフトアローン(第1話)

          序章 卒業  1989年  春彼岸の頃、晴れた日の仙台から見える遠い山々は薄紫に見え、雪を頂く白とのコントラストが空の青や雲の白と美しく溶け合っていた。街には時折生暖かい風が吹いた。広瀬川には白鳥が北帰行の途中に羽根を休め、畔や土手に蕗の薹や蒲公英の花が見られる季節になった。  咲山琢郎(さきやまたくろう)は近い日に去ることを惜しみつつ、仙台の気持ちいい季節を感じていた。  広瀬川に程近い青葉学院大学の卒業式は、例年通りキャンパス内の大きな体育館で行われた。比較的学生数が少

          【小説】レフトアローン(第1話)

          【短編小説】スローボール

          もう少し曇り空がよかったが、盛岡は晴れ渡っていた。 「山ってさ、天気がいいと、遠ければ遠いほど青いんだね」 盛岡駅近くのレンタカー屋で借りた白い小型車の助手席で真(ま)紘(ひろ)が言った。 「そうか?」 「そんなこと知らないで生きてきたよ」 車窓から吹き込む空気は、四時間前までいた東京の朝のそれよりも涼やかだ。遠く見える岩手山の青は、空の青とほぼ同じ色で、中腹付近まで残っている残雪が、その境界線を引いている。新幹線からはところどころに見えた、田植えを終えたばかりの水

          【短編小説】スローボール

          第1回ケータイ文学賞大賞【短編小説】解氷

          恋なんて、まして結婚なんて私には全く必要ない、ていうか、想像すらしなかった。本心。だって今の私は幸せ一杯だから。そう、本心。 でも私には彼がいる。しかもプロポーズされた…。 出会いはドラマティックでも何でもなく、居酒屋での合コン。盛岡が一番寒く、雪も多い二月だった。その夜は雪がちらつくうえに、特に冷え込みが厳しく、外を歩いていると顔が凍るように感じて、繁華街の大通りを走るタクシーもタイヤを滑らせながら走っていた。 私たち「たんぽぽ学園」の女性職員と岩手県庁の男性職員、四

          第1回ケータイ文学賞大賞【短編小説】解氷

          点描の唄 Mrs.GREEN APPLE

           ある音楽イベント※でMrs.GREEN APPLEの「点描の唄」を聴いた。あまりに感動的なバラードで泣いた。音楽を聴いて泣いたのは何年振りだろう。  イントロ。  これから感動的なストーリーが始まる予感をイメージさせる静かなピアノのアルペジオが繰り返される。隣の薄緑色のタオルを持ったミセスファンの女性が「点描?ヤバ」と言った。僕には意味が解らない。約2万人の観客の驚きと喜びの歓声が湧いた。「キャー」という甲高い声も大きく響く。  終演後に知ったのだがこの曲がライブで演奏され

          点描の唄 Mrs.GREEN APPLE

          【連載小説:盛岡】 十八のモラトリアムの三月に (4)最終回

          7   USBメモリ  私が目を覚ましたのは、数日前に灯野君がいた、アパートの目の前の県立中央病院だった。点滴と輸血をしている。集中治療室じゃなくて、ナースステーションの近くの普通の個室だ。輝ノ実が点滴している手を握ってくれている。  「美園、大丈夫だよ」  輝ノ実が優しく声を掛けてくれた。  「すいかの病院で応急措置してもらって、救急車でここに来たの」  「そっか」  「運が良かったって。ここの先生が。内臓には達してなかったけど、出血が酷かったから。ほら、あの病院、リスト

          【連載小説:盛岡】 十八のモラトリアムの三月に (4)最終回

          【連載小説:盛岡】 十八のモラトリアムの三月に (3)

          5 キャッチャーフライ  翌日、気温は20度を超える予報だ。  私は朝からシャワーを浴びて、昨日買ったスキニーパンツに白いポロシャツ、白いスニーカーにキャップという、シンプルながら気合いを入れたファッションで、夕べネットで調べた岩手県営野球場に向かった。風は爽やかで、寒さは全く感じず、心地よかった。  片側2車線の国道4号線を横切ると、そこには真新しいトンネルがあった。結構長いそのトンネルを抜けるとあっという間に野球場らしき照明塔が見えてきた。自転車置き場に自転車を止めて、

          【連載小説:盛岡】 十八のモラトリアムの三月に (3)

          【連載小説:盛岡】 十八のモラトリアムの三月に (2)

          三 メンタルクリニック  入学式の4月8日が来た。私はほとんど眠れずに朝を迎えた。  「今年の美園はいいわね。桜が2回見られる」  いったん東京に帰り、入学式に出席するために仕事を休んで来たお母さんが言った。入学式は大学ではなく、岩手県民会館で行われた。  いよいよ、藤代灯野君に会えるかも知れない。  ホールに入る前に輝ノ実ちゃんからメールが入っていて、満員に近いホールの中でも簡単に会うことができた。  「さすが、美園ちゃん。センスが違うわ」  「えっ、普通だよ。輝ノ実ち

          【連載小説:盛岡】 十八のモラトリアムの三月に (2)