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実りの収穫


 この夏には、トマト、オクラ、キュウリ、ナス、枝豆、ゴーヤと素人ながらもどうにか、実を得ることができた。
ただ、肥料や水、薬剤、身体を動かした手間などを考えると結構な高級野菜となった。
 花が咲き、実がなり、だんだんと大きく育っていく姿を見ると喜びも増し、疲れも吹き飛んでいくと感じる。

 今年の春にさつまいもの苗を5本もらった。
肥料も何もいらず十分に大きくなるということだったので、あえて何もしなかった。
ところが、手間をかけている他の野菜より、よっぽどツルや葉っぱが大きく成長する。
いつの間にか庭中が青々とした葉っぱでうめつくされた。しかし、これだけ勢いよく成長しているということは、地中の芋もどんどんと大きくなっていると思うと、ツルを切ることにはさすがに躊躇した。
ツルの先は壁を這い上り、小さな庭も覆いつくし、このままでは家が覆われるのではないかと思うぐらいになった。

 もう、いい加減切ってもいいのでは、と思いながらもつづら成りになっている芋を想像すると、まだまだとやはりここでも欲が出てくる。
さて、どうやって食べようか。やっぱり、定番の焼き芋にしてバターを塗って食べるのがうまそう、いや、芋ご飯にしてもいいなあと想像はつきない。

 ようやく、10月となった。
ニュースでも収穫の画像が流れ始め、子供達が両手で大きな芋を引き抜いている。
こちらの狭い庭はとっくに地面は葉っぱで見えなくなっている。
一か所でも試しに掘ってみようと、もう気があせって仕方がない。

 満を持して土を掘る。
芋を傷つけないよう優しく手で掘る。掘る。
根が見えた。ここからだ。
続けて優しく掘る。結構根が長い。心なしか芋の匂いがする。いよいよだ。
もう宝探しの感覚だ。いつ出る、いつ出てくると、もう期待がマックスに達する。
焦る思いを押し殺し、なおも優しく掘る。
『ん、えらく深い所に成るもんだなあ、まだ出てこない』
まあ、芋堀りなんぞもしたことがないので、こんなもんかと思いながらも掘り続ける。
が、とうとう根が無くなってしまったところまできた。
無い?微塵の芋も一つも無く、土ばっかりである。
んな理由はない!こんなに茂っている葉っぱがあるんだから、掘る場所が違うんだろうと次の茎の下を掘る。
今度は多少荒っぽく掘る。
が、茎から下に伸びている根が長く続いてはいるが、肝心の芋はどこにもなく、やがて根が途絶える。
『え~なんじゃこれ!』
せめて芋らしきものでもと思ったが、全くなかった。
鍬ですべてを掘り起こすが芋のイの字も出てこない。あるのは、ツルと葉っぱだけ。
力がワナワナと急になくなってくる。
 ここ掘れワンワンと『花咲かじいさん』の話の中で、いじ悪じいさんが掘ってガラクタしか出てこない場面にそっくりだ。いや、ガラクタさえ出てこない。
 一つの根をよくよく見ると、多少根が太くなっている所がある。これが実になるわけ?しかし、その他の根にはその兆候すらもない。掘るのが早かった?

苗をくれた友人に直ぐ電話する。
「え~、一個もなってない?ツルボケかあ、それでもツルと葉っぱが食べれるでしょう」
なに?芋でなくツルを食えと?
お百姓さんは、タダでは起きんなあ!
さすが収穫の秋。

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