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創元推理文庫名作ミステリ新訳プロジェクト『二人で探偵を』アガサ・クリスティ

トミー&タペンス『秘密組織』に続くシリーズ第二作目が新訳で出版されました。一作目はクリスティの小説のイメージとはちがう、若さやあぶなかっしさにあふれたとても楽しい小説でした。ポアロやマープルの有名な小説は全部を読んではないのですが大好きな小説が何作もあります。人間それぞれにプライドがあり、その一方でひた隠しにしている欲望もあります。その欲望が隠しきれない状態になったときに、勝敗を分けるのが人間の格であることがわかってきます。トミー&タペンス物はそうゆう重苦しさから全く逆の古いしきたりから逃れて生きていく人間を描いています。私の勝手な保守的なクリスティのイメージを覆す、1940年代当時では進歩的な考えを持っていたという感じがしました。女性の小説家として活躍していくのは大変だったんだろうな、クリスティの隠し持っていた意地みたいなものがにじみ出てくるような気がします。

『二人で探偵を』にはいろいろな探偵の名前が出てきます。シャーロック・ホームズ、ソーンダイク博士、蟹足男、盲人探偵ソーンリー・コールトン、ブラウン神父、ガブリエル・アノー、フレンチ警部、探偵小説家ロジャー・シェリンガム、ドクター・フォーチュンなどです。私が読んだことがあるのはシャーロック・ホームズのみなので、どれくらいそれぞれの推理方法をまねているかわかりません。ですが、そんこと関係なく二人の活躍をたのしむことができる短編ばかりです。なかには犯罪ですらないようなエピソードもあり気軽に読むことができました。前作から数年立って二人に倦怠期が訪れるようすも伺え、最後にはペタンスが二人の子供を身ごもるところで終わります。短編集のなかにもそんな二人の関係の変化を読ませてくれます、そこら辺はさすがクリスティだなと感じました。

私がいちばんおもしろいと思ったのは「アリバイ崩し」です。まずはクロフツ警部物から読んでみよう、そんな風に思わせてくれる短編集でした。

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