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【SSF】キノコ生えてきた

朝目覚めると、右腕にしめじみたいなできものが生えてる。

びっくりして二度見をした。

触ってみると本当にしめじのようで、
特に痒みも痛みもない。

その日はリモートワークだったし
病院行くのも面倒くさいし、
特に見た目以外の弊害はなかったので
放っておいた。
お風呂に入ると水を弾きながらプルプルするので、ちょっと楽しい。

二日目の朝、しめじのようなできものは
二本に増えていた。
流石に恐怖を感じたが、
その日は有休をとっており、
せっかくゆっくりと休もうと考えていたので
病院に行かずに放置しといた。

ソファーでくつろぎながら
指先で二本のしめじを軽く弾いて遊ぶ。
本当にしめじみたいな弾力だ。
なんだか少し愛着が湧いてきそうで怖い。

とりあえず明日は病院に行こうと決意した。

三日目の朝、なんと今度はおでこに大きな松茸サイズのキノコ状腫瘍ができている。
これには流石に焦ったが、逆に恥ずかしすぎて外出できない。
救急車を呼ぶべきだろうか?でもなんて説明するの?
と、あれこれ考えているうちに強烈な眠気がおそってきた。

目覚めたらもう翌朝になっていた。
社用携帯には何コールもかかってきた形跡がある。
と、スマホを手にした左腕をチラッとみた瞬間、社用携帯を投げ出してしまった。
左腕にもしめじに似た腫瘍が10本は生えている。

流石に危機感を覚えた。
とりあえず上司には電話で謝罪し、体調不良が続いている旨を伝えて休ませてもらった。
次に救急車を呼ぼうと画面をキーボードに切り替えた瞬間、またもや強烈な眠気が襲ってくる。

気がついたらまた次の日の朝になっていた。
今度は足に違和感を覚える。腕の比ではない。
太ももの付け根から、足裏までびっしりと小さなしめじに覆い尽くされていた。
僕は過呼吸に陥ったような言葉にならない声を発していた。
もう会社には行けない。上司に連絡し、退社の意向を口早に伝え、退職代行サービスを手配するところまで捲し立ててガチャギリをした。

今度こそ本当に救急車に…。
また意識が遠のく。

一体、どれくらいの時間が経ったのか?
幸いにもスマホは充電しっぱなしだったので
日付を見るとすでに2週間近くが経っていたらしい。

背中にも顔にも耳にも臀部にも
妙な重みと異物感がある。
瞼は指でこじ開けてなんとか視界が確保できるかといったところだ。

恐る恐る姿見に目をやると
この世のものとは思えない異形、
まさにジャンボしめじと呼ぶにふさわしい
ところどころ松茸サイズのキノコも生えた
化け物の姿がそこにはあった。

全身の力が抜け、自然と嗚咽が漏れた。
溢れる涙が止まらない。

どう、して、こんなことに…、ックっングっ

─ と、その時だった。

急にバタバタバタバタっ!!という音がして
身体中のキノコが肌から離れて、床に落ちていった。
さっきまでの身体中の違和感は一気になくなり
脱皮したような爽快感さえ覚える心地よさ。
試しに全身の肌をくまなく撫でて確認してみるが、異物デキモノひとつもなくツルツルしている。

良かった…本当に良かった…と
とてつもない安堵感とともに、またも嗚咽が込み上げてきた。
ひとしきり泣いた後、僕はキノコだらけになった床一面を見渡した。
見た目は完全にキノコである。
そして、ここ何日も何も食べてない。
不思議なことにトイレに行きたいとも思わなかった。
とにかく強烈な眠気がひたすら襲ってきただけだった。

体は正直で腹は鳴る。
買い物に行くのも億劫だし、
周りにはうまそうなキノコだらけだ。

ジューウ、ジャワワワワー

バターを敷いた熱したフライパンの上で
先ほどまで体の一部だったキノコ状のできものが、いかにも美味そうな音を奏でながら踊っている

「ガチのマジでキノコじゃん」

思わず独言した。

味付けはシンプルに醤油と七味。
マヨネーズも念の為に用意した。

最早皿の上には美味そうなキノコのソテーにしか見えない元腫瘍たち。

腹を括って箸を伸ばす。
目を閉じてエイヤッと一束を口の中に放り込んだ!

「うまい!!」(テーレッテテー♪

なんという芳醇な薫り!
桜の木で燻したような少し燻製のような香りが鼻腔を通り抜ける。
そして味はキノコではあるものの、
どこか高級ウインナーのようなジューシーさと弾力が口の中でオーケストラを奏でている。

こんな美味いもの、今まで生きてきた中で初めてだ。
これまでの苦労を振り返ることや
しめじが生えてきた理由を考えることも
忘れ、ただ無我夢中で目の前のキノコソテーを
頬張った。

と、大半を平らげたところで
社用携帯が鳴る。
「あ、ヤバい!あれから相当時間が経ってたんだ!なんて説明したらいいんだよぉ!」
と急に頭を抱える羽目になったのだが、
またもや眠気が襲ってくる ─。

スマホから目覚ましの音が聞こえる。
ガバッと布団から飛び上がり、
自分のスマホの目覚ましを止めて
社用携帯をすぐにチェックしようとした。

「アレ?」

日付が2週間以上前に戻っている。

いや、正確にはあれから時が経っていない?

あ、

えっ?

あー、

夢?だった?


なーんだよ!この夢!
いやー、マジ焦ったわ!

確かに昨日の夕飯にキノコのソテーを作って食べたのだった。
だからって、そんなことでこんな変な夢を見せなくたっていいだろ?と
誰に対してというわけでもないが、少し憤慨した。

結局、昨夜作ったキノコソテーが余っていたので、あまり気分は良くないが、朝食でそれらを処理することにした。

軽くレンジでチン!
腕をぽりぽり掻きながら温まるのを待つ。

ホッカホッカだが、やや萎びたキノコソテーが姿を現した。

皿を増やすのが面倒なので、
その上に白飯をドンとよそおい、
一気に口の中にかき込む。
ムシャムシャ、キノコの歯触りは…。

痛っ!いってててて!
腕に噛まれたような激痛が走る。
咀嚼を止めて腕を見やると
無数の歯形が、まるで紋様のように
その肌を染め上げていた。



SSFとはScience spiritual fictionの略で作者の造語


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