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破壊された地球3部作『第五の季節』『オベリスクの門』『輝石の空』N.K.ジェミシン

本の紹介文「数百年ごとに〈第五の季節〉と呼ばれる破局的な天変地異が勃発し、文明を滅ぼす歴史が繰り返されてきた・・・」に惹かれて読んでみました。読んだ後には、いまのうちにもっと月を愛でておこうと思うことができる小説です。

N.K.ジェミシン著
小野田和子訳
破壊された地球三部作『第五の季節』『オベリスクの門』『輝石の石』

物語が進むに連れオロジェンというオロジェニー特殊能力をもつ人種がどのくらいすごい力を持っているのがわかっていきます。そして、第五の季節という文明を滅ぼす災害が起きるのを防いだり遅らせている仕事をさせられているのにもかかわらず、彼らが生まれながら差別され、監視されているのも。オロジェンは多くを語らないというか必要なことも話さない。それは常に緊張状態にいるのもあるし、だれにも理解されない孤独のなかに存在しているからだ。彼らの心のなかに隠し持っている悲しみがものすごく伝わってきます。その対比として登場する海賊イノンの明るさ、アライアの役人アザエルのずるさのなんと人間臭いことか。

物語は娘をさがす中年の女性エッスン、フルクラムの指示でオロジェニーを使って各地で業務を行う女性サイアナイト、フルクラムでオロジェニーを制御できるように訓練を受ける少女ダマヤの話が順に語られていきます。その3つの物語が徐々に繋がっていく展開がおもしろい、ミステリー要素というほど大げさではないですが納得・腑に落ちるというかとにかくおみごとな語り方です。

そして、驚愕のラスト。都市を一瞬にして消滅させるオロジェンのちからを見せつけられる戦闘シーン。それまで静かに語られていたため余分にその力の大きさを思い知らされます。

ホアやトンキーといった魅力ある人物の謎が徐々に溶けていきます、そしてまだ残っている石喰いについての謎。フルクラムという組織がどのような意志をもっているのか。オロジェンと守護者の戦いは始まったばかりですし、隠れているオロジェンの中にはもっと巨大なオロジェニーを持っているものもいるのではないか。

たくさん出てくる鉱石の名前。黒曜石のナイフ。珊瑚の障害物。マシシというアクアマリンの最高級品。ガーネットのオベリスク。赤ダイヤのかけら。アレキサンドリアの原石。閃長石サイアナイト。雪花石膏アラバスター。巨大な水晶をくりぬいた地下室。翡翠と真珠貝の指輪。アメシストのオベリスク。尖晶石スピネルのオベリスク。鉱石にくわしいとより面白くかんじるかも知れません。

『第五の季節』は旅の物語だったが、一転してコムに定住していくことになる。エッスンが地下都市カストリマで出会う女長イッカとの対比がおもしろい。エッスンは夫・娘に逃げられ、旅のお供は石喰いホア一人だけ、生きる目的は娘に再会すること。一方イッカはオロジェンであるのに関わらずコムを存続させるために仲間とともに力強く生きて行っている。その違いはエッスンの強力すぎるオロジェニー能力と虐げ続けた人生に起因すると思います。本当は普通の家庭を築きたかっただけなのに、オロジェニー能力が高すぎるためとフルクラムでの洗脳に近い教育を受けてきたため地球の存続の鍵を握る人物なってしまう悲しい人生がひしひしと読み取れます。

地球が滅亡するか復活するか、地球上のあらゆる生き物にはどちらを選ぶかという意志は無いように思います。地球自身も決めかねている、滅亡したほうが良いのか存続したほうが良いのかを。だから石喰いのメッセージも受け取るオロジェンによって受け取り方に違いがでてきているのだろう。地球の存亡を決めることができるのはエッスンとナッスンのみ、ここにも二人が究極の孤独感を感じなければならない理由があります。

最後の戦闘シーンは前作『第五の季節』をはるかに越えるスケールがものすごい。想像力を最大に発揮して、その美しく残酷な物語に浸ることができるのは大変幸せだ。

エッスンは仲間とともにユメネスへ向かう。その旅は希望のない、いずれは迎える絶滅を少しでも先延ばしにするだけでしかない。コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』を彷彿とさせる世紀末の旅。その旅でエッスンはカストリマのみんなと仲間になる、彼女の人生で初めてのことだ。ミオブで海賊と一緒に生活したことはあった、でもその一瞬の幸せはオロジェンであることで終わってしまっている。エッスンの心境に変化が出てきている、娘ナッスンを探し出すだけでは無く仲間や人類そして地球を助けるためにオロジェニーを使おうと。

一方、ナッスンは絶滅した文明の造った地下鉄で地球の裏側に向かう。それまでに父親に弟を殺害され、過去を隠し続ける母親から逃げ出し、最後には自ら父親を殺害してきた。なにもかも奪われ続けてきたナッスンが初めてシャファを愛することができた。そのシャファも地下鉄の旅で失いかけていく。ナッスンはシャファを痛めつける地球を破壊することに決心する。

エッスンとナッスンの戦いはエッスンが操るオニキスのオベリスクとナッスンの操る27のオベリスクの戦いだ。オリベスクから発せられる光・エネルギー・波動が感じられる、すざまじい破壊力があることが伝わってくる。2人のそれまでの人生で抑圧されていたものが一気に爆発的に表に出ていく感じが表されている。暴力的なだけではなく美しさもある戦い。戦いの途中でナッスンはエッスンが以前の母親ではないことに気付いたに違いない、それによってナッスンも破滅から再生へ考えが変わっていったのだろう。

ラストでナッスンは地下鉄でスティルネスへ帰るのを躊躇するシーンがあります。ものすごい戦いのあとですぐに結論をだすのは難しいと思います。ですが、なんとか希望を持って生きてもらいたい、でないとこの話は悲しすぎます。



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