ブラック企業に勤める社畜の日常④(超ショートショートまとめ)
上司の説教が30分を過ぎた頃、三浦俊の視点は上司の目から手元に下がっていた。
それは克己心が失われる兆候だった。
克己心を失った労働者は、たちまち奴隷に成り下がる。と三浦俊には思われた。
三浦俊は(ちゃんと落ち込め)と自身に言い聞かせ、涙を絞り出した目を上司に向け直した。
〈三浦俊のプロフィール〉
毎月の残業時間が過労死ラインを優に超えている。
この事実だけが三浦俊の誇りになっていた。
無能という自己認識を和らげるのは、長時間労働に耐えている自負だけであった。
なので「業務効率化で残業を減らせ」と命令されたとき、三浦俊は自身の無能さを贖罪する手段が失われる気がした。
乗り物が使命を果たすために走っている。
タイヤのボルト達は振動に耐えながら摩耗していく。
ボルトの内の1つは、溝が鈍磨してタイヤから抜けかかっており、使命に役立てない無力感に苛まれている。
乗り物の使命が、操縦者を競争に勝たせ喜ばせることだけとは知らずに。
【過労死に関する情報まとめ】
□過労死とは
過労死等防止対策推進法(第二条)では、『過労死等』について次のように定義されています。
・業務における過重な負荷による脳血管疾患(脳出血、クモ膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症)を原因とする死亡
・業務における過重な負荷による心臓疾患(心筋梗塞、狭心症、心停止、解離性大動脈瘤)を原因とする死亡
・業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
・死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患・精神障害
参考:過労死等防止対策推進法 | e-Gov法令検索
参考:残業の過労死ラインは何時間?弁護士がわかりやすく解説 | 労働問題の相談はデイライト法律事務所
□過労死ラインとは
『過労死ライン』とは、厚生労働省が設ける「死亡と業務の関連性が強くなるとされる業務時間の基準」であり、労災認定基準とも呼ばれます。
具体的には、下記の条件に当てはまると「過労死ラインに達している」といえます。
・1ヶ月の時間外労働および休日労働が100時間以上
・2~6ヶ月の時間外労働および休日労働が平均80時間以上
参考:過労死等防止啓発月間
深夜のオフィスに水音が延々と響いている。
三浦俊はコーヒーメーカーの注ぎ口に置いたコップから溢れ出ている眠気覚ましのコーヒーを傍観していた。
指は痺れながらもボタンを押し続けるのをやめない。
コーヒーはコーヒーメーカーから床に零れて水溜まりになっている。
靴が濡れている。
社畜が濁流で溺れている。
原因は仕事という川の氾濫だ。
この話を聞き、事情を詳しく知らない者は呆れた。
「放水量をコントロールしないからだ。ダムを機能させないと」
事実、社畜のダムは機能していない。
しかしそれは仕事の源流の過剰な勢いによって、ダム自体が決壊しているからだ。
駅のホームが朝日でビカビカと照らされている。
三浦俊は寝不足の影響で瞼が震える度に、鋭い光に目を眩ませていた。
反対側のホームにいる人々は逆光で陰っている。
轟音と共に通過する急行電車。
乗客の残像と反対側のホームの人々が光の中でかき混ぜられる。
三浦俊は吐き気を覚えた。
【ブラック企業の概要と特徴】
□ブラック企業とは
ブラック企業とは正式な定義付けはないものの
「従業員を違法または劣悪な労働条件で酷使する企業」とされています。
□ブラック企業の特徴
労働者に過剰な労働時間、業務量、ノルマを課す
休日が少ない・ない
有給申請しても認可されない
時給換算すると給料が最低賃金を下回っている
サービス残業が横行している
会社が労働者を管理職として扱い、残業代を支払わない・休日出勤をさせるなどする。※労働基準法第41条2項では「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」に対して、【労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しない】という一文があります。
みなし残業制(固定残業制)を悪用している
変形労働時間制を悪用している
離職率・休職率が高い
不当解雇・退職勧奨が起こる
募集要項に「アットホーム」「やる気」「情熱」などの単語がある
パワハラ・セクハラが横行している
精神論が多い
やりがい搾取が行われる
上司・社長の意見が絶対視される
強制参加のイベントがある
労働者が仕事のために使ったお金が経費扱いにならない
常に大量採用を行っている
罰金制度がある
労働組合がない
参考:ブラック企業について
参考:ブラック企業とは|ブラック会社の特徴10個と見抜くポイント
参考:ブラック企業とは?特徴や見分けるポイントを解説 | 給与計算ソフト マネーフォワード クラウド
参考:ブラック企業の全特徴16選 | 体験者に聞いた会社や職場の問題点と対処法 | キャリアゲ
ブラック企業は度々、新入社員を精神的な筋トレマニアに仕立て上げる。
困難を乗り越え成長する楽しさを説き、過重労働を正当化しようとするのだ。
やがて疲弊により能力は痩せ衰える一方であることが明らかになると、今度は新入社員を新しい顔のない精神的なアンパンマンに仕立て上げる。