承認欲求に支配された三十路女の日常②【超ショートショートまとめ】
Xで「今から上げる画像すぐ消す」と宣言して、谷間をアップした画像をポストした。
時間制限をしていただけあって、すぐにリアクションが返ってくる。
「眼福」や「保存完了」などの返信を一通り読み終えると、私は宣言通り、投稿したポストを削除した。
ただし、「今から上げる画像すぐ消す」の方を。
〈堀田絵里のプロフィール〉
寝坊して大急ぎでベースメイクだけはしようと洗面所の前に立った瞬間、自分がブス過ぎて「あ、会社休もう」と呟いた。
しかし、前髪をヘアアイロンで焦がしても学校を休まなかった記憶を掘り起こし、うずくまって呻き声を上げた後、私はマスクと眼鏡をかけて家のクソ重いドアをこじ開けた。
大盛りご飯の頂上に窪みを作り、卵を割った。
すると中から黄身が2つ出てきて、窪みに収まらずにご飯の山を滑り落ちた挙句、どちらも床で潰れた。
卵に混じった埃が黒っぽくなっている。
双子だったのに、もうSNSも無理だ。
時刻は深夜3時。
台所の明かりだけが照らす部屋で、私は声を出さずに悶えた。
あらゆるものを自分の飾りにしてしまう。
知人のペットに「可愛い!!」とはしゃぐのは、 そんな自分を可愛いと思ってほしいから。
募金をするのは難民の子供たちのためじゃなく、 『募金をした』ステータスがほしいから。
善いものも美しいものも、私は着飾る。
全身にジャラジャラと。
書類の端で指を切ってしまった。
すぐに同僚たちが消毒液や絆創膏を手に集まってくる。
「うわー結構いきましたね」
「手を上げといた方がいいよ」
「いや、逆に血を流した方が……」
皆が私に構ってくれている。
私はSNSで「手首を切った」と報告する女の子の気持ちが分かった気がした。
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